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あまりに空が青かったので

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あああちくしょう。やってらんねーぜ!心の中で叫んで俺は机に突っ伏す。頬をつけた机はむっとした夏特有の暑い空気とは裏腹にひんやりと冷たい。ああちくしょう。目の前に広げられた何枚もの白いプリントは一向に埋まってくれない。夏休みだから、とかいう訳のわからない理由でエアコンのつけられない教室の暑さが俺を余計に苛立たせる。ああ、ちくしょう、ちくしょう。

「ししどー早よせな部活終わってまうでー」
頭上から涼しげな声が降ってきた。んなことわかってんだよ、と言ってむくりと起き上がる。ししどってつむじ左回りやな。めずらしない?のんびりとしたその声に俺の心はさらに苛立つ。俺の前の席にその細長い体を持て余すように座った忍足は眼鏡の奥に隠れて見えない瞳をゆるゆると窓のほうへ向けた。四角く開いた窓からはグラウンドで部活に勤しむやつらの声が聞こえる。思わず「部活してぇ」とつぶやくと、「ほな早う課題終わらさんとな」とさらりと言われた。むかつく。


「せやけど赤点取ってまうとか、ほんまししどやわー」
「どういう意味だよ」
「いやいやそのまんまの意味やで」しれっと言ってくる奴に凄んでみせると笑われた。どうせおまえらみたいに出来よくねえよ。やさぐれた気持ちで不貞腐れて言う。あーあ。今頃長太郎もあの中でテニスしてんのかな。俺がこんな糞つまらねえ課題やらされてるってのにあの野郎。まじ生意気。今度練習出たときに前より上手くなってなかったらしばく。ごめんなさいぃぃ~と泣きながら謝る奴を想像すると少し気持ちがせいせいした。にやりと笑うと「うっわ悪い顔」と忍足が言う。うっせえ、とその頭をプリントでしばく。「ひっど」とつぶやいて奴は俺を上目遣いに見る。眼鏡の奥のまつげが長くてきもい。そう伝えると「ひっど!ひっどぉ!ぼくせっかく部活休んでししどなんかの補習に付き合ったってんのに!何なんその言い草、ひっどぉ!」ときゃあきゃあ喚き出した。女子かよ。浮かんだ言葉は心にしまって、あーはいはいさんきゅ、と適当に礼を言っておく。「ひど」もういちど言って忍足は俺の手付かずのプリントを取って三角に折り出す。「なにしてんの」聞くと「紙飛行機」と返って来た。ばかじゃねえの。「ばかちゃうわアホ」その言葉に大袈裟にため息をついて椅子にもたれる。

「大体よー」体でバランスをとって椅子をぐらぐらさせながら、必死に折り紙をしている忍足に言う。「んー」と手元を見たままよくわからない返事を返してくる忍足に構わず俺は言葉をつづける。
「こんな課題とかよ、やっても意味ねえと思わねえ?」
「いや意味なくはないんちゃう?やったら出来るようんなるやん」
「いや意味ねえよだって俺これ全然わかんねえし」
「それはししどが授業中ちゃんとセンセの話聞いてへんのが悪い」
「うるせえな」
ごん、と忍足の足を蹴ると「痛!」と悲鳴を上げた。つくづく女子のよーだ。これがモテるのがわからねえ。なんでだ。最近流行の草食系男子か?やっぱ男は肉食系だろ。そう言うと「そないなこと言うてるから宍戸やねんで」と憐れむように言われた。なんでんなこと言われねーといけねーんだよ!ともういちど奴の足をごん、と蹴る。痛!とさっきとおなじように短く叫んで、やからモテへんねん、この乱暴者。と忍足が言う。

「せやけど」さっきと同じように忍足が切り出す。「モテるかどうかはともかくとして、とりあえずはこの課題さっさと終わらさな部活出られへんで」とうとう最後の大詰めにかかったらしい紙飛行機をせっせと折りながら忍足は言う。なら教えるとか手伝うとかなんかしろよ。そう言うと「アホ。ししどがやる気なさそーやからぼくはどーでもいい紙飛行機なんか折ってんねやろ。おまえが早よなんかやらんかいな」と言って来た。紙飛行機はどうでもよかったのかよ。突っ込んでぐらりと椅子を前に戻す。衝撃で机に腹が当たる。痛い。そんな俺を見て忍足が薄く笑う。その様子が酷く楽しげで腹が立つ。


「出来た!」
「あー?」突っ伏した机から顔を上げて忍足を見ると、その手には白くて大きな紙飛行機がのっていた。おぉーと言いながらぱちぱちと拍手をすると、ふふん、と自慢げに笑い鼻の下をこすって、忍足は紙飛行機をそっと大事そうに手にのせたまま椅子から立ち上がった。そろそろと神経質な足取りで窓際へ向かう。

「なあししど」
四角く切り取られた窓の向こう、青い青い空をバックに忍足はこちらを振り返る。急に吹いた風にさらりと髪をなびかせふわりと笑む。その手からすう、と空に向けて紙飛行機が飛び立つ。白い白いその姿は青い青い空を駆け抜けて高く高く飛び、俺の視界からまたすうと消えた。
「紙飛行機でも飛行機雲描けたらなあて思わへん?」
俺はぼんやりと紙飛行機の消えた空の向こうを眺めながら「考えたこともねえよ」と言葉を返した。「ぼくはいっつも思うねん」窓際に手を掛け、おなじように窓の向こうを眺めながら忍足は言った。さあ、と吹いた風に奴の黒い髪が煽られて、俺からはその表情が見えなくなる。

「飛んだ跡が雲になるって、めっちゃ素敵やん」そう言って振り返った奴がとてもおだやかな顔をしていたので、俺も何故だかそれがとても素敵なことのような気がして「そうだな」と言った。それを聞いて奴がふふふと笑う。
俺も笑い返しながら、ふと視線を空に向けると、白い白いまっすぐな線が、青い空を切り裂くように流れていた。