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Over The Aurora

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6.そのひとつは希望


 士が光写真館に帰り着くと、鍵は開いているものの、中は誰もおらず留守だった。
 帰路を辿る途中、やけに救急車や消防車のサイレンの音が多かった。
 大ショッカーとやらが暴れていて、それでユウスケは不在なのかもしれない。そう考えたが、それでユウスケと夏海がいないのは分かるとして、栄次郎は何処へ行ったのだろう。
 テーブルの上には、額に入れられた一枚の写真が置かれていた。
 栄次郎が飾るつもりで置き忘れたのだろうか。セピアの写真には、立派な洋館が写し出されていた。
 その風景に、士は違和感を覚えた。
 知っているような感覚が胸の何処かに湧き上がるが、絶対に知らないという確信も同時にある。
 手にとって眺めてみるが、何も思い出す事はできない。
 それはそうだ、俺はこの風景など全く知らないのだから。何故か、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
「素敵な家だろう」
 士が振り向くと、栄次郎が、士が閉めなかった為ドアが開けっ放しになっていた入り口から入ってきた。
「何処にいたんだ」
「士君こそ、今まで何処にいたんだい。夏海とユウスケ君が心配していたよ」
「ふん、俺がどうにかなるわけないだろう。世界が俺を必要としているんだからな」
 いつもの調子で、深く考えずに口にすると、栄次郎はさもありなんといった様子で深く頷いた。
 いつもそうだ。
 栄次郎は、士が必要とされている事を知っているのではないか?
 今まで士は、深く考えすぎだと思い追及しなかったが、そもそも、士をこの写真館に連れてきたのは栄次郎だ。
 目が覚めて何も覚えていない士は、辺りを当てもなくふらついていた。それを栄次郎が呼び止めた。
 素敵なカメラだね、と。
 何故か士は、自分でも理由など分からないまま、そのカメラで栄次郎を撮影した。体が覚えている、カメラを自然に操った。
 写真館をやっているからそこで現像しようと言われ、ここまで付いてきてコーヒーを飲んでいる内に夏海が現れ、何も覚えておらず、名前以外の何一つも思い出せない事を話した。そうこうする内に光写真館の空室に泊まる事となり、以来士は写真館の居候となった。
 ただの偶然、巡り合わせに過ぎないと思っていたが、世界を移動するようになり解せない点が増えてきた。
 そもそも何故光写真館は、背景ロールを切り替える事によって世界を移動する事ができるのか。
 偶然ではなかったとするならば、仕組んだのは栄次郎以外には有り得ない。
「おい、爺さん、前も聞いたがもう一回聞くぞ。何故この世界では、何も絵が出てこないんだ」
「さてねえ……私にはさっぱりだよ。元々絵なんか何も描いてなかった筈だったんだから、元に戻ったって事じゃないのかな?」
「惚けんな。全部あんたが仕組んだって言われた方がまだすっきりする。あんたは何者だ。本当に夏海の祖父か」
「何を言ってるんだい、士君」
 栄次郎は実に意外そうな顔をして士を見ていた。士はその不思議そうな顔を見ても、厳しい表情を崩さなかった。
「今まで何だかんだとはぐらかされたが、今日という今日はそうは行かない。答えてもらうぞ。何故この写真館は異なる世界を行き来できるんだ? そもそも何の為に。あの日、あんたが意味もなく背景ロールを下ろそうとしなきゃ、クウガの世界に移動する事はなかった。あんたが何も知らないっていう方が不自然だ」
 士の口調は知らず、きつくなった。栄次郎はしょんぼりとして息を一つ、深く吐くと肩を落とした。
「君には、認識の誤りが多少あるみたいだねえ。まず、この写真館には次元を移動する力なんかない」
「まだそんな事を」
「ただ、ディケイドが世界から拒否されずに別の世界に渡る為の、シェルターの役割を果たしているんだよ。世界を渡る力自体は、ディケイドのものだよ」
「…………何?」
 驚いて士が栄次郎を見つめると、栄次郎はにこりと笑った。普段どおりの、好々爺然とした人の良さそうな笑顔だった。
「過去、ディケイドは世界を渡ろうとして、渡ろうとした世界に拒絶され続けていた。ディケイドは創造者だが、どの世界に所属する者でもない、何処へ行っても異物だ。この写真館は、ディケイドを世界の拒絶から守る為の砦なんだよ」
「それは、どういう……」
「あと夏海は、本当に、正真正銘私の孫だよ。それは嘘じゃない」
 きっぱりと言い切った栄次郎の眼はまっすぐだ。老獪さを生かして嘘をついているならば、もっと違う顔をするだろう。
「……後何か、認識の誤りはあるか」
「後は……そうだねえ。ああそうだ。君は、記憶を失ったわけじゃない」
「…………何だと?」
「君には、思い出すべき記憶はない。君は情報は持っているが、記憶は元から持っていないよ」
 言って栄次郎は、にこりと微笑んだまま少し歩いて、士がテーブルに伏せた写真を手にとった。
「君は門矢士だけれども、門矢士なら、この家を知らないはずがないんだよ。だってこの家は、彼の生まれ育った家なんだからね。君は知っている気はするけれども、絶対に知らないだろう?」
「……門矢士ってのは、何者だ」
「それは、私が教える事じゃない。君が自分で見つけなきゃいけない。君は門矢士なんだから」
 まっすぐ士を見上げた栄次郎の眼差しからは、少なくとも悪意は感じ取れなかった。
 しかしだとすれば、栄次郎は何故、士を旅へと導いたのだろう。
「君は旅をしてきた。旅の途中で、少しずつ、君は君自身を見つけた。そうじゃなかったのかい」
「……そうだ。俺が何者なのかは分からなくても、俺は俺の道を歩いた筈だ。でも俺は、それとは別に、本当の俺がいるんだと思ってた」
「そうじゃないよ。君の心こそが、君自身を知っている。君が誰なのかを知っているのは、君だけだ」
 士には、栄次郎の言う事が、だいたい分かった。小さく、頷いてみせた。
「本当の自分、なんて言葉に惑わされちゃいけないよ。君は門矢士なんだ。君が持っていたのは情報だけだ、記憶はない。だけど、決めたのは君自身だ。君が辿ったのは、君自身で切り開いた道だ」
 大体は分かったが、まだまだ分からない事も多い。だが、光栄次郎は、少なくとも敵ではないようだった。
 事情があるのか趣味なのかは分からないが、全部が全部一切合切を説明する積りはないのだろう。
 しかし、それももう関係はない。栄次郎が敵ではないならここですべき事はない。士がすべき事は決まっている。
「爺さん、ユウスケと夏海は何処だ」
「鳴滝さんを探してるのと、ついでに、何だか大ショッカーとかって悪い奴らを退治してくるんだって、随分前に出ていったよ」
 鳴滝。意外な名前を耳にして、士は眉を顰めた。
 何故、ユウスケと夏海が今更鳴滝を探しているのかは分からないが、大ショッカーときっと戦っているのだろう。合流しなければいけなかった。
「そうか。じゃあ俺も行ってくる」
「ああ、気をつけてね。あっ、もしキバーラちゃんに会ったら、早く帰っておいでって言っておくれ」
 士がヘルメットを手にとり歩き出すと、栄次郎はいつものように、にこやかに手を振った。
 士は口の端を上げて彼の言葉に答えると、ドアを潜り閉めた。
作品名:Over The Aurora 作家名:パピコ