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猫に鰹節、わたしにあなた

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「そろそろ相方を持つ気にならないか?」
色ガラスの眼鏡の奥の目も優しい気配り上手の上司もとい、ここら辺り一帯のエリアを掌握しているボスに柔らかさを心掛けたらしき口調で提案をされた。
己の名が売れるに伴い、若い頃には破落戸らを根っこから震え上がらせたという上司の虎を威を借りる必要もなくなって久しい。元からその意味での重点は薄いとはいえ、此方の力の振るいに今一つコントロールが心もとないものであった為、ストッパーとして安息感を得られるのはこの目の前でにこやかにする上司のみであった。
現場に伴に出る回数も減少し、染めた髪色と纏う衣服を一つの象徴として築いたかと思えた時に大手を振りデスクワークの席へと当人は着席。以後パートナーを組むのに条件を満たす者など居はしなかったのである。
取り立てという職で明るい処に棲む者らを、何かを僅かでも守れるという身勝手な自己満足を得られるのなら望む処。だが、同時に庇護欲を湧かせた者に傷を付けたことがあるのも真。幾ら棲む者の大半はストックを保持する性質であれど、奪うことには変わりない。戒めを首輪に、自覚を携え、今日もサボる阿呆を取り立てる日々を消化する。
だから、いや俺と組まされるやつが可哀そうだし障りが出てもあれっスし、としどもろどろもいい具合に言い訳をして事務所から足早に出社した。上司の溜息も聞き流して。





さて、こんな一文を耳にした覚えはありませんでしょうか。A cat has nine lives.猫に九生あり。猫は容易には死なないものだということの意味を持ち、または異国では猫に九つの命が宿っていると言われているそうな。
夢物語ではございません。そう、僕達はそんな生まれの元に複数の命でもって人生を謳歌してますとも。命の使い方は個々次第で信条を貫くもよし、他者に尽くすのもよし、お気楽に過ごすのもよし。しかして当然ながら、守らねばならない規約も存在しているのです。
世に誕生したと時を同じくして変種に分類される僕らは一般とは隔てて社会を建て暮らしている。そこには様々なあるべきしがらみもございましょう、だけれども怠ってはならない。本能に刻まれたものを。
堅苦しい警告も続きますがご容赦を。命が複数ある。その分だけ過信か気負いか少しだけ無茶をする。そもそも命の扱いや重みは異なる。そうして命を失うのはこれはもうありきたりのこと。
さてさて、ここで本筋なのです。名前という付けられた認識がありますね。僕らにとってこれも命を一つ終える時に一緒に移ろうものであります。だが大事なものでもある。所謂認識とやら。それにズレが生じれば一体どうなってしまうのか。そう、それはそれは大変なトラブルの引き金と容易く変化してしまうのです。通称、それは狂いとも呼称されています。ああ恐ろしい。ですので僕はあくまで自主的に更新するのに取り立て屋さんの元へと赴いています。閑話休題。
そこで必須であるのが取り立て屋。彼らは、本人とエリアのボスのみに自動で伝わる認識変動を記録している帳簿へ、新しい生と名を授かった者の処に出向き判を受け取り更新を行う。勿論、認識に抱いたしがらみで滞らせる、困ったさんもおります。言いたいことはですね、長々と失礼致しました…かの職は中々に危険に彩られては忌まれることも多いもの、ということなのです。
そんな取り立て業を営むかのひとと出逢ったのは、雲が一日中ご機嫌斜めの日のことでした。





天はまるで泣き腫らしたような夕暮れを湛えており、水の苦手な性によるささくれた気分が苛立ちを増す。本日のターゲットは取り立ての重要性を、己が如何様になるのかも他者の実例の傍観により理解しているのだがあえて怠け殺気を煽ってくる者である。腹の内の黒さが外にまで染みた濡れ羽色の外見の、此方で遊ぶようにして街中を巡る吐き気を催させる気質。それをもう数えきれない程逃した夕刻である。
既に止めようもなくゆっくりと目蓋を閉じるように辺りは暗くなり黒が黒と混じり始めている。瞳孔が丸みを帯びる。懐に仕舞っていた懐中時計の様子を見遣る。まだ大事には至るまい。一応は重ねた勘で判断を下し、今日は一旦引き上げることにした。負担となるかもしれないので仕方がないが、上司に相談を持ち掛けよう。今朝の遣り取りと引き分ける。
報告をしようと戻ろうとし、近道の存在を思い起こす。途中で己らが構成した社会からはみ出すが、同種でない者らのそのまた同種でないあちらにしてみれば姿形は向こうの社会にある無害で愛玩も出来得るものなのである。疲労感を感じる足で歩んでゆく。
異なる社会と社会の間には利便上か門と呼ばれる境目がある。空気の微細な変化を肌で感じつつくぐった処で仰け反った。目の前を大型トラックが通過しているではないか。これは門の繋がりの不具合として要報告だなと増やした報告をメモし、周り路を行こうとした。が、後ろの腰にぽすんと音がした。鼻をうずめた小柄な同種がおり、ぺこりとお辞儀をして境目を飛び出した。見た顔であったと感じれば、昼下がりに珍しくあの幼さで最期の更新をした者でなかったかと思い至るも。急ぎの途中であったのか勢いを殺さぬまま、前を向いた顔が命奪われる手前で漸く気付き、だがどうする術なく遅く。目を開き唇を少し開け何事か言いたそうにしたままで命を終えた。九生はこれだから命のありがたみに鈍感だといわれる。
………目の辺りにしたことは、もう沢山なもの。無性に腹が煮えくり返る厄日に、己はやはり傍らに他者を置けないと再確認をした。



「起き上がる僕にも気付かないなんて、取り立て屋さんなのに心配です」
何時になく久方の荒れを脳に循環させながら戻った。出迎えたのは、似たような微笑みをしたふたり。
「士気の高いとてもいい人材が約一名確保出来たんだが」
目尻を下げ、上司が言う。経験豊富だからな、アドバイスで色々補ってくれるぞと言い足す。会話を引き継いで隣に並ぶ細身のこが優しく言の葉を紡ぐ。
「さて、九つだけとどなた様が定めたのでありましょうや」
異国のまた異国では、十というのは神秘性があり最も安定した数なんだそうなんです。

反則だという台詞が喉に詰まったので大いに苦し紛れだが、命を終えないでいてくれたこを抱き締めれば、ちょ、くるしいですとあやすように肩を数度叩かれた。三角の耳をひくつかせ、尾を互いに絡めたままで。柔らかな笑みを浮かべたままで。