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死人に口なし

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終章@静雄


 翌朝、静雄と臨也は、一触即発の雰囲気で対峙していた。
 二人は偶然、校門前で顔を合わせた。特に臨也は、昨日の件がまだ燻っており、静雄をぎらぎらと睨みつけている。その視線を静雄が無視できるはずもなく、学校の正門は地獄の門へと様相を変えた。登校する生徒達が、立ち往生して人だかりを作っている。いくらかの生徒は、別の門へと迂回しはじめていた。

 そんな中、たった一人だけ、二人を避けない人物がいた。人垣を分けて空いた空間に飛び出すと、真っ直ぐに臨也のところへ向かう。そして、背後から臨也に奇襲をかけた。
「痛っ」
 鞄で容赦なく頭をはたかれ、臨也が驚いて後ろを振り向く。その様子を視界に収めていた静雄は、嘆息しながら地面に放り出していた鞄を拾った。
「よう」
 そこには、門田が片手を上げて立っていた。心なしか喜色を浮かべている。
「ドタチン! いきなり何するのさ!」
 臨也が頭を押さえながら、門田に文句を言った。当たり所が悪かったのか、片方の目にだけ涙を浮かべている。門田は軽く臨也の全身を見回した。
「良かった。元気そうだな」
「? 何が?」
 臨也が訝しげな顔で首を傾げる。その手は、熱心に後頭部を擦っていた。
「昨日、誘拐されたんだろ?」
「……何で知ってるの」
 臨也が珍しく狼狽した。静雄はそんな様子を横目に見ながら、鞄に付着した砂埃を叩く。
 状況が緩和されたことを察して、生徒達が早足に靴箱に向かいはじめた。その流れに乗ってやってきた新羅が、静雄に手を振った。静雄も軽く片手を上げて応える。
「偶然、車に連れ込まれる所見かけてな」
 門田が説明すると、臨也がはっと目を見開いた。
「ドタチンが新羅に言ったの!? ……最悪! 余計なお世話だよ! 親切なつもりなのかも知れないけど、とんだ迷惑だ!」
 突然食って掛かる臨也に驚き、門田は一歩退いた。静雄は特に関心は無かったが、新羅が興味深げに眺めているのでその場に留まった。四人を残して、周囲の生徒達が我先にと荒れる臨也の傍を離れる。
「そうか? そりゃ悪かったな。薬中っぽいから危ないと思ったんだが」
「あのグループは薬はやってないよ! 全く、どいつもこいつもお人好しなんだから!」
 臨也が投げやりに言い捨てる。門田は特に気を悪くした様子もなく、話を続けた。
「注射の痕が見えた気がしたんだが」
 臨也が僅かに眉を寄せた。
「ほら、帽子被ってた……」
 門田がそこまで言った途端、臨也が唐突にしゃがみ込んだ。門田が目を瞠る。
「おい、どうした?」
「………………いいから、もう黙って」
 臨也は額を押さえながら、低い声で呻く。何か思い当たることがあったんだろう。静雄の横で、新羅が小さく噴出した。
「……なんだか知らないが、悪かったな?」
 門田が不思議そうにそう言うと、臨也はさっと立ち上がった。立ち上がり際に、新羅に鞄を投げつける。不意を付かれた新羅は、顔面で鞄を受け止めて、臨也と入れ替わりにしゃがみ込んだ。新羅の鞄と臨也の鞄が、折り重なって地面に落ちる。
「聞こえてるんだよ!」
 臨也が声を荒げる。静雄は、臨也の鞄だけを拾って投げ返した。臨也はそれを平気な顔で受け止めたが、妙に重い音がしたのを、門田は聞いた。
「眼鏡割れたら危ないだろうが」
 静雄がぶっきらぼうに言い放つ。新羅は眼鏡を外し、目元を押さえている。
「こっちは憤死しそうだ」
 臨也が顔を歪めて吐き出した。
「勝手に死ねよ」
 静雄の舌打ちを合図に、再び剣呑な雰囲気が漂った。臨也が後ろのポケットに手を伸ばしたのを目撃して、門田は呆れたように嘆息した。再び臨也の頭に鞄を掲げたところで、新羅が場違いに明るい声を上げた。
「静雄、憤死って言葉知ってたんだ」
 新羅はゆっくり立ち上がり、静雄が発言の意図を理解する前に訂正する。
「ごめん、冗談だよ。僕は大丈夫。フレームが当たって超痛かったけど」
 新羅は眼鏡を目の前に掲げ、傷が無いことを確認する。
「臨也、これ結構高いんだから、壊したら弁償だからね」
 新羅は眼鏡をかけ、冗談めかして臨也に訴えた。臨也は、不機嫌そうな顔で視線を逸らす。臨也の手が体側に戻ったのを見て、門田も静かに鞄を下ろした。
「……もういいや。ドタチン、行こう」
 臨也は、急に興味を失くしたかのように校舎に向かった。門田は深く嘆息し、一拍遅れて臨也の後を追った。

 二人の背中を見送りながら、新羅は取り落とした鞄を拾い上げた。
「僕らも行こう。折角みんな無事だったんだ。めでたしってことで手打ちにしようよ」
 未だに校舎の方を睨んでいた静雄は、はっと我に返った。
「いやぁ、昨日の今日だと、こうして普通に登校するのって、なんだか変な感じだね」
「……そうだな」
 静雄と新羅は登校する生徒達に紛れながら、何事も無かったかのように話し始めた。
「ニュース見た? ちゃんと犯人捕まったみたいだ。良かったね」
「あぁ」
 静雄はこくりと頷く。昨日、静雄が刑事から貰った名刺を持っていたので、面白がって新羅が電話したのだ。携帯は、伸びている男の一人から拝借した。
 事件は、結局六人の犠牲者を出したとあって、大々的に報じられた。どこのチャンネルもこの話題で持ちきりだ。静雄は初めて、死体の生前の顔を見た。どこにでもいるような、普通の中年男性だった。
「本当は君も過剰防衛なんだろうけど、君の場合、相手が怖がって言わないから、大抵お咎め無しだよね」
「……まぁな」
 静雄は僅かに苦い表情で答えた。自首するほど殊勝な性格では無いが、心中に複雑なものがあるのは確かだった。そんな静雄の表情を読んで、新羅は苦笑を浮かべる。
「気にしてるの? いいじゃん、おかげで助かったんだし。君が捕まったらセルティまで引っ張られるんだから、これでいいんだよ」
 静雄は何か引っかかるものを感じながらも、素直に頷いた。
 そうこう話しているうちに靴箱までたどり着き、各々靴を履き替える。静雄のスニーカーは、昨日靴底が焦げてそのままだった。
 新羅が上履きに足を突っ込みながら口を開いた。
「だけど結局、一番得したのは臨也だね。なんせあいつら、君と友達だと思い込んでるんだから、口が裂けても言えないだろうよ」
 鈍い音をさせて、静雄は靴箱の扉をめり込ませた。金属製の板の真ん中が見事に凹んでいる。周囲の学生が、慌てて静雄の傍から逃げ出した。
「……うん。これで靴を隠される心配は無いね」
 新羅はとぼけて視線を泳がせた。

 予鈴が空しく響き渡る、何でもない朝のことだった。
作品名:死人に口なし 作家名:窓子