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生きたがりの蝉

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死ネタ注意



この世は死の臭いで満ちている。


元々身体が弱いことは知っていた。姉も俺と同じで気管が悪く、そのせいで向こうへ先に行ってしまった時は嫌な予感が過ぎったのも覚えている。
あの時そう一瞬でも考えたからなってしまったのだ、等と過去の俺への嫌味を言ったって仕方がない。
そういう結果になる運命が定まっていたのだとしても、せめてもう少し死へのタイムリミットを先伸ばしにしておいて欲しかった。


今日もこれが最後の出陣となるかなと、意気込み8割、怯え2割で、幕府への忠誠を纏い、刀を取った。




前から、横から後ろから襲い掛かってくる敵を無心で斬る。
もう何年もやってきた。伊達に一番隊隊長をやっている訳ではないのだ。
でも…でも、
斬った奴らから斬った瞬間に出る血と倒れ込む所を、最近は見ないようにしている。自分が血を吐き地に伏せる事になるだろう、という考えが頭を支配してしまうから。
無心にならなくてはならない、死への恐怖は捨て去った筈ではなかったのか。
身体が武者震いでない震えをしていることに嫌気がさす。

考えた途端に咳が止まらなくなり、息が出来くなった。口に手を当てて咳をしていると、体を支えられなくなり、片膝をついてしまった。隊服を見ると先程までなかった新しい血が付いていた。

大丈夫だ、気付かれていない。屍を踏み越え、向こう側にいる仲間のもとへ行く。
ひしめき合うソレに気をつけながら歩く。足を踏み締めるたびに、豪雨の後の地面を歩いた時のような音がして、それが血だと認識するたび吐き気がする。それはいつになっても馴れない。馴れてはいけないものだとは思うけれど。

「総悟、お前は特に怪我はしてないようだな。よかった」

バレてはいないようだ。嘘をつくのは気が引けるけれど。

「近藤さんこそ無事でよかったでさァ。今回の被害は…」

「2人死んだ…」

「あんたには聞いてないんでィ……」

あぁ、今回も。俺よりも寿命が長いはずの奴らが…。こんなチキン野郎がまだ生きているとは申し訳ない。
だから、だからこそ俺は隠し通して、少しでもこの幕府を護っていかなければならない。足手まといにならない間に。


タイムリミットはいつまでか。
2年?3年?それとも1ヶ月もないか。

もう予測不能なレースは始まっている。






サドが倒れた。それも、ちょっとやそっとの風邪ではないらしい。
それを聞いたのは3日前。サドと顔を合わせなくなったのは1週間前。何か私と距離を置くようになったのが2週間前。サドに違和感を拭えなくなったのが1ヶ月前。体調が悪いのかなと、ちょくちょく思うようになったのが半年前。

様子が変だったのを気が付かなかった訳ではなかったのに。
少し気にかけて誰かに相談する時間がなかった訳ではないのに。

言ったら何かが変わってしまうと怯えていたのは私か、壁を作っていたのはアイツか。


周りは、アイツがいきなり見回りの時にぶっ倒れるまで、全然気付かなかったと驚いていた。さすがにゴリラやマヨ、銀ちゃんも違和感は覚えたらしいけど、日常における些細な変化だと思うくらいだった。

なのに、私は分かっていた。断言しよう、逃げては駄目だ、“分かって”いた。

ああ、アイツの事が……呟いたその言葉がストンと心に落ちた。





銀ちゃんに公園に行ってくると、さして特別でもない小さな嘘をついた。

確か前に好きだと言っていた、三色団子が冷蔵庫の隅にあったので、それを拝借して。右手に傘、左手に団子が入った風呂敷包、持って頓所へと向かう。


頓所には裏口があり、一見見張りが居ないように思えるが、その内には人が待機しているのを知っている。
女人禁制の所に一応女である身の自分が堂々と入るのは面倒臭い。
頓所の横に佇む塀の上に、一旦団子を置く。フッ、軽く息を吐いて、傘を地面に突き付けて体を宙に浮かせて、壁を越える。団子を忘れずに取ってから、駆け足で縁側の窓が開いていた部屋に忍び込み、廊下に出る。
何度か来たことがあるから分かる。あまり音を響かせないように廊下を駆け抜ける。
此処から先の曲がり角を通った所の、突き当たりから3番目。
隊長格だからか、心なしか周りの部屋より広い気がする。豪勢な部屋で過ごしてやがる、そう心の中で呟いてから、襖をガラッと開けた。

そこには…

「誰だっっ」

寝間着ではあるが、刀を構え、立て膝をついている沖田の姿があった。
作品名:生きたがりの蝉 作家名:汀紗良