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すずき さや
すずき さや
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一人よりも二人(お試し版)

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「一人よりも二人」【おためし版:3,257文字】2011年5月4日発行


 一人、昼食をとっていると思わず目で追いかけてしまう赤崎の姿を見つけた。
 赤崎はトレーを手にしてどこに座るか場所を探すように左右を見ている。
 どこに座っても同じなのに、と思いながら丹波は箸を止めると軽い気持ちで赤崎に手を振った。
「こっちに来いよ」
 赤崎は呼びかけに顔を向けると黙ってうなずき近寄って来た。
 内心、よしよしと丹波は思いながらにこにこと自分の隣の椅子を引く。どうも、とぶっきらぼうに礼を言いながら赤崎は隣へ腰を下ろした。
「珍しく一人っスね」
「おじさんは時々、人付き合いに疲れちゃうんだよ」
 そう言っておどけて軽い調子で笑いかけると赤崎は珍しく頬を緩めてクスッと笑った。
 笑うと可愛いじゃねぇか、と言いたかったが怒られてしまいそうなので胸にしまう。
 やはり、赤崎を気に入り始めている自分に気付く。恋愛感情と呼ぶものなのか、それとも歳の離れた弟を持つような気持ちなのか、未だよく分からない。
 近くに寄ってくれば嬉しいし、笑いかけてくれると幸せだ。隣に置いていつでも一緒にいたくなる。
 赤崎から嫌われていなければの話だが。
 こうして隣に来てくれるのだから嫌がられていないと思うが、好かれている自信が持てない。
 女の子であればすぐにでも付き合おうよ、と軽口を叩くところだが残念ながら相手は男の子だ。そんなことを言ったら変態の烙印を押されてしまう。
 このチームには変態が幾人か存在しているので目立たないところが不幸中の幸いだ。
 丹波は、この夏のキャンプでついつい赤崎をいじり倒してしまった。
 反抗するかと思ったが、赤崎も自分の弱点に気付いている。周囲からの声に不機嫌な顔を浮かべたが、反論せず耳を傾けていた。
 春先のキャンプであったら一切耳を貸さずにチームメイトに反発していただろう。赤崎もシーズンの半分を過ぎて少し大人になったのだ、と丹波は思う。成長が嬉しくて目を細めそうになってしまう。
 それに「相棒」と自分のことを表現した赤崎に思わず頬ずりでもしてやろうかと思ったが暑い日差しの中、することはためらわれた。
 練習中に何をするのだと叱られるし一緒にピッチに立っていたチームメイトからは気持ちの悪い目で見られてしまう。
勢いで奇行に及ばなくて良かったと思う反面、自分のことを相棒と呼ぶ赤崎を思い出し笑いを浮かべてしまう。
 そうか。相棒か、と思わず口ずさみたくなる。
 うっかりして可愛いと呟かないよう必死に口を閉じていると傍にいた杉江から「トイレですか」と、明後日な言葉をかけられた。
「え。違うぞ」
 否定すると杉江から丹波さんは何か我慢しているかと思った、と言われてしまった。一体、俺はいったいどんな顔をしているのか。何を我慢しているのか、と情けなくなった。
 とにかく赤崎の成長と自分のことを相棒と呼ぶことが嬉しかったのだ。それだけのはずだ。
 しかし、赤崎を隣に座らせて満足してしまう自分。
 やばい。まずい。俺までこんな恋愛したら駄目だ、と一人悶々と考える。
 赤崎を隣に座らせて何か特別なことをしたいわけではない。ただ、隣にいてくれると嬉しいと思う。
 世良と堺のようにいちゃつきたい訳ではないはずだ。そう言えば、堺と世良は自分達と離れたテーブルで仲良く並んで食事をしている。同じテーブルに上田や夏木、宮野もいるのでただ単に同じポジションで固まっているだけかもしれない。二人きりでいられるよりやきもきしなかった。
 丹波が急に黙りこくり食事に手をつけなくなってしまったので赤崎は怪訝な顔をしていた。
「丹さん、どうしたの」
 箸を止めて丹波を窺い見る。
「あー。なんでもない」
 赤崎に心配されてしまう己のうかつさに驚く。赤崎の前では自分をうまくコントロールできない。
「あのさ。赤崎」
「なんスか」
 相変わらず可愛げの欠片もないそっけなさが何故だか可愛い。
「唐突だけど。俺ってタヌキじゃなくてキツネ派なんだ」
「はぁ」
 赤崎は意味が分からない、と言う顔をしている。それが可愛らしくて丹波は自分の頬が緩むのを感じた。
「だから。俺はキツネ派なんだよ」
「でも、食べているのは冷やしたぬきの大盛りっス」
 丼の中身を覗いて赤崎は不審者を見るような目つきで丹波を睨む。そんな顔をしても可愛い。言っていることも生意気で可愛い。
 丹波はにやつきそうになる頬を必死に抑えようと顔のあらゆる筋肉を動員させて平静を装う。
「だってお前さ。冷やしきつねって聞かないだろ」
「俺、冷やしきつねを出すところ知ってるっスよ」
「えっ。マジで」
「実家の近くのそば屋にはありますよ」
「じゃあ。連れてけよ、赤崎」
「なんでっスか」
 赤崎は釣り上がった目を大きく見開いて驚いた表情を浮かべる。そんな顔もするのか、と丹波は嬉しくなって我慢していたのに頬を緩めてしまった。
 赤崎が少し気味悪げな顔をしているが気にしない。嬉しさを隠せないのはお前がいるからだ、と赤崎のせいにする。
「赤崎の家って都内だろ。近いだろ」
「そうっスけど」
 それがどうしたのだ、と言う顔の赤崎に向けて丹波は畳みかけるように言葉をかける。
「お前、嘘ついてないなら連れて行けよ」
「嘘じゃないっスよ」
 丹波の言葉にむっとして赤崎は顔をしかめる。
「じゃあ、決まりだ。ついでにお前の両親を紹介しろ」
「何スか。それ全然意味分かんないし」
「いいから細かいことは気にするな。俺とデートしようよ。なっ、赤崎」
 デートと言う言葉に赤崎はますます怪訝な顔つきになるが構わずに俺とデートしよう、と念を押した。
「べっ。別にいいっスよ」
 戸惑いながら赤崎はうなずいた。ほんのりと耳元が赤いところが可愛いと思う。
 やっぱり好きかも知れない。相手がどう感じていても構わない。片思いでいいかもしれないと丹波は開き直る。
「じゃあ。次のオフに一緒に出かけよう」
「いいっスけど。なんで積極的なんスか」
「いいじゃん。俺は赤崎と一緒にいたいんだよ」
 赤崎の反応を見て丹波はますます笑顔になってしまう。その笑顔を見て赤崎は身を引いた。
「なんか気持ち悪いっス」
「デートに誘ってやったのに気持ち悪いってひどいな」
「っつか、蕎麦屋に行くのにデートも何もないっス」
 赤崎はツンとそっぽを向く。
「じゃあ。飯食ったらどっか行こう」
「っつか。なんでそんなに積極的なんスか」
 食い下がる丹波の反応に赤崎はどんな顔をして見せればいいのか分からず弱り顔になった。
「そりゃ、赤崎。一人より二人の方が楽しいからに決まっているからだよ」
「はぁ」
 赤崎は丹波の態度や言葉に困惑を隠さず眉を上げて驚いた顔になる。
「俺と二人で飯を食いに行こう」
 丹波はそう言って笑いかける。丹波はじっと赤崎の目を見続けると、赤崎は渋々と小さくうなずいた。
「仕方ないっスね」
「やった」
 ようやく折れた赤崎の返事を聞いて思わず小さくこぶしを握った。
 赤崎は喜ぶ丹波を見て居心地が悪そうだったが、ほんのりと赤くなった頬や耳元が「嫌じゃない」と言っているように見える。