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痛み

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お前は
こういうのが好きなんだろ?と
ワザと物みたいに
扱われるのは
半分嫌で
だけど半分気分がいい

これぞ望み通りってところかな

大事に扱われるのは嫌いだ
嘘臭い
反吐が出そうになるからね

俺は人間が大好きだけど
人間が嫌い
全人類に愛情を注いでるけど
全ての人間を悪意で操りたい
そんな俺が大事に扱われるなんて
なんか嘘臭いから
こんな風に扱われる方がリアリティあるよね

だって
その方が面白いし

どうせ
皆退屈なんだし
滅多に俺の予想外の動きはしてくれない
今目の前に居るこの人だって

「・・・演技に一段と磨きがかかったな?」
「それはどうも。お褒めに預かり光栄ですよ四木さん?」
「随分と修行したんじゃないか?手当たり次第。」
「あはは。嫌だなぁ?一応相手は選んでますよ?」
「ほぉ?どんな基準で?」
「金額によりますね。」
「だろうな。」

フッと笑った男が
その顔のまま
手指にいきなり力を込めるのは解った

けど
どうしようも無いしね
この体勢じゃ

ナンか嫌な音
しませんでした?と
俺は笑って詰まった呼吸を整える

「さぁ?聞こえなかったがな俺には。」
「そうですか。じゃあ空耳ですよね。失礼?」
「いや?さぁて、じゃあフィニッシュ行くかな。」
「お手柔らかに?」

笑顔を作るのは
得意だ

あばらを折られた痛みさえ
セックスの快楽に意識を集中させれば

思ったんだけど
体勢が悪かったのか
さすがに
ちょっと堪えたよね今回は

どうした?
顔色悪いぜ?ちょっと激しすぎたか?と
白々しく言う男に
いえいえ、ソレ程でもと笑って見せて
それじゃ毎度どうも
次回もご贔屓に

どうにか服を着てシャワーもせずに出るホテルの部屋

エレベーターが降下するのにあわせて
血圧まで下がるみたいで
ぐしゃっ、と床に尻餅ついて一人で笑ってしまう

何これ
笑えるよね
女子中高生じゃあるまいし
貧血?

いやいや
しかしホント
これ今回のは結構痛いよねぇ
やっぱ暴力団なんてのはロクなもんじゃないね
いい加減にしとかないとヤバいよねぇ

俺はエレベーターの中の
手すりに掴まって立ち上がり
ロビーで開いたドアの前
待ってたらしい人達ににっこり会釈してすり抜ける
この人達、エレベーターのロープが切れて
全員箱ごと落ちちゃったら面白いのに、と念じながら

とりあえずホテルから出て
すぐの歩道でポケットから携帯を取り出して
新羅のとこへ連絡するけど
生憎と留守電になってて
運び屋にすぐ来てよねと連絡するけど
こっちも留守電だからメール
全く
こんな時に役に立たないんだから困ったもんだよね

苦笑して
ガクンと座り込む植え込みの煉瓦の上
胸が痛くてシャンとしてられなくて
手で押さえて前のめりにうずくまる

あぁ
こういう時だけは
シズちゃんが羨ましいなぁと
そんな事を思ったのが悪かったのか

その張本人の声でイザヤァァ!と
スグ近く聞こえた時は
ちょっとだけ
自分を呪った

「・・・やぁ。シズちゃん。」
「手前。何してやがんだ、あぁ?!」
「何って。座ってるんだよ?見て解らない?」
「解るから言ってんだよ。池袋で何してやがんだ手前?!」
「だから・・・」

座ってるんだよね
何度も言わせないでと嗤って言う前に
シズちゃんに胸ぐら掴み上げられて
俺はそのまま
ブラックアウト

後で聞けば
折られた肋骨が
シズちゃんに掴み上げられた拍子に肺に刺さって
結構
大変な事になったんだとかで

俺は
幸運と言うか残念な事に
ほとんどそのヘン覚えてないんだけど
シズちゃんがぐったりして死にかけてる俺を
抱いて突っ走って新羅ん家へ連れてって
そこが留守で
そっからまた突っ走って病院へ駆け込んだんだって
後で聞いて
へぇ
シズちゃんどんな顔して俺を抱いて走ってたんだろうって
想像しただけで可笑しくって
手術の痕の痛みを堪えながら
一人で病院のベッドの上で笑い転げちゃったよね

あーあー
普段あれだけ殺す殺す言ってて
ホント
馬鹿なんだからシズちゃんてば
さっさと見捨てて放ってけば
俺は今頃シズちゃんの望み通りに
死んでたのにさぁ


そして
散々笑った後で
急に酷く苛立つ

ホント
馬鹿にも程があるよね


「・・・俺に恩でも売ってるつもり?」




そうじゃない事は
嫌ってほど
解ってるんだけど
解ってるからこそ
苛つく

どうして
あの男は
俺を
助けたりするんだろう



どうして






明日は
退院って日の夜
やって来たのは
その苛立ちの元の張本人

不機嫌に
どうだよ、だなんて

「そんな顔されたら、思い切り元気って言っちゃうよね。」
「だな。良かったぜ。これで心置きなく殺せるからな。」
「あはは。良かった。て言うかさ。」

なんで
助けたワケ?と
俺は単刀直入に訊いてみる

シズちゃん見てたら
余りにも苛ついて抑え切れなかったから
いつもみたいにはぐらかすのも間に合わなくて

「しょうがねぇだろ。手前死にそうだったし。」
「だってそれおかしいよね?殺す殺す言ってる人が。」
「知るかよ!」

あっちも苛立って
こめかみに青筋立ててるけど
こっちだって苛立ってるんだよね



「ねぇ悪いけど、恩を売ったつもりなら俺は買わないよ?」



ブチッ、と
切れた音をきいたような気がするのは
きっと気のせいじゃ無かったんだろう

気が付いた時には
また
胸ぐら掴み上げられて
俺の身体はベッドから少し浮いてた

「・・・手前が」

誰と何しようが
俺には関係無ぇがなぁ

「臨也君よぉ?だけどな」

セックスするついでに

「骨折ったり殴ったり縛ったり叩いたりする奴とは」

止めとけよ手前?

ナンで俺が
噛み付かれそうになりながら
言われなきゃならないんだか

「それが?シズちゃんに何の関係があるわけ?」

本当に
意味解らないんだけど?と笑うと
シズちゃんの目が
青紫のグラスの向こうですうっと細くなった

「関係なんざ無ぇ!!ただ」

ムカつくんだよ!!

吐き捨てて

手術してやっと退院ていう怪我人の俺を
ベッドへ叩きつけるみたいにして
シズちゃんの顔が
俺の上へ
覆い被さってくる

「・・・今度」

またヤられてみやがれ
殺すからな
手前も
そのヤった相手も
って

本当に
その意味
解らないんですけど俺

だから
俺は
すぐ近くにあったシズちゃんの唇に
下からちょっと
唇当てて

キスして

笑った



解ったって
もうしないから
今回の事は
許してよ?

って




そしたら




何故だか凄く
シズちゃんの表情が変わって
固めた拳一つ
俺の頭のすぐ脇へブチかまして
病院のベッド一つ駄目にしてシズちゃんは
何も言わずに部屋を出てった


今の




怒りで
殺されるかと思った





「・・・そんなに怒ること、無いじゃん。」




ベッドに開いた穴
指先でなぞって
呟くと

まだ
抜糸してない胸の傷が

きりり



痛んだ


























作品名:痛み 作家名:cotton