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キャンディほど甘くない【キャン甘1】

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「メタ、ボクね、キミのことが好きなんだ。」
カービィがメタナイトをまっすぐ見つめた。
メタナイトはその視線からついっと目をそらし、カービィ、と言った。
「お前は戦うたびに仮面をを割ったり、ことごとく計画の邪魔をするような奴に好意を持つと思うのか?」
「う……。」
さすがのカービィも言葉に詰まる。
「そういう訳だからだから、もう家へ帰りなさい。」
メタナイトは話はもう終わったと言わんばかりに背を向ける。
「ま、待ってよ。メタ!」
ひしっとマントをつかむ。メタナイトは振り向かない。ただ仮面の内側でため息をこぼしたのだけはわかった。
「キミがボクを嫌いでもボクはキミが好きだよ。」
難しい言葉なんか知らなかった。単純にカービィは自分の思いのたけをぶつけるしかなかったのである。
「……」
しばらく黙っていたがメタナイトはマントを強引に翼に変え飛んで行ってしまった。
カービィは追うこともできたが結局メタナイトとは反対方向、家のほうにふわふわと帰って行った。

「あ、メタナイト様! おかえりなさい。」
門の前を掃いていた水兵帽子のワドルディが声をかける。
「ああ、ただいま。」
「……どうかしました?」
首をかしげるワドルディに逆にメタナイトは尋ね返した。
「なにがだ。」
「なんだか元気がないみたいだから……どこか具合でも悪いんですか。」
その答えにメタナイトはうーんと唸った。
「病といえば、病かな。」
曖昧に笑いながらそういうとそのまま門を通り過ぎ建物の中に入って行った。

個室に戻るとそのままベットに倒れた。
ごろんと仰向けになり仮面を外し、それと向き合う。
「笑うか?」
そう仮面に問いかける。横に置くと目を閉じた。
『メタ、ボクね、キミのことが好きなんだ。』
 記憶の中で声が反響する。まっすぐな声だ。……その本気に向き合うのが怖かったのかもしれない。
 カービィはこどもで、だからこそ……いつでも真剣なのだ。
 対立するのは互いの価値観の違いからだろう。
 自分はプププランドのために戦い、デデデはプププランドのために戦い、そしてカービィはプププランドのために戦うのだ。
 同じ言葉でもその下にぶら下がっている概念は全く違う。
 デデデにとってプププランドとは自分が王として治めている国の事である。だからこそどんな誤解をされようとも侵略者から守ろうとする一方、自分のものだからこそ時折傍若無人な振る舞いをするのだろう。
 カービィにとってプププランドとはそこに住むひとである。要するに「ともだち」であり「なかま」を守るために戦う。そして彼自身ももまた住人であるからその権利が侵されたとき立ち向かうのだ。
 ……それでは『私』にとってプププランドとは何だろうか?
 彼と出会う前の自分なら迷いなく“秩序”と言っただろう。だからこそ自分はあのとき剣を取り空を駆る戦艦に乗り込んだ。
 だが……。

 ふいにコンコンというノックが聞こえた。慌てて仮面をつけなおしドアを開けた。
「おまえか、ワドルディ。どうしたんだ?」
「お加減はいかがかなと思って……」
 水兵帽子のワドルディはためらいがちに答えた。
「ああ、心配かけてすまなかったな。」
 手をポンと頭の上に置きなでてやる。その優しい手つきとまなざしにホッとしたのかワドルディの表情も緩んだ。

 自分には部下がいる。信念がある、誇りがある、正義がある。だから彼と敵対することも共闘することもある。
 けれどもし彼と恋人になったら?
 彼の熱情に引きずられるのが怖いのかもしれない。
 今まで誰かにそんな思いを抱いたことなんてないから、一歩踏み出すのをためらってしまう。
 今の自分なら自分の正義を揺るがしたりはしない、そう自信を持てる。
 だから距離を置く。いつの日か彼の思いが自分を揺るがしたりしたないと確信できるまで……。

「そうだ、一つ頼まれごとをしてくれないか?」
「何ですか?」
「倉庫にまだマキシムトマトが残っていただろう。それを一つ……カービィの家の前に置いてきてくれないか?」
「カービィに?キャンディじゃなくて?」
 ワドルディは首をかしげるがわかりました、といって倉庫へと向かっていった。
「恋はキャンディほどは甘くないからな。」
 誰もいなくなった部屋の中でそう呟き、少し汗を流そう、と思いメタナイトも扉を開けた。