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looser / アジアンタムブルー

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asterism / ep.05 - freestance / Kyouhei and Shizuo


 無色の沈黙でいられる人々。

 静雄が急に喋らなくなって、京平はロッカーに施錠しようとした手を止めた。
 どうした?と問い掛けると、いや何でもねえ、と脇のロッカーに寄りかかってしゃがんでいた静雄が返事をする。見るからに曇っているその横顔に、嘘吐けよと軽く笑った。
 予定の上がりより早い時間のロッカールームにはふたりだけだった。
 それでもそろそろ他も上がってくる頃で、廊下の方は少し騒がしくなってきている。
 「……ま、そういうわけで寄り道してくが、先帰っとくか?」
 「あー…いや」
 また会話が少し、宙に浮く。
 さすがの京平もため息を漏らしたが、見せた家の鍵を尻ポケにしまうと、時間を確認してから足元のカバンを肩に引っ掛け、急ぎ足に出口に歩き出す。
 「このままだと終電に間に合わなくなっちまうから、出るぞ」
 履歴から呼び出した番号を鳴らしながら、静雄が来るのをドアの向こうで待ち、やはりなんとなく浮かない顔で歩いてくるその様子に彼は目を眇めはしたが、何も言わずにそのまま店の外へと出た。
 新羅からメールが入ったのは2時間ほど前のことだ。
 京平が知り合いにヘルプを頼まれ、暇そうにしていた人間に声をかけたところちょうどそれに静雄が乗って、土曜というのもあってそのまま二人で遊びに出る予定でいたのだが、その連絡で予定が少し変更になった。
 内容は短く、図書館に閉じ込められたから助けてくれというもの。
 「ったく何やってんだかな」
 「なァ、新羅だけ閉じ込められてんのか?」
 「そうなんじゃねえか?……ああ、出ねえ、何やってんだアイツ」
 行き交う雑踏を足早に行く学生服姿の二人。
 呼び出し音が続いた後に留守録に切り替わって京平が訝しげに吐き捨てる。
 街は人で溢れ、雪が降った名残で濡れているアスファルトがやたらきらきらしていた。駅へと流れてゆく人々の呼気はどれも白い。どこかでは早咲きの桜が咲いたとかいうニュースが流れたばかりなのに、まだ東京には縁のない話のようだ。
 「取り敢えず行ってみるしかねーなぁ。…おい、静雄、」
 「……、…あ」
 「吸うな。場所選べっつったろ、何さっきから苛ついてんだ」
 煙草に火をつけようとしたところで制止された静雄が目を丸くする。
 「悪ぃ、無意識だった」
 「お前いい加減様子が可笑しいぞ……、新羅と何かあったのか?」
 「いや……」
 あいつは関係ない、と言いながらも言葉が濁って、歯切れの悪さが際立つ。またかと京平は肩を上げるが、ふと彼の首筋にあるものが目に入り眉間に皺を寄せた。
 「まさかと思うが」
 「ん、」
 「アイツ殴って気絶させて放置してきたとかじゃねえよな」
 「……や、それはねぇ」
 「その微妙な間はなんだ」
 「マジでそれはしてねぇって!そんな目で見んな」
 静雄は振り返る京平を片手でぱっぱと払いやって煙草を捨てた。
 火がつけられることもなく吸殻でもないそれは、誰に振り返られることも、おそらくは拾われることもなく、雑踏の中に置き去りになり、いずれ排水溝にでも流れていって公害のひとつになるのだろう。
 誰も知らないところ、あるいは誰かの知っているところで。
 「俺はお前の日ごろの行いってやつをぼちぼち見てるもんでな」
 「うるせ」
 ぺ、と子供が唾を吐くように静雄が言うのを聞いた京平がくっくと笑って前を行く。
 ようやく何となく表情を崩した静雄に彼はそれ以上何も聞くことはなかった。
 どうでもいい話と、どうでもいい沈黙を繰り返す。

 俯こうとした彼は歩き続け、彼は遠くも近くもないところを歩く。