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悪魔と受難と恋と血と

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彼女だって普通の女の子だった。
 ”だった”、のだ。
 普通に恋をして普通に結ばれて普通に祝福されるはずだった。
 しかし彼女は、キリエはついにそうはなれなかった。
 普通の女の子は異形の手を握り讃美歌を歌ったりはしない。
 普通の女の子はその手の持ち主が誰であろうと近づくことはしない。
 普通の女の子は悪魔を愛しはしない。


 普通であることを許されぬ身の彼女は民衆いわく、女神。
 女神はあろうことか、悪魔を愛してしまった。
 悪魔を愛した女神にはありとあらゆる噂が立ち、つきまとう、まるで普通でなど居させないとばかりに。


「彼女はベッドに悪魔を招き入れたそうよ!」
「彼女は穢れているのか!」
「ああ、普通の女の子だったのに!」
「やっぱりあれは悪魔の子だった!」
「悪魔の子が彼女を普通でなくしてしまった!」
「悪魔が彼女を毒して女神も悪魔に変えた!」


 それらは彼女だけでなく、彼女の愛する者をもおそった。
 彼女を愛し、彼女に愛される悪魔は傷ついた。


「おねがいネロ、傷つかないで」
「でも」
「あなたが傷つけられる前に、わたしが傷つくわ」
「そんな、どうして」
「傷つきたいの」


 普通でないのなら、普通であろうとしなければいいのだと彼女はわかった。それに、彼女は彼女なりに彼を守りたいのだ。
 守られてばかり、祈るばかりの自分では、いたくない。




 これは受難の季節のことだった、彼の存在が彼女の救いとなり彼女の存在が彼の救いとなる、そんな日々。
 血も涙も流すことないけれど、彼女は確かに、傷だらけだった。







(BGM 傷だらけのマリア)
作品名:悪魔と受難と恋と血と 作家名:みしま