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【DRRR 臨→静】逃げ回り追いかけろ、世界の外側に届くまで

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校舎の窓から身を乗り出せば、風が短い髪をそっと吹きさらってゆく。
表情のないコンクリート壁は中庭を囲んで都会的に聳え立ち、見上げるとそこだけ空が眩しくも抒情的な形に切り取られて息が詰まりそうだ。
眼下には中庭と廊下、教室の中へと視線を滑らせれば、そこには数少ない友人が何やら熱烈にまくしたてている。
「……まぁ、つまりは過剰な愛を受けると嫉妬を招くという典型だね。でもそんな愛多憎生の変事は僕とセルティの間には当てはまらない! だってセルティはその辺の張三李四の女の子とは違うんだから! 俺はセルティを尊敬してる、畏敬と言ったっていいよ、実に彼女は――」
確か、先ほどまで映画の話をしていたはずなのだが、レンタルビデオ店で七晩八日三百円で供される恋愛物語は、新羅の手にかかればあっと言う間に彼と彼の想い人の惚気話へと変じてしまう。
人ならぬ首なし女への半ば一方的とも言える思慕。
自分にとっては非日常。彼にとっては日常。
羨ましいとも別に思わない。
――俺にも自分でなんとかしないといけない『非日常』があるんだからねぇ。やれやれ。
だから、欠伸を噛み殺して、外を眺める。
中庭を挟んで対岸の校舎を歩く姿を認めると、その顔は記憶の底から拾い出すまでもなく浮かんだ。
どろりとしたものが胸を満たす。
「あーあ。シズちゃんみっけ。なんたる厄日」
気怠い独り言は、それでも澄んだ悪意に満ちていた。
御馳走の中に混ざってしまった縫い針のように、どんなことをしても決して舌に馴染まないそれを、飲み下すより先に、唾と一緒に吐き捨てる。
退屈がざわめきだす。
何の変哲もない人影。
それこそが、彼に与えられた非日常。
平和島静雄。
チェス盤の外側。
支配できない駒。
嫌悪。
「ねぇ、新羅」
既にこちらが聞いていないにもかかわらず愛を切々と語っていた友人の台詞をその一言で遮ると、彼は戯画的に両手を広げて見せた。
「ゲームやってて、敵が予想外の動きをしたりシナリオが奇抜だったり、驚かされることってさぁ、あるよね」
「さぁ? 私はゲームなんてしないし」
新羅が肩をすくめるが、彼は気にしなかった。
「そういうのは許せるんだ、俺優しいから。
でもね。
画面から突然手が出てきて首を絞めてくるゲームとか、ストーリーの中で殺されるのが登場人物じゃなくてプレイヤーとか、そういうのってないと思わない? ゲームの枠に収まってないよね?
世界の枠に入りきらない化け物なんて俺は認めないよ。ほんっと、苛々する」
この距離では特に何もしなくてもやりすごせるとは思ったが、かといって窓際に身を晒して気付かれるリスクを負う義理もない。
そう思った彼は、面倒事を避けるべく身軽に窓枠から飛び降りた。
だがそれが、良くなかった。
池袋の喧嘩人形と呼ばれた目が、動くものを捉えてこちらを射抜く。
離れた所からでも、見知った顔を見分けるのは実に容易なことだったらしい。
「てめぇ……ノミ蟲のくせに、何しに学校来やがった!」
しまった。内心舌打ちするも、もう遅かった。
静雄は何とも理不尽なことを言いつつ、到達地点をこちらへ変更しようとしている。
思わず横の新羅を見やると、新羅は巻き込まれては敵わないとばかりに顔を背けて他人のふりをした。
「私は関係ないし、どうしたってこの細腕じゃ助けられないよ」
「……まぁ、そうだけど」
期待してはいなかったが、こうまですげないと何とも友達がない。
「えーっと、シズちゃん。どこまで行くの? 」
授業をさぼって煙草を吸いに屋上へ行くのだということは見ればわかることだったが、仕方なく、声を張り上げてそう尋ねる。
仕方なく、そうやって己の身を非日常に投げ込む。
傍から見ればまるで友人同士の挨拶だが、自分と相手の関係性を鑑みるに、その声がまるで鉄条網か何かのように相手の神経を引き裂くであろうことを当然彼も理解していた。
相手にとってはただの日常。自分にとっては非日常という名の日常。大多数の人間にとっては、純粋な非日常。
「……ああ? お前に関係あんのかよ」
案の定、不機嫌な声が返ってくる。
「ないよ? ないけど答えなよ。その日その日を平穏に生きていきたいと切望してる平和主義者の俺としては、今日くらい姿も見ない名前も聞かないとにかく一切関わらないで済むようにシズちゃんの予定を聞いておこうと思ってるんだからさ。
ごらんよ、この安穏とした日常を。シズちゃんさえいなければ天下泰平の世の中だっていうのに、君はそのささやかな幸福さえ破壊しようとするんだから、本当に天から降ってきた災厄なのか新羅でなくてもその体を掻っ捌いて確認したくなるくらいだよ。実に化け物だよ、君は」
相手から冷静さを奪う言葉が、すらすらと口をついて溢れ出す。
内容はどうだっていい。呪詛である必要もない。
俺はシズちゃんが嫌い。シズちゃんは俺が嫌い。
理由など、それで十分だった。
「……今日こそぶっ殺してやるからそこで待っていやがれ!」
静雄が叫ぶのとほぼ同時に、視界の端で新羅が溜息をついてそそくさと教室から出て行った。
無論臨也とて恋人を迎える少女のように大人しく静雄を待っているつもりなどない。
彼もまた、どの道追いつめられることを百も承知で、踵を返して教室から飛び出していく。
嫌悪に体を震わせ、予感めいたものに笑いながら。
笑いながら。
笑いながら。

楽しい?
楽しい訳もない。
嬉しい?
嬉しいなら笑う代わりにしおらしく泣いてみせるよ。

長い渡り廊下を走って、走って、だが息が上がる前に粗雑な、だが速度を増した足音が段々近くなってくる。
「待てやコラァ! その首ねじりきってやるノミ蟲が!」
近づいてくる。
なのにこの手は届かない。
不意に浮かんだ言葉を、臨也は無理に頭の外に押しやろうとした。
届かない。触れられない。
違う、逃げてるのは俺。
「やってみなよ! 前科一犯になって出てきたときには幾つになってるか知れないけどね!」
後ろへと叫び返す。
届かない。子供がゴジラの着ぐるみを追うように、広い背中ばかり追いかけている。
違う。
これは触れられたら負けの遊び。
いつもコントローラーを握って人を外から操作しているだけの俺が、テレビ画面を突き破って襲いかかってくる敵と戦わなければいけない理不尽なゲーム。
「上等だ、お前の面見なくて済む池袋になるなら幾つだって構わねーよ!」
届かない。届かない。
酸欠で低下してく脳髄の中、何度も頭の中をよぎるその言葉を、ついに認めて唇を噛む。
ああ届かないさ!
シズちゃんには、届かないさ!
階段を降りようとして、丁度歩いてきた女子生徒とぶつかりそうになり、臨也は咄嗟に上へ向かう階段を駆け上がった。
どっちだっていい。上だって下だって。
いつだって体は追われているのに、心は追いかけている。
届かない。触れられない。背中ばかりを見つめている。
屋上に辿りつくと、臨也はフェンスに取りついて下を覗き込んだ。
高さを確認する間もなく、再度乱暴に扉が開く音がして、その後ろ姿に追手の声がぶつけられる。
「……ちょろちょろ逃げ回りやがって……ネズミかお前は」
「ネズミじゃないし、俺にも臨也って名前が……」
「黙れ」