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looser / アジアンタムブルー

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asterism / ep.04 - non aggression / Izaya and Shinra


 透明な沈黙をすごせる人々。

 館内の防犯センサーは侵入経路と照明系統のみの単純構造。
 そう言って出入り口のドア付近から全面張りの窓の近くまで壁や天井をチェックしながらひととおり歩き回ってきた臨也に、新羅がぴらっと携帯のディスプレイを見せた。
 「まぁいいじゃない。バイト上がり次第来てくれるって言ってるし、それまでさ」
 「観たいドラマがあったんだよね、すごくつまんないやつ」
 「セキュリティがきてもいいって臨也が言うなら僕は何の反対もしないよー?」
 受信したメール画面を映していた液晶のバックライトの段階がふっと落ちて薄暗くなる。新羅はその携帯を机の上に置き、立たせた厚い本の背表紙に引っ掛けた指先を動かした。
 「早く帰れるに越したことはないんだしねえ」
 「あれ?新羅ってば知ってるの?此処に飛んでくる警備会社のこと」
 机を挟んで新羅の斜め向かいのイスに座り、臨也はいろいろ面倒くさいんだよねぇとぼやく。二人以外に誰もいない図書館内は、それこそ月明かりとグラウンド脇の外灯くらいの光源しかなく、休み時間以外にもそれなりに賑わっている様子など嘘のように静まり返っていた。吐く息が白くなりそうな寒さと、限られた空間の閉塞感の中に、こつ、こつ、と机にぶつかる本の音が立つ。
 「僕が知っているのは日頃の行いが大事ってことだけだよ?」
 やわらかい針山で突くような新羅の物言いに、臨也は上着を広げ、大袈裟な態度で肩を竦めた。そんなに怒んないでよ怖いなぁ、なんて言いながら楽しそうに笑って机の上にべたっと伏せる。そうして首に巻いたマフラーに埋もれる狡猾で嘯くことに長けた口は二言目には、暇だ退屈だ死んじゃうと語りだして、彼はため息を漏らした。
 「じゃあ、退屈にならないように何かすればいいじゃないか」
 「えー?具体的にはー?」
 「それは君が自分で考えるの」
 退屈を有意義にするか無意義にするかなんて、その人間次第。
 体よくあしらわれ、幼稚園児のように臨也が駄々をこねる横で新羅はしれっと暗くなってしまった外を眺める。
 この事の成り行きは単純明快だった。
 図書館内の一番奥にある一般生徒立ち入り禁止の書庫室に入った男子生徒2名が、次に書庫室の外に出たときにはすっかり閉館時間を過ぎていて、館内の本ともども仲良く缶詰にされたというのである。
 「………、…もう何だい、臨也」
 不意に新羅の目の前を彼が遮る。
 机の上にだらしなく伏せたまま、マフラーの絡んだ手が眼鏡に触った。
 新羅は少し身を反らせ、眼鏡を取ろうとする手から逃れる。
 「こういう空間でなおかつこういうシチュエーションにあった場合さぁ、両者に相互の心理的拒絶がないのなら、それまで築き上げてきた日常生活の距離をこえた接近ってしやすくなるよねえ?」
 「なるんじゃないかな、一般的な人間の心理なら」
 「一般的!……あーあ、駄目か、やっぱりつまんない」
 「どういう意味かなー?」
 目に見えない腹の中に手を突っ込んで認識し合う前から出ている結論。
 「ねぇ新羅、」
 臨也は持ち上げた腕をぺたりと消しゴムのカスが残る机に下げる。
 「ちょっとだけ疲れた」
 「はいはい、おやすみ」
 「疲れたから寝る、とか、子供の発想」
 「だって17歳の子供だし」
 「どっちのこと言ってんの?」
 「お互いじゃないかな?」
 携帯で照らしながら読もうとした本は早々に諦め、キーをいじろうとしていた新羅が視線だけ臨也に流す。その険のない小さな笑顔を、臨也は目だけで見上げ、何も言わなかった。

 どこかがゆるんでしまったおもちゃみたいに彼は目を閉じ、そして彼は外を眺める。