二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 http://novelist.jp/ | 官能小説 http://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Over The Aurora

INDEX|11ページ/152ページ|

次のページ前のページ
 

3.俺の夢、俺の居場所


 水に沈み流される感覚に、士は何故か懐かしさを覚えていた。
 以前もこうして、水に呑まれた事が、あるのかもしれない。
 こうして流されてしまって、息絶えでもすれば、煩わしさもなくなるだろう。そう思った。
 だけれども、彼は意識を手放した後暫くして、自分が目覚めるのを感じた。
 そこは、薄暗い。次第にに目が慣れていくと、天井がやけに高く、組まれたコンクリートの柱がむき出しになっているのが見えてきた。
 何処かの工場か何かなのだろうか。
 外から光は差し込むが、弱い光が天井の影を一層際立たせる。柱のあちこちには、雨漏りの跡だろうか、澱んだ色の染みが滲んでこびりついていた。
 火が燃えている、木の爆ぜる音がずっとしている。首を横に動かすと、背中が灼けるように痛んだ。
「ぐあっ……あ……」
「やっと起きたのか、いいからまだ寝てろ」
 どうにか首は横に向いたので、士は自分に声をかけた男を見た。
 歳の頃は二十五ほどだろうか。業務用で使う醤油の一斗缶を刳り抜いた容器の中で、薪をくべ火を燃やしている。肩ほどまで髪を伸ばし、削げた頬の上で爛々と光る瞳は、手元の炎を見つめていた。
「あんた……誰だ、ここ、は、何処だ」
 声を出す度に背中が熱く焼ける。なんとか言葉を捻り出したが、男は何も答えなかった。
「おい、あんた……」
 力が入らない腕を何とか立てて、士が体を起こそうとすると、突拍子もなく、高い声が響いてきた。
「あーーーーっ! 駄目じゃないですか乾さん!!」
「るっせえな、俺は何もしてねえよ。お前こそ怪我人の前でそんな大声出してんじゃねえよ」
 男は驚いて右手を見やり、言葉を返した。士もそちらを見たいが、体が思うように動かない。だが、士が体を動かすまでもなく、素っ頓狂な声の主は士に駆け寄ってきた。
「ひどい怪我なんですから、まだ寝ててください。体を動かさないで。そろそろ目が覚めるかなって思って今、おかゆを作ったんです。俺のおかゆ美味しいから、びっくりしますよ。その人も悪い人じゃないんだけど、愛想がないから」
「俺は普通だ、あんたがお喋り過ぎるんだろう」
 駆け寄った男は士を支えて寝かしつけた。明るい声で、次から次へと良く喋る。
 火の側にいる男は、不服そうな顔をして、ぶっきらぼうに反論を投げつけた。
「俺は一体、どうして、こんな所に……いるんだ、あんた達、誰だ」
「こんな所で悪かったな、今すぐ出てって貰ったっていいんだぜ」
 士が明るい男に質問を投げかけると、それを聞き咎めたぶっきらぼうな男の言葉が横から入ってきた。
「乾さんは黙っててください、聞かれてるのは俺です」
「……」
 明るい声の男は、存外にぴしゃりと乾と呼ばれる男に言ってのけた。
 乾と呼ばれる男が不機嫌そうに黙りこむと、明るい声の男は士に向き直った。
「あなたが川で溺れて岸に上がってたのを、そこの乾さんが見つけたんですよ。俺は反対したんですけど、あなたが破壊者だからって八人がかりで潰すなんてのは気にくわないって、皆さんと喧嘩別れするもんだから、間に入った俺が大変ですよ」
「…………何だ、と?」
「おい、誰も間に入ってくれなんて頼んでねえぞ。俺は一人でいい」
「またまた、そんな事言って乾さん、本当は一人だと心細かったくせに」
「そんな訳ねえだろ!」
「ちょっと、待て……!」
 またも士が体を起こそうとするのを明るい声の男が制し、士に向き直る。
「お前ら、何者、なんだ」
「俺は、津上翔一って名乗ってます。実は……アギトなんです。知ってます? アギト」
「ああ、そりゃ……知って、るが」
 実はアギト、の部分で、津上翔一は声を潜めて口に手をあてて、まるで大切な秘密をこっそり打ち明けるように、士に告げて、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
 ふざけているわけではないだろうが、それにしても陽気すぎる。
 士はアギトの世界で出会った芦河ショウイチの事を思い出した。彼に持っていた印象からは、この津上翔一が別の世界のアギトだとは、全く想像できない。
「で、そっちの無愛想な人が、乾巧さん」
 翔一に名前を紹介されると、乾巧は面白くなさそうな顔のままで、そっぽを向いた。
 その乾を見て、翔一は、またにこりと笑った。
「まあ、俺も、意見としては乾さんと同じです。世界が大変なんだっていうのは分かるけど、君が破壊者だとか悪魔だとか言われてもピンとこなくって。それなのに戦えない」
「俺がどんな人間なのかは、関係ないって、紅渡は、言ってたぞ」
「そうなのかもしれないけど、俺はそれじゃ納得できなかったから」
 翔一は緩く微笑んだままで士を見ていた。士は、何だか信じられない気持ちで翔一を見つめ返した。
 今までディケイドが悪魔である、という扇動で得られた反応は、悪魔であるというものと、悪魔ではないというもの、どちらかだった。どっちだか分からないというのは、新鮮な反応だったし、真っ当な感覚のようにも思われた。
「おい津上、俺とお前を一緒にするな。俺はあいつらの言ってる事が出鱈目だって思ってる訳じゃない。そいつを庇おうとも思ってない。やり方が気に喰わないって言ってるんだ」
「またまた。乾さんは本当に素直じゃないなあ」
「勝手に決めつけんな!」
 必死に否定する乾巧とそれを軽くあしらう津上翔一のやりとりがだんだん遠くなっていって、士の意識はまた、眠りの中に落ちた。
作品名:Over The Aurora 作家名:パピコ