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ノマカプAPH年賀詰め合わせ

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うさぎとねこと除夜の鐘



2010年、12月31日。三日間に渡る戦いを終え、日本はくたくたになりながら家路についた。両手いっぱいの紙袋と背中のリュックの重さが、なんともいえない充実感を表していた。
「さすがに三日連続は、この老体には堪えます…」
毎年疲れて帰ってきて、来年はやめておこうと思うのに、年末になると思いだしたように有明に足を向けてしまうのは、一種の性のような気もしないでもない。やれやれと肩を揉んだ日本は、家からこぼれる明かりに気がついた。
「…まさか……。」
家には留守をまかせた愛犬のぽちくん以外に誰もいないはずだった。それでも、日本にはいつも自分の好きなときに突然やってくる人物に心当たりがある。
ただいま帰りました、と引き戸を開けると、玄関に一人の少女が仁王立ちで立っていた。
「…やはり貴女でしたか、ベラルーシさん。」
ふうと息を吐きながら荷物を玄関に置くと、奥の部屋からぽちくんが走ってやってくる。
「たくさん待ったんだからな」
どうやら彼女は怒っているようだった。日本は、すみませんと一応謝っておく。
「でも、29日から三日間忙しいから会えませんよって言っておきましたよね?」
クリスマスに二人で出掛けたときに、年末の予定を聞かれてそのときに言っておいたのだ。だから、次に会うのは年明けですね、と。
「…聞いた、けど」
ベラルーシは小さな声で答えると、ふんと鼻を鳴らして踵を返す。日本はおやおやと笑った。
先に歩いて行ったベラルーシは、慣れたように炬燵に潜り込んだ。何度も日本の家を訪れている彼女には日本家屋は慣れたもので、初めて炬燵を見た時は驚いていたけれど、今では自分から炬燵に入って居眠りするくらいだった。
「ベラルーシさん、御夕飯は?」
荷物を置いて、自分も炬燵に入った日本は、ベラルーシに尋ねた。何か作りましょうかと付け加える。
「いや、いい。」
ぽちくんを撫でながら、小さく首を振った。じゃあ、みかんでもつまんでくださいね、と日本はそばにあった段ボールからみかんを持ってくる。
「それで、何か用事があったんじゃないんですか?」
みかんの皮をむきながら聞いた。戦利品を読むのは明日以降になりそうだ。ベラルーシはう、と言葉を詰まらせる。
「用事がないと、来ちゃいけないのか…。」
相変わらずぽちくんを撫でながら、ぼそぼそと呟いたベラルーシを見て、日本はにやにやと笑った。
「いいえ、私も会いたいなと思っていたので。」
みかんの皮を剥いて、もぐと一粒口の中に放り込んだ。
「お前は、ずるい…」
俯いたベラルーシは、ゆっくりと言葉を紡いだ。怒っているのだ。ずるい。ずるい。会いたいのは自分だけで。遠くて。
「私よりもこみけ?のほうが大事なんだろ!」
ふんとそっぽを向いたベラルーシを見て、日本はぷっと吹き出した。よしよしと白銀の髪を撫でてやる。
「どっちも、大事ですよ。でもコミケは、一期一会ですから。ベラルーシさんには、いつだって会えるでしょう?」
一度だけじゃ、ないでしょう?日本がそう言って笑うと、ベラルーシはまた言葉を詰まらせる。何度だって会えるから。会いたいときはいつだって会えるから。
「そんなの、知ってる」
それを問うのはとても意地悪で、日本を困らせてしまうことも知ってる。日本がそれを比べることができないことも。
「でも、…そういう紙袋を見せられると、それに負けたのかと思うといらいらする」
ベラルーシはちっと舌打ちして、日本の持ってきた紙袋を一瞥した。かわいい女の子の絵が描いてある。
「二次元と張り合わないでください…」
日本はやれやれと笑い、頭を掻いた。仕事と私、どっちが大事なの?と聞かれるより、日本にとっては二次元と私どっちが大事なのかと聞かれるほうが困る。次元が違うのだから。けれど日本は、ベラルーシが怒っているのも嬉しかった。会いたかったと、言葉を聞かなくても、そうなのだとわかるから。
ぼんやりとみかんを頬張ると、除夜の鐘が聞こえてくる。
「そろそろ、年も明けますね。来年はうさぎ年ですか。」
すり寄ってきたぽちくんを撫でると、きゃんきゃんと鳴いた。
「うさぎ…?」
日本は押し入れをごそごそと探り、何かを持ってくる。ベラルーシが首を傾げているのには、気がつかなかった。
「そうです、うさぎですよ!ってことで。はい、うさ耳です」
日本が押し入れから持ってきたのは、バニーガールがつけるような、うさぎの耳のカチューシャだった。
「なんでこんなの持ってるんだこの変態」
ベラルーシが一息で罵倒すると、日本はにやにやと笑う。
「余興とかで必要なんですよこういうの。つけてみますか?」
無理矢理つけようとする日本の手を、ぱしんと叩いてベラルーシはぎりと睨んだ。
「死ね」
「手厳しいですね…うさぎ、かわいいじゃないですか。これをつけると来年いいことが起こる気がしませんか?」
どうにかうさ耳をつけようと説得する日本を見て、ベラルーシはふんと鼻を鳴らす。
「私の家は来年猫年だ」
地域によって異なるが、ベラルーシの干支は卯が猫に代用されることがある。2011年は、ベラルーシではうさぎ年ではなく猫年だった。
「へえ…珍しい。それは初めて聞きました。」
ほおと感心する日本に、ベラルーシはすかさず言葉を続けた。
「だからうさぎの耳はつけない。干支じゃない耳をつけて運気があがるとは思えないからな。」
ふふんと得意気に笑ったベラルーシを見て、日本はそれなら、と笑った。
「いやあちょうどよかった。猫耳もあるんですよ。ここに。」
押し入れから、今度は猫の耳がついたカチューシャを取り出してくる。
「だから!なんで持ってるんだお前は!この変態が!」
声を荒げるベラルーシを横目に、日本はカチューシャをベラルーシにつけようとした。
「猫耳のほうが普通はスタンダードだからですよ。はい、来年猫年のベラルーシさん!さあ!つけてください!」
目をきらきらと輝かせてカチューシャを押しつけてくる日本を見て、ベラルーシはぷっと吹き出した。
「バカ面…」
そばにいるだけで、こんなに楽しい人がいる。ベラルーシはそれがとても嬉しかった。うさぎの耳のカチューシャを取って、日本の頭につける。
「お前も、だからな」
今日だけは特別だ、と猫耳を自分の頭につけた。それを見て日本はふるふると震えながらカメラのフラッシュをたきまくる。
ゴーンと、大きな除夜の鐘が鳴った。年が明けたのだ。
「お前がふざけてるから、いつの間にか年が明けたじゃないか!」
馬鹿だなと言うと、日本は改めてそこに正座した。ゆっくりと頭を深く下げる。一礼すると、にこりと笑った。
「明けましておめでとうございます、ベラルーシさん。」
「あ、ああ。…おめでとう」
礼儀正しくお辞儀をされて、ベラルーシは少し戸惑った。ぶっきらぼうに返すと日本はまた笑う。
「…その、えっと…。今年も、よろしく。」
ベラルーシは頬を赤らめた。頭についているカチューシャのせいで全く格好がつかない。
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします!」
馬鹿だな、と思う。こいつに会うまで、こんな風に笑うことなど忘れていたのに、と。きっと、たった今始まったばかりの今年も、こんな馬鹿な男と一緒にいるんだろうと思い、ベラルーシは目を瞑った。