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かぐたんのゲテモノ日記

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桜群情

~しょーよー先生ラヴ★ザ・ファースト。

「……また、私の話を聞いていませんでしたね」
――悪い癖ですよ、舞い散る桜の花弁と同じ薄紅に髪を染めてあの人が笑った。
「――聞いてましたよ、」
桜を見上げた頭の後ろに腕組みしたまま、ぞんざいな態度に俺は返す。――ああ、これは夢だと最中に気付く。また風が舞った。息が詰まりそうな桜吹雪に透かして髪を掻き上げた白い立ち姿が霞む。
もう一度、桜が見たいとあの人は言っていた。俺は桜は嫌いです、そのたび俺は眉を顰めてそう返した。
「花見は楽しいものですよ」
あの人は言った。
「死体の上に咲く花でもスか、」
俺はきっと、ひどくひねくれた言い方をしていたに違いない。こんな他愛ないことであの人がいちいち腹を立てるはずもないのに、ただほんの少しでもあの人に傷付いて欲しくて、底流の激情を覆い隠して穏やかすぎるあの人の心を動かしたくて、子供みたいに拗ねていただけだ。薄い背幅も身の丈も随分昔にあの人を追い越して、見てくれだけなら立派に大人だったのに。
「桜だけではありません」
撓んだ桜の枝に手を差し伸べて、あの人は静かに言った。
「生きている者は、この世に生かされているものはすべて、数え切れない死者の魂と供に在る」
「随分ゾッとする話っすね」
俺はまたわざと水を差す物言いをした。この人が言わんとすることはわかる、この人がそうして、もうずっと俺たちより遠い世界のことばかり思っていたこともどこかで知っていた。
「……」
あの人が振り向いた。引き結んだ口元に浮かぶ微かな笑みは、憐れみのようでも、哀しみの色を含むようでもあった。俺はゆっくりと組んでいた腕を降ろした。
「ったく、何が楽しくてやたらとこんなに咲くんだか、」
苔生した幹に手を当てて俺は呟いた。桜の下に立って、俺たちの知らない誰かの話をするときのこの人は、よくあんな顔をしていた気がする。
――今は亡き叔父上とやらのご立派な理想を一字一句なぞるように説き直してみせるこの人の姿は、何かに取り憑かれたような、狂い咲く桜と同じにこの世のものでないような、失われんとするあるべき道を語る瞳は確かに情念を帯びていたが、それは燃え盛る炎というより、燃え残りながら熱を湛えた熾火のように見えた。
本当はこの人の心はとうに向こうへ行っていて、今すぐにでも肉体ごと憂世を離れたがっていて、けれどそれでは彼の人から引き継いだ約束を果たすことができないから。守り抜いた枝葉が花を咲かせるまでは、その枷だけがこの人を俺たちの元に、現世に繋ぎ止めている。
この人が無意識に纏わせている見えない影にひどく嫉妬もした、焦りもした、だけど、だからこそ俺は大人になるより子供でいよう、いつまでも子供でいていいんだと思おうとした。幾つになっても出来の悪いガキのままで、この人に心配事ばかり増やして、この人の手を煩わせて、頼りない細い腕にみっともなく縋り付いていようとした。
早く立派な大人になって、思い出の影も霞むくらいこの人に認められて、そしたらきっとこの人は安心して俺たちの前からいなくなってしまう。
それは俺たちに対する裏切りだ、あんまり無責任じゃないか、俺たちには、……俺には貴方しかいないのに、その手に救われなかったら、あの日差し伸べられたその手を跳ね除けてさえいれば、こんな感傷俺とは無縁で、どこで野垂れ死のうとも怖れるものも後悔も執着さえもなかったはずで、だけど俺は知ってしまった、知るはずのなかった怖れを覚えた。
今ここにあるこの手を離したらもう二度と、俺とこの人の魂は遠く引き裂かれて、触れることなど、仰ぎ見ることさえ叶わない絶望的に分たれた距離は決して縮まることがない。望むと望むまいと、俺が落ちていく場所はそういう場所だ。

*****

……ひょうのうを探して押入れをゴソゴソしていたら、どうやら見てはいけない日記を見つけてしまった。銀ちゃんはまだうなされている。ウン、見なかったことにして私も寝るアル。


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