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For one Reason

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Phase1.接触



 突然声をかけられて、竜崎――Lは隣を見た。
「こんにちは」
 年は、まだ若い。おそらく生徒の一人だろう。目立たない凡庸な顔、凡庸な声。
「・・・なんですか」
 無愛想に返して、もう一度頭からつま先を見る。興味のない人間には、用がない。今は、夜神月のことで、頭がいっぱいだ。
 夜神月。
 頭がよくて、負けず嫌いで、子供っぽくて、警察官の父親を持つ。
 Lの分析したキラ像に最も当てはまる人物。
「遠藤真紀です」
 差し出された右手を、ぼんやりと見やる。手を伸ばして握るべきだろうか?
「どうも・・・」
 握ったまま相手を見る。何のつもりだろうか。興味本位だろうか、他の者のように。
 握られた手を、強くつかまれた。
「よろしく――L」
 鼓動が、大きく、鳴った。
 どうして。
「・・・L?」
「うふふ、さようなら。また明日」
 す、と手を引かれて、竜崎は彼女の腕をつかむ。否、つかんだと思った。
 するりと彼の手を抜けて、ひらひらと手を振り真紀は笑った。
 呆然とLは、そこに居た。


遠藤真紀
東応大学生では 非ず

「他にもいりますか」
「いや・・・いい」
 ワタリに返すと、Lは立ち上がる。食べていたパフェのさくらんぼの茎をつまんで、上に高く上げる。
 ぱくりとそれを口にくわえながら、ゆっくりと租借しつつ考えた。
 あの大学の生徒ではない彼女が、キャンパスに居た理由は一つ――Lに会う、それだけ。
 問題はなぜ、どうやって、自分がLだと気がついたかということだ。
 どうやって調べた、名前も顔写真などもどこにもない、顔を合わせたことのある捜査官は全員信頼の置けるものばかりだ、普通の警察官は顔など知らない。現在日本でLの顔を知るのはここで共に捜査している人間だけ――・・・
 どこで、なぜ、どうやって。
 何のために?
「竜崎、大学には行きますか」
「・・・・・・」
 今日はゆっくり考えようと思った。だけど。
 彼女に会ってみたくなった。
 Lの考えでは、キラは、夜神月だ。そうだとすれば彼女はなんなのか、そして――
 もし、彼女がキラだったら・・・

「おはよう」
 笑顔で挨拶をされて、Lは振り返る。昨日と変わらず、彼女は気さくに笑いかけてくる。その姿は見事に大学生そのものだ。疑いの余地は、微塵もない。
「貴女は、なんですか」
「貴方は、キラを悪だと思う?」
 唐突な質問に、Lはひざを立てて椅子にしゃがみこむような格好で座る。親指の爪を軽く噛んだ。
「遠藤さんはそう思わないんですか」
「思うわ、だから貴方に声をかけたのよ?」
 笑って言われて、Lは睨んだ。
 彼女はキラではない、と思う。
 今まで一度も捜査対象に入ってきたことのない、凡庸な人間だ。
「どうして私がLだなんていうんですか」
「あら、だってあなた、東大に一位合格する人間が、どんな模試の順位表にも載ってないなんて、そんなことありえる?」
 笑って言われて、Lは固まった。
 受験は、確かに正規に受けて入った。履歴はすべて偽者だったが。
「夜神月を、疑っているのね」
「・・・」
 わかってるわ、と笑って真紀はLの顔を覗き込んだ。
「取引しない?」



 ピンポーン。
 チャイムに月は立ち上がる。
「母さん・・・は、いないんだった」
『客かライト』
「みたいだな」
 月は階下に下りてインターホンをとる。画面には、平凡な容貌の女性が立っていた。
 見覚えは、ない。
「なんでしょう」
 営業かな、と思いながら問うと、彼女は画面の中で微笑んだ。
『はじめまして、リュークに会いにきました』
「!!」
 受話器が手を滑り落ちた。
 今、この女は、なんと、言った?
『リューク、いないのぉ?』
 笑い混じりの声が聞こえる。
 目の前が真っ赤になった。
 ・・・この、女、どこで、なぜ、否――
「リュークっ、お前!」
『たしかに規則にはないな』
 けけけと笑ったリュークを睨みつけ、月は玄関の扉を開いた。
「――何の、用だ」
「はじめまして、夜神、月」
 ふふと笑って、女はすっとその手を差し出した。
「私の名前は、遠藤真紀。以後、よろしく」
「・・・お前は」
「中に入れてくれない?」
 無理やりさえぎられて、月は唇を震わせる。屈辱だ、いったい、どうして、どうやって。レイ=ペンバーか、否、その可能性はつぶしたはずだ。
(落ち着け・・・そうだ、まだ方法はある、名前を書けば!)
 殺せばいい。
 殺してしまえば、怖くない。
「ああ、入って。母がいないから、お茶も出せないけど――」
「夜神月」
 冷えた声で名前を呼ばれた。
 かさりと、音がした。
「馬鹿ね、どうして玄関を開けたの?」
「どうして、って――!!」
 彼女は、玄関の扉のところでノートを開いていた。
 シャーペンを持って、微笑んでいた。
「ここに、貴方の名前を書けばいい」
 微笑んで、彼女は手を動かす。
「やめろ!!!!」
 絶叫した月に、パタンとノートを閉じた。
「――なぁーんてね」
 くすくすくす。
 その声に月の頭に上っていた血がすっと引いていく。
「だま、したのか」
「いいえ、これは本物」
 見せられた表紙はたしかに、それだった。
 見間違うはずが、ない。
「・・・何が目的だ」
 ノートに名前を書く その行為が死に結びつくのを知っているのは、キラだけだ。
 絶叫してしまった手前、これ以上隠し通すのは不可能だった。
 ――それに、彼女もノート保持者であるのなら。
「何も」
 返して真紀は嗤った。
「私は見に来ただけ。犯罪者を殺せば世界が変わると思っている貴方を、見に来たの」
「――っ」
 動揺している月を見上げて、楽しそうに女は笑う。その視線が月の傍らにいるリュークへと向けられる。だが、もちろん焦点は合わない。
「残念、貴方の死神さんに会いたいのだけど」
 手を扉にかける。
「もう、時間なの、帰らないと」
「待てっ――」
 月は真紀の手首をつかむ。ぎりと、痕が残るほどに強く。
 何をするの、と見上げてきた彼女の後ろで、乱暴に扉を閉めた。
「どうするつもりだっ!」
「どうも」
 微笑んで、彼女はノートをひらひらと月の目の前で降ってみせた。
「私は、これに人の名前を書き込んだことが、ないわ」
「・・・なんだって」
「だって、人を殺したって私は得をしないもの」
 私が欲しいのはね、と微笑む。
「そんなものじゃないの、もっとずっと、崇高で楽しくて、俗的なもの。だから貴方の考えはわからないわ、夜神月。犯罪者のいない世界を作って、貴方が何の得をするの?」
 ふふふ、と笑って。
 真紀は背を返す。
 月の手を、軽くすり抜けて。
「さようなら夜神月。またくるわ」
「まっ――」
 どうやったのか。
 扉は開いた。
 そして彼女は、ふわりと当然のように、玄関から立ち去った。
「・・・・・・・・・リューク」
『何だ』
 低い声でつぶやいた月に、リュークは目をぎょろっとさせた。
「・・・答えろ、彼女には死神が憑いていたのか」
『俺はそんなことは教えない』
「リューク」
 振り向いた月の目には怒りが満ちていた。
 コケにされた。
 散々、遊ばれた。
「答えろ」
『――原則、死神が憑いていないノート保持者はいない』
作品名:For one Reason 作家名:亜沙木