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Stand by me

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 テレビのチャンネルを回していたら、懐かしい歌が聞こえた。
視線をテレビに向けると4人の少年が線路を歩いている。
「……Stand by me…か」
 4人の少年の冒険譚だった。もはや有名すぎる映画で夏休みになるといつもどこかのチャンネルでこの映画をやっていた。


 僕ももう何度もこの映画はテレビで見ていた。けれど、いつも最後まで見てしまうのに、決して好きな映画じゃなかった。普通はみんな好きだと言うのだけれど。僕はこの映画がどうしても好きになれない。

 またぼーっと画面を追っていたら後ろでリビングのドアの開く音がした。
「あれ、由樹、映画見てるの?―――うわ…、懐かしい。Stand by meだ」
 のしのしと床を押し付けるような足音で歩くのはこの家には一人しかいない。そしてその声を僕が聞き違えるはずもなく―――僕は後ろに立っているはずの誠吾に話し掛けた。
「―――知ってるか?これって本当は原作だと『恐怖の四季』っつー短編集の一作なんだって。しかも当初の英題『the Body』だったとか。結局さぁ…、こいつ――死んじまうしな」
 普段は傍にいるだけで鬱陶しい誠吾だけど、この時僕は胸にある曖昧な気持ちを整理したくて、誠吾相手に言葉にして頭を整理する。もう何度も見ているから、終わりなんてわかっている。
「――――そう、なんだ。それにこの子……役者さん。若くして死んでるよね」
 リーダー格の意思の強そうな少年を指差して誠吾が言った。僕はつい驚いた顔をしてしまう。
この役者がもうこの世にいないなんて知らなくて、本当に驚いたからだ。
「リバー・フェニックスはね、薬物による心臓発作で死んでるんだよ」
 風呂上りなのか誠吾が髪をぬぐいながら呟いた。この少年がリバー・フェニックスだと、僕は初めて知った。大体僕は日本の芸能人にも興味ないのに、外国の俳優の名前まで知っている訳ない。
 それに気付いているのかいないのか、誠吾は髪を拭いていたタオルを首からかけて、冷蔵庫から出してきたばかりのコーラをあおった後に、首をかしげながら続ける。

「どうして死んじゃったんだろうね。人気もあったはずなのに。薬に手を出しちゃうなんて」
 珍しく誠吾がまともなことを言っていると思った。そして、その言葉に僕は何故この映画が好きになれないのかに気づく。

「なるほど…。生きることに対しての前向きさがあんまないからだ…」
「え?そう?この映画って結構前向きでがんばろうって感じじゃない?」
「違う。役者の…主人公の性格も嫌いだけど。そっか、この眼がいけなかったんだ」
 呟く僕を誠吾が不思議そうに見ていた。

 そうか、この達観した少年の瞳が僕は嫌いだったんだ。

 結局弁護士になって事件かなんかに巻き込まれて、正義感が過ぎて死ぬんだっけ、この少年は。

 そういうところが納得できなかったんだ。

 僕は人のために何かするなんて真っ平だ。何かするなら、自分で手を伸ばして、自分の足で歩くべきだと思っている。

 だけど、この少年の瞳は……、死すらも達観してしまったようなその瞳が、そんな僕の心を偽善だと見透かしているようで。本当は僕がそんな生き方が出来ないと、そう言って
いるようで嫌だったのだ。

 僕は初めて画面の少年と向き合った。

「生きるって……、なんなんだろうね」
 何時の間にか隣に座った誠吾が、最後の、大人になって子供達と共に出かける主人公を見ながら呟いた。

 人は一人では生きていけない。

 だから人は呼ぶ。

 一緒に歩んでくれる人間を。

 だから人は叫び、呟く。

 Stand by me___________




 そばにいさせて。




 僕が歩くために。








作品名:Stand by me 作家名:侑希