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The Last One

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24.幸せな子ども(タイロンとマキス)





 まるでぼろきれのようになって、そいつは家に転がりこんできた。ランキング・ブローカー、いや今はもう、その二つ名で呼ばれてはいないらしい。
「おい、マキス」
 思わず名前を呼ぶと、そいつは一度だけ顔を上げた。けれどそのまま細い身体はソファへと倒れこむ。慌てて様子を伺うと、くうくうと背中を丸め寝息を立てていた。
 タイロンはがしがしと頭を掻くと、ベッドから毛布を一枚拾い上げた。ばさりと乱暴にかけてやり、どうしたものかと腕を組む。少し悩んでからサングラスだけ外してやれば、目の下には濃い色の隈。傍目にもずいぶんと痩せたようで、薄っぺらい身体がますます頼りない。
 夜ももう遅い。おそらく機構の本部での仕事を終えて、そのままここへ来たのだろう。働きづめなんて馬鹿のすることだ、毒づきながらふと、思い出した。
 ジグがガンドアから消えて、ちょうど二ヶ月ほどになる。
 ことさらジグに懐いていたマキスのことだ。ずいぶんとショックだったろう。本人は『自分がジグの面倒をみている』つもりだったらしいが、どう見ても彼らの関係は飼い主に懐く猫のそれだった。なにかあれば彼の名前を呼び、周囲を駆けまわって楽しそうに笑う。タイロンが初めて彼らに出会ったその頃から、彼らの関係はひとつも変わらない。
 けれど、新七騎士の誕生から半年後のこと、ジグとファズが揃って姿を消した。イゴリダは『遊牧民の性ね』なんてうそぶいて、後を追おうともしなかった。そして、マキスにも特に動揺した様子はなかった。
『彼にはこういうのは似合わないと、わたしも思っていたんだよね』
 そう言って困ったようにひとつ笑っただけ、それっきり名前も口にしない。
 日に日に量が増えてゆく仕事も精力的にこなしている、リドからはそんな風に聞いていた。たまに酒場で顔を合わせることもあったが、いつだってその口元には微笑みがあった。
(それがぜーんぶハッタリとは、こいつの病気もなかなかだな)
 思わず傍らに屈み込んで、タイロンは疲れ切ったマキスの寝顔を眺めてしまう。呆れて大きくため息をつくと、そこにううと小さくうめき声が上がった。
「俺っちの家で悪夢なんて見てんじゃねえ」
 呟いて軽く頭に触れてやる。するとそれだけでひどく穏やかに表情は緩み、規則正しい寝息が聞こえてきた。
(やれやれ)
 立ち上がり、キッチンに向かう。

 父親役には、慣れていた。租界では家族のない者は珍しくない。孤児なんて山ほどいるし、未亡人やらやもめも多い。だから「一家」なのだと、そのつもりだ。
 タイロン自身、昔から家事をしていたし、実のところ料理は得意だ。だからひとりで家に居るときには、自炊をすることも珍しくない。
 だからこれは別に特別なことではないのだ。

 簡単な野菜粥が鍋に出来上がる頃、ソファの上でもそもそと動く気配がする。
「おう、起きたか」
 何気なく声をかけてやると、身を起こしていたマキスはびくりと肩を竦ませた。
「た、タイロン、さん」
 遠慮がちな視線が向けられて、むしろイライラと声を荒げる。
「挨拶もなくうちに上がりこんで昼寝して、タイロンさん、もねえだろうが」
「す、すいません!」
 マキスは慌てて立ち上がると、かけられた毛布を律儀に畳み直した。
「……そういうことじゃねえ、こっちこい」
 ダイニングテーブルを示してやると、カチカチに緊張して傍らに立つ。いいから座れ、全部言わねえとわかんねえのか。
 マキスは緊張の解けぬままに、困ったようにタイロンを見上げて固まった。
「タイロン、さん、そのあの」
「なんだ、熱いから気をつけろ」
 粥を入れた皿をふたり分、テーブルに並べる。続いて木のスプーンも。
「エ、エプロン、かわいいですね」
「おう、そうだろ」
 言われた当のエプロンを外して置き、椅子に着く。つぶらな瞳のクマがこちらをまっすぐに見つめ返した。
「よし食え」
「は、はい」
「おかわりは二杯がノルマだ」
「は……ええと」
「返事は?」
「はい!」
 マキスはあわあわと落ち着かず、けれど湯気の立った料理にひどく表情を綻ばせた。
 心の支えを無くして疲れ切った人間が、無意識にどこに帰ろうとするか、タイロンはよく知っている。それがまあ、俺の家だとはいい度胸だとも思うが、餌をやるくらいならいいだろうともまた思うのだ。

 一口、二口、マキスは夢中で食べた。そしてその途中で気がついたらしい。
「あ、わたしのサングラス……」
「うちじゃ外しとけ」
 何気ないタイロンの命令に、小さく答えた声は矢鱈に嬉しそうだった。




101002

作品名:The Last One 作家名:まなと