二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

INDEX|6ページ/44ページ|

次のページ前のページ
 

universe04 この先に、何が待っているのか


「……ここね」
 アナシタシアは言って、覗き見していた物影に再度潜んだ。
 資源が豊富なモトゥブには鉱山が多く、廃鉱となってそのまま放置されているものも少なくない。ここもまたそのひとつであり、垂直の石壁にぽっかりと口を開けた入り口が、いやに不気味に見えた。錆びた線路や、放棄されたトロッコが寂しさを煽る。
 アナスタシアとファビアは、その入口から100メートルほど離れた場所で、岩陰に身を隠していた。
「……意外とあっけなかったですね」
 思い出したようにファビアが呟いた。思えば、任務が開始してすでに半日。最初に交戦した三人のキャスト以外にはまったく遭遇しておらず、打ち倒したキャストたちから、すんなりとこの場所を聞き出す事ができた。加えて、近辺に監視は見当たらない。これではファビアがそう呟くのも無理はない。
「これもあなたの隠密行動が素晴らしいからですね」
「褒めても何も出ませんわ。……もちろん、簡単に遭遇しないつもりで行動はしていますけど……」
 言って彼女は考えこむ。確かに、サバイバルの知識と技術はメインメモリに叩き込んである。考えられる限りのケースは想定した。
 だが……うまくいきすぎる。
「例外処理が一切発生しないのが逆に不気味ですわ」
「まあまあ、今日は半日ずっとこの調子ですから。少し休みませんか?」
「あ……ごめんなさい。つい……」
 キャストであるアナスタシアは疲れにくい体であるため、体力の乏しいニューマンの体調を気遣う事をよく失念する。今回のような、長時間に渡って神経を尖らせている場合はなおさらだ。
 気づけばとっくに日も傾いている。朝からずっと、食事らしい食事を取っていない。確かに、ファビアの顔には明らかな疲れが見えていた。
「いえいえ。それでは少し休憩して、食事でも取りませんか?」
「ええ」
 二人はナノトランサーから携帯食を取り出して、ゆっくりと張り詰めっぱなしだった気を緩めた。
「ここはいいポジションですね。人の出入りがすぐに見渡せる」
 チューブ状の携帯食をくわえながら、ファビアが言った。
 ここはちょうど、入り口から斜め左側にあたる。入り口の前は開けており、右に大きい道がのびている。そのため、出入りする者がいれば気づきやすい上に、向こうからは死角になりやすいのだ。
「そうね。いい場所があって助りましたわ」
 アナスタシアはブロック型の携帯食をかじりながら答える。
「おや、好きなんですか、それ」
「?」
「ペロリーメイト」
「え? え、ええ」
 彼女は少し苦笑して頷いた。ペロリーメイトとは昔からある、栄養が多い携帯食だが、どちらかといえば菓子に近い食べ物だからだ。
「私も子供の時、好きでしたよ」
 ファビアの何気ない一言が、子供扱いされているようで心にちょっと刺さる。
 確かに、アナスタシアは一見子供だ。身長が低く、スタイルが良いわけでもない。だが、これは自分なりに機能性を重視した結果だからだ。小さければ隠密行動には有利だし、短剣を振る時に胸が邪魔になることもない。おまけに、子供の姿であれば第三者に警戒されにくい。
 だから別に、おかしいことじゃないんだ……と自分の中で自己解決する。
「わたくしたちキャストは、あまり食事が必要ではないでしょう? 吸収できる栄養素も限られていますし。わたくしにとって、これが一番効率的な食事なんです」
「なるほど、そうなんですね」
 言いながら、アナスタシアは「言い訳じみてる」と少し自己嫌悪した。
 無意識に、右手で鼻を両端から抑え、鼻孔を塞ぐ。別に興奮しているわけではないが、頭がくらくらする。脳に酸素がまわりすぎているのか、それとも神経を張り詰めすぎているのだろうか?
「……!」
 とっさに、アナスタシアが振り向いた。
 瞬間的に事態を把握したファビアも、携帯食を放り出し、傍らに置いてある愛用の杖に手を伸ばす。
 はるか向こう、道沿いの先に、かすかに三つの人影が見えた。
 アナスタシアはボディのモードをステルスモードに切り替える。排気音や熱で感知される可能性を考慮してだ。
 ファビアは身をかがめ、ゆっくりと息を吐く。呼吸から集中力をコントロールし、有事に備えるために。
 二人が息を殺していると、三つの人影が近くまで近づいてくる。三人並んで歩いているが、その光景には違和感がある。両脇の男性キャストが、若い女性のビーストの肩を支えて歩いているのだ。
「……」
 二人は違和感を覚える。ビーストの女性は明らかに、意識がない。
 さらに、ローグスを追跡しているのにキャストばかりに遭遇する事が違和感を増長する。政府組織の弱いモトゥブにローグスは多く、その結果ローグスはビーストが多いからだ。
 彼らは二人には気づかず、そのまま洞穴へと入ってゆく。ファビアが、ゆっくりと安堵の息をもらした。
「どうします?」
 ファビアが小声で聞く。答えの決まっている問いを、再確認するように。
「疲れているのに、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。任務ですから当然です」
「すいません……では、潜入します」