二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

かぐたんのゲテモノ日記

INDEX|16ページ/16ページ|

前のページ
 

春待ち

~しょーよー先生ラヴ★ザ・フォース。

剥き出しの枝に蕾が一つ増え、二つ増え、庭の景色が明るい春の色を帯びていくごとあの人は無口になった。
少し前まで、薄着でしょっちゅう辺りをふらふら出歩いていたくせに、この頃では滅多に庭へ降りようとさえしない。ただ、縁側にぼんやり座り込んで、日々薄紅色に染まる樹影を眺めているのだった。
気を利かせたつもりで縁側へ運んだ膳を下げに行くと、やはりほとんど手は付けられていないようだった。
「……また食べてないんスか、」
「――、」
庭を見つめて動かなかった姿勢が、はっとしたように俺を見上げた。口の端に薄い苦笑いの表情が浮かぶ。
「すみません、いつもわざわざ用意してもらっているのに」
「あたりまえでしょ」
恐縮する先生を諭すように俺は言った。
「どーせ食わねぇからってほっといたら、先生マジぶっ倒れるまでメシのこと忘れてそーだし、」
――そーなって看病するのは俺なんです、だからほーら生きている人間はメシ食うモンですよーって、一日三回思い出させてやってんです、恩着せで厚かましく胸を張る俺に、
「本当に、感謝しています、」
三つ指揃えて先生が板敷きにぺこりと頭を下げた。
「……わかればよろしい、」
大袈裟に俺は一つ咳払いしてみせた。目を上げて先生が笑った。さすがに少々やつれてはいたが、顔色はそう悪くなかった。
膳を避けて先生の隣に腰を落ち着け、庭のあの樹を見ながら俺は何気に提案した。
「桜餅でも買ってきましょーか? あと、ぼた餅とか大福とかいちご大福とか」
「……君が食べたいだけでしょう、」
くすくす笑いを耐えながら先生が言った。空を見たまま俺は頭を掻いた。縁側に並んで座る先生がふっと息を洩らした。
「――いいですよ、財布は預けてありましたよね」
「マジで買ってきていいんすかっ!?」
俺は先生の前に身を乗り出した。――やったぁ! その場に小躍りして、わざとらしいくらい子供っぽく喜んでみせた。驚いた顔をしていた先生がすっと眼差しを細めた。
「……こないだは、すみませんでした」
唐突とも思える切り出し方で先生が言った。
「え?」俺はとぼけたふりをした。
「わかっているくせに」
俯くと、くすりと肩を揺らしてあの人が言った。「――甘えないで下さい、って、ここで君に叱られた日のことです」
「叱られたって……、」
俺は急いで反論の言葉を探したが、うまい答えが見つからなかった。鬱陶しい天パと同じに、頭の中がもつれただけだった。
「君にも気付かせてしまいましたよね」
呟くようにあの人が言った。
「……えっ?」
俺は間抜けな声を上げた。真っすぐに、俺を見つめてあの人が言った。
「私が本気で、君と寝ようとしていたこと」
「……」
俺は膝上で拳を握り締めた。指先がひどく冷たかった。傍らで先生は淡々と続けた。
「きちんと謝らなければと思っていたのですが、このところ気力がしゃんとしなくて」
「――先生、」
俺は顔を上げた。先生が俺を見た。俺はニッと笑ってみせた。
「俺、臆病なんです、卑怯モンなんスよ、」
ことさらへらへらした態度を前面に押し出して俺は言った。
「頭ン中じゃ何度も想像してたくせに、イザんなったらビビっちゃって、」
膝の上で固まった拳を無理やり開き、へへへと頭を掻いてみせる。
――キモイっすか、そりゃキモイっすよね、俺みたいなクソガキの、それも自分の生徒に、親代わりも兼ねてさんざ面倒見てやったあげくちゃっかりオカズにされてたなんざ恩知らずにも程がある、そっこーこの家叩き出してやっていいレベルっすよ、俺は一息にまくし立てた。先生に、自分を責めて欲しくなかった。
だからあなたが俺に悟らせようと悟らせまいと、俺はとっくにあなたに本気だったんです、悪いのは、さんざん恩を受けながら、いつからか、……一目視線を交わしたあの日からずっと、そんな風にアナタを見ていた俺です、ウジウジへこむばっかで何もできやしねーくせに、バカみてーな嫉妬や独占欲や、そのくせいざ貴方の全てを背負い切る度量も覚悟もまるでない、どーしよーもない軟弱野郎の俺なんです、
「……そりゃあ知っていましたよ、」
水量不定の俺の立て板っぷりにしばらくきょとんとしていた先生が、急に小さく噴き出して言った。
「あれだけあからさまだと気付かないわけにいかないでしょう? どうやら私は、ものすごく君に懐かれているらしい、ってね」
「……ぇ」
俺は呆気に取られた。先生は俯いたまま、細かに肩を震わせている。
(……。)
確かに、思い返せば数々のオトコゴコロを手のひらに弄ぶこの人のこあくまちゃん的言動に覚えがない節ではない。――チクショウやられたダマされたー、やっぱ計算かよ天然じゃなかったのかよ、あんたいかにも"無垢"です、ってその儚げな風貌コンボでズルイわそりゃ、知るかよ勝手にダマされてるヤローがアホなんだっつー正論はナシの方向で、……まったく、だからイヤだよオトナって、オトナってオトナってオトナって本当になんだかなー、だ。
「ただ、君は子供で私は大人なんだから。それが分別ってものです」
笑い倒した目尻の涙を袂に拭うと、先生は塾長のときの先生の顔になって言った。
「はぁ……」
半分以上はほぼ納得いかないまま、俺は曖昧に頷いた。
「……ああ、久しぶりにたくさん笑ったらなんだかお腹がすきました」
きりりと引き締めた塾長の顔から、ふうっと力を抜いて先生が言った。
「じゃあコレ温め直しましょうか?」
俺は半身を捻って斜め後ろの箱膳に手をかけた。
「――それもいいけど、」
にっこり笑って先生が言った。「食後の菓子も欲しいですね、」
「じゃあっ、俺っ、今すぐ買ってきますっ! ってあとまずコレもあっため直してからっ」
俺は縁側に立ち上がると膳を抱えて厨房へ走った。走りながら、――……先生、俺は貴方を困らせたいわけじゃないんです、だけど貴方の心も揺れているって、大人とか子供とか、らしくない理由を持ち出して自分に言い聞かそうとしている、そのことを知ってしまった俺はどうしようもなく浮かれているんです、
「……、」
竈の残り火に藁を継ぎ足すと、消えかけていた火は再び勢いよく燃え上がり始めた。

*****

銀ちゃんが落としていったノートの切れっぱだよ~ん。仕方ないから貼っといてやるアル。ペタペタ。
*力ヽ<゛*


+++++