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【スマブラX】かまわれるとしにます

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選手の控え室は常に活気あるざわめきに満ちている。
 この祭典ででもなければ会えないような者たちが一同に会しているのだから当然といえば当然であるが、そうした周囲の賑やかさをよそに、カービィはかつてないほど集中させた意識をある一点へと傾けていた。
 目の前でふわふわと揺れるその動きに合わせ、カービィもぽよぽよと丸い体を左右に傾ける。
 明るいブラウンの柔らかそうな毛並み、先端だけが白い。
 カービィに背を向けファルコと他愛もない話に興じているフォックスの気分を映し、彼の尻尾はいかにも呑気なのだった。
「次はおまえとチームだったよな、ファルコ」
「張り切りすぎるなよ。どうも危なっかしくてしょうがねえ」
 切って捨てるファルコの一言に太い尻尾がぴょんと跳ねる。見えなくても、フォックスが今どんな顔をしているかカービィにはわかるような気がした。
「余裕ぶってくれるじゃないか」
「厳然たる事実ってヤツだ」
 腐れ縁ゆえの気安さに少し毒を含ませてファルコが嘴を歪める。
「遊びすぎなんだよおまえは、てめえが投げたバンパーにてめえで突っこみやがるしな」
「そ、それは……」
 言葉に詰まったフォックスの尻尾は、力なく垂れたかと思えばすぐに小刻みにせわしなく上下し始める。その動きを追って俯いたり見上げたりを繰り返していたカービィは、そのすばやさに負けてついに椅子から転がり落ちてしまった。
 大きく弾んで柔らかく伸び縮みする便利な体は痛みをほとんど吸収してくれたが、それでもカービィの口からは不満とも悲鳴ともつかない声がこぼれ出てしまう。
 それに耳を動かしたフォックスが肩越しに振り返り、足下を見下ろし、それから瞠目しつつカービィを抱き上げてくれた。
「どうした? 大丈夫か」
「ぽよ~……」
 腕の中で身じろぐと、やはり思っていたとおり柔らかな毛並みがカービィの頭頂部をくすぐる。
 すぐ上にフォックスの不思議そうな顔があり、その後ろでファルコが普段は鋭い面貌をやたらとにやにや笑み崩させている。
 ぽよぽよと礼を述べるが哀しきは言語の壁、フォックスは首を傾げてみせるだけである。
「悪いな、なんて言ってるかわからないんだ。……降ろしても平気か? 具合が悪いわけじゃないんだろう?」
「ぽよ」
 肯定の意だけは無事に伝えることができたようでフォックスは膝を曲げて屈んでくれたが、カービィが再び床へ降り立とうとしたその時、ファルコがからかい含みの声音でそれを妨げた。
「ヘイフォックス、性格はともかく体まで正直なのは不便そうだな」
「は? どういうことだ」
 聞きようによっては下品なそれに顔を歪めるフォックスへ、ファルコはただ愉快そうに顎をしゃくる。
「自分の尻尾に訊いてみな」
 体を捻ったカービィがファルコの言葉の意味を理解するより、言われたとおり己の尻尾を見下ろしたフォックスが赤面するほうが早かった。
 音を立てそうな勢いで、フォックスの尻尾がふさふさと揺れている。
「まあ短くはない付き合いだと思ってたがよ、おまえがそういうモンに弱いとはな?」
「……いいだろう、別に」
 フォックスはファルコの揶揄を否定しなかった。
 カービィをそっと床へ戻すと、照れくさそうに気まずそうに一度だけ頭を撫でて立ち上がる。ファルコの手前居心地が悪いのか、彼を急かして控え室を出て行こうとするフォックスの尻尾がまたもカービィの眼前を掠めた。
「ぽよ、ぽよっ」
 カービィも彼に頭を撫でられた。それが嫌だったわけではなく、むしろ心地良かったのだが、彼が触れたのだからカービィも自分の好きなようにしてもいいのではないだろうか。
 きっといいのだろう。
「ぽ~……よっ!」
 だから目の前を通り過ぎようとしているフォックスの尻尾に、反動をつけて思い切り抱きついた。
 やはり抱き心地はふかふかと優しく、つややかな毛並みが肌に触れて物凄く気持ちがいい。
 尻尾にしがみついたまま昼寝でもしたい気分だったが、しかしうっとりと目を閉じかけたその瞬間カービィは現実に立ち返る羽目になってしまった。
「うひゃあああっ!?」
 フォックスのあげた頓狂な声が控え室のざわめきを完璧なまでに鎮めきったのである。
 ファルコでさえ目を丸くして硬直していたが、へたりこんだフォックスの緊張してこわばった尻尾にいまだしがみついているカービィを見つけた瞬間、静寂の満ち満ちた室内いっぱいに響き渡る大声で爆笑する。
 おそるおそる尻尾から体を離してフォックスの前面に周ったカービィは、彼が先程よりも更に顔面に朱をのぼらせ小さく震えるのを見た。
 想像外の反応に困惑してファルコを振り仰ぐが、彼は彼で腹を抱えて笑うばかりでカービィに解を与えてくれそうもない。
「ぽよ~……?」
「……い、いいんだ……気にしないでくれ」
 くったりとしゃがんだまま潤んだ目で力なく笑うフォックスへ全身で疑問を表したが、やはり原因はわからない。



 フォックスは尻尾のつけねに触られると弱いのだ、とファルコが目尻に涙を浮かべながら教えてくれたのは、その一件ののちカービィがフォックスの尻尾に更に三回ほど抱きついて彼を腰砕けにさせてからだった。