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ペコ@宮高布教中
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ミステリィなお題 1.動機

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ミステリィなお題 1.動機




荒い、息が―― 
2人の口から吐き出されていた。

片方は地面に伏して倒れ、もう片方は血の滴り落ちるナイフを手にしている。




このまま放置されれば確実に出血多量で死んでしまう。
死の予感が……倒れている人物の頭の中を過ぎった。
うつろな目のまま相手を見上げると、相手からは―――


一滴の涙がこぼれ落ちる。


可哀相な、人

こんな事になるならきちんと話を聞いてあげれば良かった。

可哀相な―――

かわいそうな……



そこで意識は途絶えた――――







翌日の新聞の地方欄に小さな記事が載った。

『○○県□□市在住の男性(28才)が昨夜、何者かに刺され重症。警察では最近多発している通り魔の犯行と見て捜査を進めている――――』

平和な国、と呼ばれていたのは過去の出来事。
某国の犯罪を10年遅れで追っているとまで言われ、事実、毎日のように何処かで犯罪が起こっている。
被害者に近しい人物でない限り、特に気に留めるような内容ではないありふれた事件。

そして、それから数年―――

事件は進展せず、男性も眠り続けたまま今に至る。





■□■□■



私立犀の片高等学校 創立90年の男子高校だ。

その校庭の隅に建てられた弓道場ではタンッと小気味いい音がしている。
弓道の一連の動きは足踏み・胴作り・弓構え・打起し・引分け・会・離れ・残心
淀みなく、流れるような動きは感嘆に値する。
しかしその動きを思いっきり妨害する叫び声が道場内に響いた。
いや、元々騒がしくしていたがそれをまるっと無視して『彼』は弓を射続けていたのだ。
集中力は他の追随を許さない。それが彼の評価で、長所であり欠点だ。
一度のめり込むと周りが見えなくなる。
それはもう、寝食を忘れるほどに……
だが今集中している彼を除き、その場にいる数名は迷惑きわまりない。
心身の鍛練に適しているとは言えわめき散らされては練習になるわけがなし、そのわめき理由が「暑い」だの「アイス食べたい」だのでは逆にイライラしてしまう。

「壱さぁーん!!あついよーあーつーいー!!!!」
炎天下の外に比べれば風通しも良い道場内は幾分マシな上、床はヒンヤリとして冷たい。
そんな所で小さな子供のようにゴロゴロ転がって喚いている。
コレが本当に小さな子供でも、湿度70%を超える日本の夏ではイラッとくるだろう。
そして実際にやっているのは身長180cmを超える高校生男子だ。
邪魔以外の何ものでもない。
壱さん事、『遠野 壱尚(とおの いちひさ)』は手持ちの弓がなくなって初めて同居人がワーワー騒いでいた事に気が付いた。
かけていた眼鏡を人差し指で直すと深々と溜息をつく。
そして同居人基、騒いでいる張本人『鳴 清衡(なり きよひら)』に声をかけるべく口を開こうとしたその瞬間――――

スパン!!と音を立てて扉が開いた。

「きぃーよぉーひぃーらぁぁぁっっ!!!テメェーはなにサボってんだよ!!」
「だぁぁってぇぇぇー」
「何所の女子校生だお前は!!!」
「だって暑いぃぃぃ!!!!」
「暑かろうが何だろうが、練習時間は待っちゃくれねーんだよ!!とっとと戻れ!!」
ビシッと鳴を指さした少年の名は『結咲 蛍(ゆいざき けい)』
高校生の平均身長よりは低いが、見た目に関して言えば美少年で通るだろう。
喋らなければ・だが……
「外あついー熱中症になっちゃうよー」
ダラダラ・ゴロゴロ……
床を転がりながら鳴は立ち上がる気配すら見せない。
元より気の短い結咲がソレに我慢できるわけもなく……盛大な怒鳴り声が道場内に響くはめになる。

「清衡ぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!とっとと動きやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

この暑い中それだけ叫ぶ元気が良くあるものだと、弓道部員全員が心の中で思ったのは言うまでもない。
もちろんソレを口に出す勇気などありはしないけれど……
それでもゴロゴロと転がり続けている鳴は大物としか言いようがない。
「清衡、邪魔だから転がるな」
そう言うが早いか遠野は鳴の腹を踏みつける事によって動きを止める。
「だって壱さん……転がってないと、暑いんだもん」
「夏だからな」
「日本の夏って……暑いよねぇ」
「そうだな」
2人は淡々と会話をしている様に見えるが、あきらかに遠野は足に体重をかけ始めている。
「……壱さん」
「なんだ?」
「け・結構……」
「結構、なんだ?」
「苦しいです……グエッ」
「そりゃ踏みつけているからな」
「な・なんで踏みつけられてるんでしょうか……うっ」
「邪魔だからに決まっているだろ?それにお前がいると五月蝿い」
鳴は何とか遠野の足を退けようと頑張っているが、時既に遅し。
ある程度の体重を乗せて踏みつけられている所為でうまく動く事ができないでいる。

「……何やってるの?」

たまたま遅れてやってきた弓道部員『閂 空(かんぬき そら)』は開け放たれた入り口から中を見通して、遠野によって踏みつけられている鳴に視線を向けた。
「新しい遊び……とか?」
閂は軽く首を傾げながら遠野と鳴を交互に見ている。
「それじゃ俺がドMみたいじゃん……ぐえぇぇ」
「ドMかどうかは別にして……結咲、コレ持って行ってくれ」
そう言って遠野は足下の鳴を指さすと結咲は腕を組みながら眉を潜める。
「俺の体格じゃ無理なんですけど?」
「引きずっていって構わない」
「ちょっ!?」
「あーそれなら良いかなー」
「ええっっ!?」
遠野と結咲の会話に鳴は目を大きく見開く。
「……流石に引きずるのは、可哀相じゃない?」
今までの鳴の所行を知らない閂は救いの手を差し伸べるが、結咲によってあっさりと切り捨てられた。
「コイツさっきまでココでゴロゴロ転がりながら騒ぎまくってたんだよ。そんなヤツに同情の余地はない。大体からして、部活サボってんだぜ?」
そう言ってビシッと鳴を指さすと、閂は苦笑いを浮かべる。
「ああ、それは……良くないな。うん」
「イヤァァァッッッ!!!!自分で歩くからそれだけは勘弁!!絶対蛍ちゃん石のある所しか歩かねーだろ!!!」
「当たり前だろ?」
そう言うと結咲はニヤッと嫌な笑いを浮かべる。
まるで悪役そのものだ。
「鬼ィィィィッッッ!!!!!!」
「……清衡、自ら引き起こした災いを4文字熟語でなんて言うか知っているか?」
「…い…壱さん……」
「昔の人は上手い事言ったなぁー『自業自得』」
「蛍ちゃんまで……」
「……えーっと……がんばれ?」
「空ぁぁぁぁ!!!!!」
三者三様の言葉に鳴はガックリと項垂れてしまう。
尤も、誰が見ようとも自業自得なのだけど……
「同情の余地無し。とっとと行け。さもないとホントに結咲に足を持たせて引きずらせるぞ?」
「ううううっっっ……紫外線はお肌の敵なのにぃぃ」
そう言いながら鳴はトボトボと入り口に向かう。
いままでの所行のせいで同情する者などいるはずもなく、その場にいる閂を除いた全員が『早く戻れ!』と心の中で思っていたのは当然と言えば当然だろう。


遅れてきた閂は一礼してから道場内に入ると、遠野に話しかける。
「遠野、なんか今度の試合は代理の先生が付くって」
「代理?荻窪先生は?」