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すり抜けた星のかけら

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「モノクロに彩られた夢」の少し前につながってるようなそうでないような。妥当なキャラが見当たらなかったので、ブルースクエアの一員を捏造。オリジナルキャラとか嫌いな人はご遠慮下さい。



すり抜けた星のかけら


「ばかだね」

きれいな言葉以外使わない人の、めったにないその真正面からの罵倒はいやに舌っ足らずに子供じみて聞こえた。

制御できない感情に操られた手が、あの人の手を取る。それ以上何も言わず、あの人は受け止め、一瞬だけ、握り返された後離れていった。

あの一瞬。そこに込められた感情を、意味を、訊くことができなかったことが、今でも胸の奥でくすぶっている。




「きみは、ほんとうにばかだね」

見ていることしかできなかった俺に、あの人はかつての言葉をもう一度告げた。

今でもあなたは言うだろうか。

あれから、俺のパレットにはあなたの色しかのらない。




雨の日の倉庫は、湿気と冷気が篭って、黴臭さが増す。冷たい雨が、青葉は嫌いだった。彼がいなくなったあの出来事を思い出させるから。

ピピピッと電子音が濡れた空気を揺らした。発信源の携帯電話をパーカーのポケットから取り出す。感覚の鈍くなった指先で、成功の報告に撤収の指示を返した。

これで、こんな陰気な場所で待機する理由もなくなった。帰りに缶コーヒーでも買って帰るかと、腰を浮かせた青葉の前に、ブルースクエアでも古株の少年が影を落とした。

「解散?」

「ああ」

べたつくジーンズ緩慢に動かして立ち上がり、倉庫内のあちこちで好き勝手なことをしながら待機していたメンバーに、解散の声をかける。

一人、また一人と去っていく中、目の前に立つ少年だけは帰るそぶりすら見せない。嫌な予感を抱きながらも、表情を消して、彼が何かを言い出すのを待った。

思ったとおり、何気ない風を装って探りを入れてくる。

「なあ、いつまでこんなことすんの?」

「先輩が戻ってくるまで」

「あのさ、」

「んだよ?」

「お前本気で、あの時あんな風になったリーダーが、ここに戻ってくると思ってんの?」

繰り返し思い出す。傷ついたあの人の諦めたように、浮かべられたほほえみ。知っていたのか。ただ、信じてなどいなかっただけなのかもしれない。

降り注ぐ雨に熱を奪われ、白く透き通った頬に、傘を差し出せていたなら。

「お前があの人にそこまでこだわる理由ってさ、」

「知ってる」

息を飲んだ気配。自分の気持ちに気がつかないほど馬鹿ではない。いや、こんな感情をいだいてしまったことの方が馬鹿なのだろう。あの日竜ヶ峰帝人がそう言ったように。

「……いつからだ?」

「どっちが」

「どっちも」

「好きになったのは、わかんねえ。気づいたのは結構前。少なくとも先輩がいなくなる前だな」

「意味わかんね。好きな相手にそこまでするか?」

「いらなかったから」

「好きなのに?」

「違う。先輩にはブルースクエアと契約しかいらなかった。先輩も気づいてた。でも、何も言わなかった」

「うざってえなー、お前初恋かよ」

「うるせえ」

「え、マジ?」

目を丸くされても、自分以上に誰かに囚われることが恋ならば、こんな体験は初めてに違いなかった。

「会いに行けよ。謝ってどうにかなんのか知らねえけど、こんな回りくどいやり方しなくったって、それだけの話だろ」

「……それができれば」

きっと、青葉が何を企んでいるかは知らなくても、裏で何かをしていることはわかっていたに違いない。そもそもお互いが利用しあうという契約だった。青葉は始めからあの人の信用など得ていなかった。

ばかだね、と彼が言ったのはきっとそのせい。利用する人間に恋をするなんて、確かに愚かに違いない。そして、あの日、自分が起こしたことで彼が犠牲になるのをただ眺めているしかなかった青葉に、投げかけた同じ言葉もまた。

あの時、

「嫌いだって言われたのか?」

「違う。ばかだって言った」

「ひでえ。でも、まあ、それは当たりだよな。俺らリーダーに酷いことしたし。お前首謀者だし。それで?」

「うるせえよ。なんも……」

一度だけ、手を伸ばした。そして、一瞬だけ、握り返された。その意味は。

「わかんねえけど、最近お前暗くてつまんねえよ。そんだけ。じゃあな」

しつこく突いてきたかと思えば、あっさり引き下がった仲間の背中を呆然としたまま見送る。

青葉一人しかいない倉庫は静まり返り、屋外の雨音がやけに響いた。

寂しいなんて言わない。

冷たい雨水がじわりじわりと靴に染み入る。冷え切った爪先を動かすことすら億劫になり、倉庫に佇んだまま青葉はあの時に思いを馳せる。

自分の気持ちを思い知ったあの時。それをあの人が悟ってしまったあの時。

あの雫はなによりも暖かだった。

抑えきれない感情があふれた一瞬後、あの黒い眼は驚きに見開かれた。

青葉は一瞬だけ後悔し、そして思い直した。

だって、あの人の涙を掬い取らずにいられる方が、今の青葉にとって理解できない。

この透明な雫をキャンパスに塗ったら、きっとそれは世界で一番綺麗な色を描くだろう。

そんなことを夢想するほど、青葉にとって遠い人だった。

そして、震える声が紡いだ言葉。あの声の響きを、小さく動いた口の動きを、何度も何度もすり切れるほどに思い返した。

「俺は、あの時どうすればよかったんですか」

自分の行動を他人に委ねるなど、この想いを知る前の青葉ならば思いもよらなかっただろう。

帝人が去ってから、青葉はいつも問いかけていた。

もしかしたら、言えばよかったのかもしれない。訊けばよかったのかもしれない。

一瞬だけ分け与えられたぬくもりの理由を。

「先輩」

弱った鮫は雨の水でさえ溺れ死にそうだ。

だから、今度こそ、あの暖かな雫を逃さないように。あの頬にぬくもりを与えられるように。

あの手を離さないように。

全てを飲み込む檻をつくろう。

あの人に愛されたこの街を檻に変えて見せよう。


今は、あの人が置いていったあの言葉だけが、いつまでも空っぽの檻の中で瞬いている。


作品名:すり抜けた星のかけら 作家名:川野礼