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ひとりと、ひとつ。

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「あ……」
 一緒にいた華奢な男が声を出した。つられて顔を向けるとケータイショップがあった。
「そろそろ夏モデル、出ますよ」
「そうだね」
 俺は歩き出す。彼も勿論付いて来る。
「NEWモデルだと新しい機能もついてるし、格好いいのあると思うし……。あ、流行りのスマートフォンとか良いと思うんですよね」
「ふぅん」
「機種変しないんですか?」
「しないよ」
「そろそろ2年経ちますよ」
 まるで興味のない俺に、彼は淡々と告げる。
「でも困ってないから」
「電池とか減り早いし……」
「今度電池パック交換してもらう」
「でも、新しい方が使い勝手が……」
「俺は手放す気なんてないよ」
 前までは、電話と時々メールを使うだけだった。ケータイには他にもいろいろな機能がある。教えてくれたのは彼だ。
 彼は無口になる。ケータイショップは遠ざかっていく。
 俺も、何も言わなかった。
「雨、降るみたいですよ」
 ぽつりと彼が言う。
 俺たちは駆けだした。
作品名:ひとりと、ひとつ。 作家名:深川ねずみ