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コンビニへ行こう! 前編

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第一部:take1 遭遇の朝




ピッ、と音を立てて最後の検品を終え、帝人はようやく一息ついた。東京池袋のコンビニエンスストアは、駅近くならば忙しいのかもしれないが、この店のように住宅街の外れにある店舗はそれほどでもない。特に今、早朝六時半の店内は、人影もまばらである。
栄養ドリンクを補充した後、届いたばかりのお弁当の検品を終えたところで、慌ただしくバックヤードから走ってきたのは、本日珍しく早朝シフトに入っている親友の正臣。女子大生に変わってほしいとお願いされて断れなかったらしい。
六時までに店に来るなんて、正臣には無理だと思っていたので、交代の時間になる五分前にはモーニングコールをしておいたのだが、それでも三十分で出勤したなら早いほうだ。
「おはよー帝人!すまん遅れたー!」
「おはよう正臣。これ並べるの頼んだよ」
「おう!」
このコンビニへは、正臣がもともとバイトをしていて、人手が足りないので是非にと誘われた。帝人は根っからインドア派で接客業など考えてもいなかったのだけれども、正臣にお願いされると弱い。仕方が無いなあと面接を受けて、正臣の後押しもあってすぐに採用が決まり、土曜日の早朝と水曜日の夕方を固定シフトにしている。
ネットビジネスのバイトもあるので、コンビニにはあまり時間は割けないのだが、それでも時々他の人のシフトを変わったりして、月に2・3万のお小遣い稼ぎになっていた。
これは一人暮らしの高校生には大きな金額だ。生活費は今まで通りにネットビジネスのバイトで乗り切るにしても、遊ぶお金が増えるのは大変ありがたい。
そんなわけで、帝人は結構このコンビニバイトを気に入っていたのだった。
お弁当を並べる役目を正臣に任せて、帝人は正臣が来るまで残ってくれていた夜勤の大学生とレジを変わる。バックヤードに消える前に、その夜勤の男性が正臣と親しげに会話をするのを見ながら、帝人は名札のバーコードをレジにスキャンした。それで会計責任者としてレシートに名前が乗るというわけだ。
この店は縦長の作りの小さなコンビニで、平日はサラリーマンの利用が多いが、休日は人入りが少ないため、この土曜朝のシフトは大体店長とアルバイト二人で回す。帝人はまだ新人なので、レジの中の仕事をすることが多かった。
背後のタバコの数をざっと数えて補充を考えながら、お客様が入ってきたらにこやかに「いらっしゃいませー!」と声をあげる。そして正臣が雑貨やお菓子の補充をしている間、一人でレジを守るわけだ。
今日も暇だなあ、とぼんやりしていたら、その時不意に自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませー」
声は正臣の上げた声とだぶる。男性が一人、黒のモッズコートを翻して店内に入ってきた。基本的にこういう店では、店員にみられていると非常に買い物し辛いので、帝人はあえてお客さんから視線をそらして会計を待つことにしている。
だが男性はほとんど迷うことなくまっすぐにデザートの棚に向かうと、さっとプリンを一つ手にとって、早足にレジへとやってきた。
「いらっしゃいませ、おはようございます」
規定通りの挨拶をして、レジに置かれたプリンをレジに通す。そして客層ボタンを押す前に、ちらりと男性の顔を見上げた。
ご存じの方も多いだろうが、コンビニのレジにはどこにもたいてい、客層を知るためのボタンが設置されている。年代ごとに十代とか二十代とかのボタンが、男女それぞれで色分けされてレジに組み込まれ、そのボタンを押さなければレジが開かない仕組みだ。親会社はそのデータを通して、どんな商品がどの年代のどちらの性別に人気があるのか、を調査するらしいのだが、正臣は適当でいいよそんなモン、と帝人に教えたものだった。
「俺なんて、小学生の買い物で間違って六十代のボタン押したことあるぜ。ちょっとくらいまちがったって大丈夫だって、どうせ統計調査なんだから」
だ、そうで。
だがしかし、根が真面目な帝人のこと、出来る限りは正確にそのボタンも押したい。
ちらりと見上げた黒いコートの男性は、ちょっと目を引く位綺麗な顔をしていたけれど、仕事中と割り切られた帝人の脳内にその顔が残ることはなかった。
十代後半?二十代前半、かなあ?
少しだけ迷って、結局二十代のボタンを押す。そして袋にプリンを入れて、
「スプーンお付けしますか?」
と尋ねた次の瞬間だった。


「あ、悪けどそれ、ストロー入れてくれる?」


「……はい?」
言われた言葉がいまいち信じ切れず、帝人は改めて客を見た。切れ長の目がかっこよさげな男性が、一瞬目があったことに小さく息をのみ、少し気恥ずかしそうに繰り返す。
「っだから、ストロー、付けて欲しいんだけど」
困った、二度目なのに同じ内容に聞こえた。これは僕の幻聴ではないというのか。帝人は混乱しながら一応確認のために、自分でも繰り返して声に出してみた。
「え、あの、プリンにストローですか?」
どうやって食べるのだろう。吸うのか。プリンを?
男性は今度こそ恥ずかしそうに頬を染めて、しかしそれでも前言を撤回はしなかった。
「そ、そう。ストロー。ダメ?」
「は、はい、わかりました」
え?本当に?スプーンじゃなくていいの?
パスタにお箸をつけろとか、カップ麺にフォークをつけろとか言うのは結構あったが、これは初めての経験である。そもそも、プリンにスプーン以外の補助食器が必要だなんて夢にも思わない。だが、望まれたならばそれに答えるのが店員の勤めであり、それがどれほど不可思議なことだろうとも、言われたとおりにするのが鉄則だ。
「え、っと。こちらいれますね……?」
それでもまだ半信半疑でビニール袋にストローをつっこみ、取っ手の部分を客に差し出す。男性はややぎこちなくそのビニール袋を手にとった。
「百二十八円です」
差し出された百三十円を受け取り、二円のお釣りを手渡した帝人は、やっぱり信じられなくてもう一度その客の顔を見上げる。
完全に個人的な興味で向けた視線は、ばっちりと客の男性の顔を捉えた。目が合って若干びくりと反応し、さらに頬を染めたその男性の顔。


うわ、綺麗な人。


第一に脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。男を相手に綺麗というのも若干、おかしいかも知れないので言い直すと、所謂「モテそう」な顔立ちだ。帝人が客の外見を覚えるなんてとても珍しいことだが、この人ならば一目で覚えられる。
しかし、そんな美青年が、プリンをストローで食すとはこれいかに。
都会は怖いところだ、と帝人は思った。だってあまりにもイメージが。
「……あの、何かな?」
思わずじーっと見つめてしまった帝人から必死で顔をそらしつつ、男性が尋ねる。
「わ、失礼しました。えっと、ありがとうございました!」
お客さんをじろじろ見るとは失礼なことをしてしまった。あわてて頭を下げた帝人に、男性が「ああ、うん」と曖昧に言葉を濁して、コンビニから出ていくのであった。
「みっかどー!タバコ裏から持ってこようか?なんか足りないのあるかー?」
お弁当類の補充を終えてやってきた正臣の声に我に返って、帝人は店内に人影がないことを確認してから、とても真面目な顔で、正臣に問いかける。
「ねえ正臣」
「うん?」
「プリンって、ストローで食べる?」
「っは!?」
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野