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輪廻の果て

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四話





舞い落ちる紅葉。石段を登れば、朱い鳥居が顔を出す。臨也は紅葉の名所と歌われている神社へと脚を伸ばしていた。
ほんの気まぐれだ。紅葉がとても美しいとか、都一と言われる巫女がいるとか、そんな噂を聞いただけ。
けれど、その気まぐれが臨也のこれからの一生を大きく変換させることになる。

「へぇ・・・流石名所っていわれてるだけのことあるね」

真っ赤な紅葉が青い空と相まってとても美しい。妖怪の己でさえも思う、言葉にできぬ美しさだった。
ひらり、と落ちてきた葉をとる。くるくると指先で回しながら歩いていくと道が開け、神社の本殿が姿を現した。

(へぇ・・・すご)

臨也は楽しくて口角を上に上げる。白い石が敷き詰められ、本殿が厳かに鎮座している。
これほどまでに清浄で整理された神社はそうそうない。

(しかも結界を張って落ち葉が入り込めないようにしてるとかさ・・・)

白石には紅葉が一枚もなく、その白さを際だたせていた。
人の力でここまでするなんて、驚きを隠せない。そして同時に興味がわいた。
たぶんこれは都一と言われている巫女の仕業だろう。では、その巫女はどういう人間なのだろう。
噂通りなのか、それとも単なる噂なのか。臨也の紅い瞳がきらりと光ったそのとき。
臨也は殺気を感じ、急いでその場で跳躍する。同時に臨也が立っていた今までの場所が割れた。
文字通り、割れたのだ。臨也は驚愕に目を見開き、白石に足をつける。そして先ほど殺気を感じた方に目をやると。

「・・・へぇ、君が巫女様か・・・」

そこには青い瞳で氷のような視線を臨也に向ける少女がいた。
臨也はとっさに思った。幼すぎると。そして、力が強大すぎる、とも。

(あれじゃぁ妖怪にねらわれただろうに・・・)

少女は臨也を視線にとらえたまま、戦闘態勢を崩さずに札を一枚取り出した。

「帰りなさい」

凛としたまだあどけない少女の声が響き渡る。

「ここは貴方のような上級妖怪のくる場所ではありません。お帰りなさい、さもないと」

「さもないと?」

臨也はニマニマと少女を見つめ返す。自分を一発で上級妖怪と見破ったこともそうだが、
この少女が何故己を帰らせようとしているのかが気になった。
上級妖怪でも彼女の力なら己を足止めすることができるであろう。そして仲間を呼んで殺せばいい。
けれど彼女は帰れと言う。都の人間は誰もが妖怪を見つけ次第殺すものだと思ってきたし、実際そうだった。
だから彼女の言葉に内心小首をかしげる。こんなに分からない人間が久しぶりすぎて歓喜が臨也を襲った。

「さもないと、・・・・殺すことになります」

だからとても陳腐な言葉が少女の口から出たとき、臨也の落胆は大きかった。
いや、勝手に歓喜して落胆しているのは臨也自身なので彼女は悪くない。

(でも、ありきたりすぎてつまんない・・・)

臨也が興ざめして、面倒だから帰ろうと思ったそのとき、次に紡がれた少女の言葉に臨也が言葉をなくした。

「貴方は私に似ているから・・・だから殺したくないんです。だから、帰って」

冷たい瞳の奥底に、悲しみの色があることを漸く臨也は気がついた。
臨也は一気に少女と自分の距離を縮める。臨也の細長い手が少女の頬に触れた。
あまりの臨也の早さに、少女は目を見開いて言葉が出ない。

「似てるってどういうこと?」

「っ」

臨也の言葉に見るからに顔をゆがめ、唇をかみしめる少女。次の瞬間、持っていた札を臨也に投げつけようとした。
けれど、臨也はその札ごと少女の手を優しく握りしめる。
その札が青白い炎を上げて発火した。少女の瞳が驚愕と恐れの色に塗り変わる。

「何してるんです!?」

「っ、これっやっぱあっつい、ねっ」

少女は急いで臨也から腕をもぎ取ると、灰と化した札を捨てる。
そして己の懐から清楚な布と合わせ貝を取り出し、貝から塗り薬を取ると臨也の手に触れ傷に塗り始めた。
その少女の動作に臨也は本気で驚く。人が、妖怪である自分を介抱するなど・・・ありえないはずだった。

「すみません・・・」

「ぇ」

そして少女の口からこぼれた謝罪の言葉に臨也は困惑する。臨也が少女を訝しんでいる間に、少女は布で丁寧に臨也の手を巻き始めた。
その間の少女の顔は苦痛でゆがみ、今にも泣き出しそうに見える。
臨也は無意識に、怪我をしていない方の手で少女の頭を撫でた。少女がぱっと顔を上げて臨也を見つめる。
臨也も己の行動に当惑しながら、頭をなで続けた。
次の瞬間、少女がふわりと、笑った。泣き出しそうな、それでも笑おうとした笑み。
臨也の心臓が痛いくらいに一跳ねする。

(なんなんだこれ・・・・。心の臓が痛んだけど?)

「はい、これで良いと思います・・・。ぬらりひょん」

少女はまた臨也に笑うと、そっと布を巻いた上から臨也の手を撫でた。

「ぬらりひょん?どうして俺のこと知ってるの?」

臨也は小首をかしげながら、先ほどまで頭を撫でていた手を少女の頬に当てる。
少女は一瞬、臨也が何を言っているのか理解できなかったのだろう。数秒の間の後に、みるみるうちに顔を赤く染めあげ瞳を潤ませた。

「い、いえあのっそ、そのっ!」

わたわたと動揺する少女の柔らかな頬を撫でながら、臨也はうんと頷いた。
話すまでこのままの状態が続くと察した少女は、頬を染めたまま臨也から視線をはずしポツリとこぼす。

「見てましたらから・・・。妖怪達を引き連れた百鬼夜行を・・・。あれができるのは妖怪の主であるぬらりひょんだけでしょう」

臨也は納得した。そしてまた驚く。百鬼夜行を見られる人間など、そうはいない。
大抵の人間、並大抵の力がなければ見ることが敵わないあの妖怪の大群を、この歳で見たというのだ。

(本当に驚きの連続だ・・・!)

生まれてこの方、こんなに驚いたことなどあっただろうか。
臨也は目の前の少女に惹かれている自分を感じた。その衝動そのままに、臨也は少女の額に唇を堕とす。
きっかり三拍置いた後、少女の顔が突如ボンという音と共に真っ赤に染め上がった。

「なっなっ」

ぱくぱくと何度も口を開いては閉じるを繰り返し、言葉にならない声が漏れる。
臨也はとても愛おしそうに少女の頬を一撫ですると、小ぶりの耳朶に唇が触れるくらいに近づきささやいた。

「俺の名前は臨也って言うんだ・・・。何かあったら俺の名前、呼んで」

そう言うと臨也は地面を跳躍し、瞬く間に青い空へと吸い込まれていく。
残された少女はその場へたり込み、唇を堕とされた額に手を当てながらただ呆然と臨也が消えた空を眺めていた。

作品名:輪廻の果て 作家名:霜月(しー)