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Over The Aurora

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5.蠢動


 士の後を追って、下流へと進んでいた渡は、見慣れた顔を行く手に見つけた。
「……よお」
「あなたは、ここで何をしているのですか?」
 乾巧は、服のまま泳ぎでもしたのか、ずぶ濡れの姿で、睨みつけるように渡を見つめていた。
 同じくずぶ濡れとなった青年の左腕を肩にかけ、支えていた。顔は下を向いており判別出来ないが、門矢士に間違いなかった。
「彼を、どうするのです」
「溺れて死にそうなんだ、放っておけない、それだけだ」
「彼が破壊者でも、ですか」
 その言葉に、巧は訝しげに渡を見た。渡の表情に変化はない。
「……お前は、死にそうな人間が目の前にいたら助けないのか? それが誰かを選んで助けるのか?」
「普段はそんな事はしません。今は非常時です」
「死にかけてる奴を殺したがってる奴に渡すような悪趣味な真似はしたくないね。仕留められなかったのはお前の責任だろう」
 乾巧はファイズギアを持ってはいなかった。だが彼は、彼の本質――ウルフオルフェノクへと姿を変え、キバエンペラーと互角に戦う事も可能だろう。
「……あなたの言う通り、ディケイドをきっちりと倒せなかったのは僕の至らなさ故だ。だがあなただって知っているだろう、止まらない破壊を、世界の終わりを。それをディケイドは再び巻き起こす。それを許せるのですか」
「そうなるかどうか分かんねえだろう。大体俺は、世界を救うだの何だのっていう大袈裟なのは胡散臭くて好きじゃないんだよ」
「ならばあなたは、何故ここへ来た」
 その質問に巧は眉を寄せ、鋭く渡を睨みつけた。その視線を受け止めても、渡は動じず、表情も変えなかった。
「……こんな俺でも、何か出来る事はあるのかもしれない。そう思いたかっただけだ」
「ならば、何故それを為さないのです」
「うるせぇな。何でお前の話を鵜呑みにしてはいはい従わなきゃなんないんだ? 戦わなきゃなんないって思ったら戦う、それだけだろ。俺がすべき事は俺が決める、お前の指図は受けない」
 絶望の淵で足を滑らせ転げ落ちそうになりながら、ずっと戦い続けていても、乾巧は人を信じ続けている。守りたいと願い続けている。
 強い人なのだ、と渡は思い、嬉しくなり頬を緩めた。
「何が可笑しいんだよ」
「僕はあなたと戦いたいわけではないですし、あなたの言う通り、虫の息の相手をいたぶるのは悪趣味だ。あなたの好きにすればいい」
「言われなくてもそうする。大きなお世話だ」
 言うと巧は士を抱え直し、何処かへと歩き始めた。
 渡は二人の背中を、目を細め、見送った。
 何処からか、彼の相棒――黄金の蝙蝠が、彼の元へと羽ばたいてきた。
「いいのか渡、あいつを見逃して」
「キバット、僕は分からないんだ。僕は間違ってるかもしれないのに、君はどうして僕に付いてきてくれる?」
「そりゃ、俺様が付いてないと渡は危なっかしくてしょうがないからだろ。渡が間違ったら、俺様が引っぱたいてやる」
 そうだね、と呟いて、渡はにこりと笑った。
「光夏海や乾さんの言うことも、分かるんだ。でも僕はもう二度と、世界が壊れてしまうなんて、見たくない」
「そうだなあ。あんなのはもう、御免だなぁ」
 絶望だとか恐怖だとか、そんなものを感じる暇もなかった。渡の世界は、一夜にして壊滅した。
 誤解、行き違い、悪意。そんなものの為に。
「お前も甘いな」
 後ろから声がした。剣崎が追いついてきたようだった。
「あなたに言われたくはないですよ」
「こういうのは不慣れなんだ。俺はずっと、甘いって怒られる側だった」
 振り向くと、剣崎の口元は、薄く微笑んでいた。その顔を見て、渡もつられて笑った。
「どうするつもりだ、あまり時間がない」
 剣崎の言葉に、渡は表情を引き締め、小さく頷いた。
 どうにも解せなかった。つい先日安定したばかりの世界が、こうも早く引き合うというのは、今まで例がなかった筈だった。
 今までは、それぞれの世界はもっと時間をかけて安定し、もっとゆっくりと徐々に融合していた。
 安定が早まったのはディケイドの仕業だが、それにしても引き合う速度が速すぎる。
 そして、九つの世界が一度に融合しようとするなど、それこそ例がなかった。
 いつ融合し、崩壊を始めてしまうのか、正確な事は分からないし誰も予測出来る者がいない。だが、時間がないのだけは確かだった。
 間違いなく何者かが裏で糸を引いている。それが出来るのは、ディケイドを作り出し、不完全ながらも世界を渡る力を得ている者達以外には有り得なかった。
 ディケイドを倒すのは、本当の本当に最後の手段としたい。その甘さは渡の中に確実に存在している。
 だからこそ渡は、ディケイドを旅に送り出し、事態が退っ引きならない状況になるまで、待ったのだ。
 渡の不在に皆の元を飛び出した乾巧がここにいるのならば、彼を追ったという津上翔一もおそらく一緒だろう。
 ディケイドを一刻も早く倒さなければならない、最早猶予などないのは事実だが、仲間割れで、本当に倒さなければいけない敵――大ショッカーと戦う戦力を削ぐのは得策とは思えなかったし、そもそも、あの二人を向こうに回して、渡が勝てる確証もない。ディケイドのように、もし勝てないとしてもどうしても倒さなければならない相手というわけでもない、彼らは仲間なのだ。
 言い訳だというのも分かっていた。だが渡は、恐らく剣崎も、乾巧が正しいと何処かで思う気持ちを捨てきれない。
「大ショッカーを先にあたるのか」
「そうですね。僕も憎まれ役はあんまり得意じゃない」
「猶予が伸びたところで、結果は同じだぞ。引き伸ばしても、後で辛くなるだけだ」
「そうですね……それでも、待ったらどうにかなるなら、時間を作ってあげられるなら、そうしたいと思いませんか。それに剣崎さん、彼に教えたんでしょう、ロックの事を」
「……」
 剣崎は答えなかった。渡はその沈黙を肯定ととった。
「なら、少しの間だけでも、時間が必要です。門矢士の傷さえ癒えれば、ディケイドにまた戦いを挑んでも、乾さんももう文句は言えないでしょう。僕らの為にも、引き伸ばす必要はある」
 やはり剣崎は何も答えなかった。渡は穏やかに、笑いかけた。
「僕と剣崎さんがいれば充分だ。他の人達は、もう入り込んできている奴らを探してもらいましょう」
「もう来ているのか」
「ええ、そのようです。ディケイドが奴らの手に渡るような事はないとは思いますが」
「そうだな、そんな事はディケイド自身も、あいつの仲間も許さないだろう」
 剣崎と渡は頷き合い、歩き出した。
 ディケイドは倒さなければいけない。それは恐らく変わらない。だが本当に倒さなければならないのは、ディケイドの力を利用して世界を我が物にしようとする大ショッカーだ。
 それを小野寺ユウスケや光夏海に話せれば良かったのだろうか。
 だが、そんな事を話したところで、ディケイドを倒さなければいけない事実に何ら変わりはないのだ。
 どうすればいいのかなど、渡にも剣崎にも分かってはいない。
 繰り返したくない、ただその思いだけが、彼らの脚を動かしていた。
作品名:Over The Aurora 作家名:パピコ