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Howling Fate 【コミケ79 サンプル】

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「ところで、アリスは俺たちが『何』で動いているのか知っているんだよな?」

 一瞬で、理解できた。全身から血の気が引いていくというのをアリスは今初めて実感した。
 余所者であるアリスは当然ながら心臓を動かして生きている。しかしこの世界の人間はそうではない。別のものを動力として生きていると、渋るユリウスから聞き出した。その時感じた戦慄はまだ覚えている。そして今、蘇った戦慄はその時よりも大きく、激しく。
 アリスは衝動的にエースを突き飛ばした。とは言え女の細腕で押された程度のことでバランスを崩すような相手でもない。距離を取れたのは突き飛ばされると同時にエースが自分から後ろに下がったからだ。或いは怯えるアリスの表情を眺めようとしたのかもしれない。そうはいくものか、とアリスは眉を吊り上げた。できうる限りの厳しい視線でエースの曖昧な笑顔を睨みつける。それが虚勢であることは誰よりもアリス自身が知っていた。

「……壊したり動かなくしたり、の間違いじゃないの」
「ははっ。そんなことも、あるかもしれないな」

 エースは動じない。もっとも、多少の非難で動じるような人間でないことはアリスとて知っている。それでも黙っていられなかっただけだ。しかし抵抗もそこまで。アリスはそれ以上何も言えず、黙って拳を握り締める。
 今や顔面蒼白になってしまったアリスを見つめ、エースは困ったように微笑んだ。視線を地面に落としているアリスがその表情を見ることがなかったのは、果たして幸運か不運か。

「俺は、君とも友達でいたかったよ」

 そしてエースは立ち尽くすアリスの横を通り過ぎ、未だ転がったままになっていた血まみれの時計を拾い上げた。一度だけ軽く宙に投げ上げて受け止める。そのまま握り潰してしまうのではないかと思うほど強い力を込めて、エースは小さな懐中時計を掌に収めた。そして振り向くことなく階段を上がっていく。行き先は明らかで、今更敢えて口にすることでも確認することでもない。
 アリスはエースを呼び止めることも追いかけることも……それどころか顔を上げることすらできずに唇を噛み締めるだけだった。
 どこかで歯車が落ちる音を聞いた気が、した。