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鍵のない鳥籠でカナリアは歌う

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目の前にある何本もの棒がわたしを逃がさないように取り囲んでいた。檻だ。彼は鳥かごと言っている。その棒を触ったり、撫でたり突っついたり。そんなことをして遊んでいた。

わたしはいつもこの鳥かごにいるの。だから、ここはわたしのお家。別に狭くはないわ。逆に広くて一人だと少し寂しい。
でも出られないわけじゃない。

「サカナちゃん。今日も君はそこにいるのかい?」

わたしがここから出たくないだけなの。彼の言葉にこくりと頷いて、また檻に指を絡めて遊んだ。

外の世界にはなにもない。そう彼が教えたからわたしはここに閉じ籠ってる。なにもない外になんて興味ない。わたしは彼の言葉だけを聞いていた。やっぱりわたし、ここが落ち着いて、好き。

「君は変わってる」

わたし?わたし、変わってるの?そうなの?彼の言葉を頭の中で反復する。
首を傾げてわからないことを伝えると彼はそんなわたしに目を細めて口元に笑みを浮かべた。

「人類に生きる全ての生き物は皆、自由を求めているんだ。何にも縛られたくないと自由を求めて今日もどこかを彷徨っている。なのに君は違う、縛られることを望んでいる。その狭い檻の中で囚われていたいと」
「……そんなんじゃない」
「サカナちゃん」

違うの。わたしはそんなこと望んでない。ただここに居たいからいるだけ。
違うのよ。わたしはちゃあんと自由を持っているわ。そう、わたしは自由。

あなたが言ったんじゃない。外にはなにもないって。


「君は自分が羽ばたけないことを知っている。飛ぶための翼はある。白く輝く、全てを包んでしまいそうな純白の翼を君は持ってる」

知ってる。でも外の世界に羽ばたくよりも鳥かごの中で静かに生きることを選んだのよ。
翼なんて、わたしはいらない。必要ない。だって広げない羽なんて邪魔なだけじゃない。

わたしはここに居たい。

「サカナちゃんは知ってるんだね。人類が己の自由を求めるために何をするのか、それがどんな意味を持つか」

違う、知らない。だってわたしは人間じゃない。人間じゃないただの、わたし。
あなたがわたしをサカナちゃんと呼ぶからわたしはサカナちゃんになった。

わたしはサカナ。その名前のように鰭や鱗はないけれど、人の手に飼われて水槽の中で遊泳するようにこの檻の中で生きている。

狭い檻の中で鳴かないカナリア。サカナだけど、鳥かごで飼われているから、カナリア。
わたしは鳴かない、鳴けないの。だからカナリア。鳴けない代わりにわたしは歌う。


知ってるかしら、カナリアは鳴かないの。歌っているのよ。


「サカナちゃん、子守唄を歌ってくれないか。──俺の自由のために」





【鍵のない鳥籠でカナリアは歌う】