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スパコミ新刊サンプル「寝ても覚めても!」

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■ 折原臨也の場合・1 ■



短く切りそろえられた髪、まっすぐに見据えてくる凛とした瞳、すべらかな額のライン、緩やかに弧を描いた唇。そのすべてのさわり心地の良さを、臨也は知っている。
「帝人君」
 呼びかければ、その瞳がわずか見上げるように動き、ふわりと微笑む。幸せそうなその笑顔に、自分までつられて笑ってみたりして。
「なんですか、臨也さん」
少し、はにかむ様子が可憐だ、臨也はそんなことを思って、自分より低い位置にあるその少年の頭を撫で付けた。
可憐。
笑ってしまうほど気障な響きがするけれど、おそらく一番適確な表現だろう。
くすぐったそうに臨也の手に撫でられながら、帝人は一歩臨也に近づき、それからおずおずと手を伸ばした。遠慮がちなその手のひらが臨也の頬に当たる。
「どうしたの?」
優しく問いかけたなら、手のひらは迷うように臨也の頬を軽く撫で、次に唇に触れた。指先の肌触りが、焼け付くような温度で臨也の唇を撫でる。一瞬息をのむと、そのタイミングを待っていたかのように、声が。


「……、して」


少年の、その、特有の高いトーンが、響いて。
ぞわりと落ち着かない感情が、臨也の背筋をなでてゆく。何を要求されたかなんてことは、明らかだった。帝人は恥ずかしそうに視線を逸らし、その、臨也の唇をなでた指先で、今度は自分の唇にゆっくりと触れた。もう一度口にするのは恥ずかしいのだろう。だからこの動作で察しろという意味だ。
唇をなぞるように動く動作は、まるで、男を誘う娼婦のように淫らに目に映る。ああちくしょう、と臨也は、帝人の細い肩に手を置きながら悪態をついた。


煽るんじゃねえよ。







「ってそんなわけあるかああああ!」


飛び起きたベッドの上で、臨也は叫んだ。それは正に絶叫と呼ぶにふさわしく、静かなマンションの一室にぐわんと反響して、ただでさえはっきりしない寝起きの頭をシェイクする。頭痛を感じて頭を抱えながら、額から流れ落ちる冷や汗を拭い、体にまとわりつく布団をありったけの感情を込めて蹴っ飛ばした。
「ありえないだろ!」
大きすぎる独り言は、誰に聞かせるでもなく、とにかく自分に言い聞かせる為に強い口調で。
「馬鹿なのか!」
ちなみに主語は「俺は」だ。だがしかし、だんっと拳を叩きつけたところで、柔らかいベッドは穏やかな反発を返すだけだった。ぜーはーと大きく息を吐き、吸い、もう一度吐いて、臨也はべしょりと枕に顔を押し付ける。
「は、ははは……そ、そうだよ何をこんなにあせってるんだ。ただの夢じゃないか、ねえ?」
わざとらしく零した独り言は困惑の響きを有しており、そしてまたその疑問系に答える人物は、誰一人いないのであった。あまりの空しさに耐え切れず、臨也は枕の下に仕込んだ紙切れを一枚、ごそごそと発掘してぺろりと広げた。
『教えて運命の人』
昨日の夜寝る前に、馬鹿馬鹿しいと笑いながら軽い気持で書いてしまった自分の文字。まさかこんな夢を見ると分かっていたら、絶対に書かなかったのに。
大きくため息をついて、その紙切れをベッドサイドのゴミ箱に放り投げた。枕に顔を埋めながら、なぜだか火照る頬を持て余し、この衝撃は重大である、と臨也は思う。予想外すぎて大打撃だ。
どうしてこうなった。
その事の次第を説明するには、今池袋に巻き起こる空前のオカルトブームを説明しなくてはならないだろう。オカルトと言っても、流行っているのは幽霊や悪魔、あるいは謎の宗教団体とかいう物騒な話ではなく、おまじない、あるいは未来予知と呼ばれるものであった。
池袋で活動する未来を読む占い師とやらがテレビに映りまくって、様々な方法を伝授し、女子中高生を中心にその「未来を垣間見る方法」が空前のブームとなっているのである。本もバカ売れ、携帯サイトも常時賑わい、出演する番組は軒並み高視聴率なのだそうだ。そして臨也はチャットで演じている甘楽という女性キャラのために、そのようなブームには一応乗っかっておくようにしていた。
幸い、情報はぼーっとテレビを見ていても手に入るし、そのおまじないのような物を実行しようと思えばネット上に方法がのっている。次のチャットで太郎さんにでも話題を振ってやろうか、なんて考えながら、昨日の夜、調べた通りに「未来を垣間見る方法」とやらを実行したのは、他ならぬ臨也の意思であった。
新しいノートの、一番最後のページを切り取る。
そのノートに、自分の好きな色で「教えて運命の人」と書き込む。その際、どの色を選んでもいいというので、臨也は適当にオレンジをチョイスした。たまたま一番最初に目に留まった色だったので。
そしてそれを枕と枕カバーの間に挟んで寝れば、運命の恋人を夢に見ることができる、というのである。
非常に馬鹿馬鹿しく、なおかつ、とてつもなく子供だましの話だったが、それでも実行したのは単なる好奇心と、女はこういうの好きだろうな、という予測のせいだった。盲目的に臨也を信じる少女達に、話を振って楽しませてやるのも悪くないと思ったのだ。
そしてその結果がこれだよ!
「……いくらなんでも、あれはないだろ……!」
 落ち着け、落ち着くんだ折原臨也。お前はこれしきの事でだめになる男じゃないだろう! と自分を奮い立たせるも、現実は残酷である。冷静になればなるほど、いつになくはっきりと映像を覚えている夢の内容が何度も臨也の頭の中で繰り返され、より強く心にぐいぐいとねじりこんでくる。
 運命の人を見ることができる、というおまじないで、帝人といい感じでいちゃついている映像を見るというのは、これいかに。夢は願望を映す鏡と言うが、まさか、そんなはずは。
 だって件の少年とは、この春出会ったばかりだ。そりゃあ、データだけならその前から握ってはいたけれど、顔を合わせたのはつい先月のことなのだ。
 俺はいつの間にあんな夢を見られるほど、その少年の表情を集めたっていうんだ。
 自分に問いかけるも、もちろん、答えは帰らず。
「……ないない。ないよね!」
 無理矢理に納得するために言い切ってみたけれど、その声は自分で聞いても妙に白々しく、困り果てたような響きがした。大体こんな子供だましの方法で、本当に運命の人が分かるわけがないじゃないか。たまたま、夢に見ただけ。それだけに決まっているとも。……そのはずだ。
 けれども、臨也の知らないところで、事態は思いがけない方向へ転がり始めていた、なんてことは。
 まだ、本人は知らない話なのだった。