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はぴはぴばーすでー!

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置き時計なんて洒落たものは無いから、布団も被って電気を豆電球だけにして薄暗い部屋の中、携帯の待ち受けで秒を刻むデジタルな数字を眺める。ゆうに10分はこの態勢だ。
あと5分で刻まれる数字が0にリセットされる。帝人は一人、その時を待っているのだ。

(プレゼントとかさ、苦学生な君に要求しないよ)

むしろ物を贈られるのは正直飽き飽きしてるんだよね、とこの世の大半の人間に喧嘩を売っている言葉を性格の悪い男は事も無げに口にする。はあ、そうですかと気の無い応えをした帝人も当然無視された。男は続ける。

(だからその代わりに、君の時間を俺にちょうだいよ。24時間最初から最後まで余すとこなく)

0時になった瞬間からですか?そう返した帝人に、当たり前じゃないと応える男。モルモットになれということかな、と首を傾げれば、男は鈍いねぇと心底馬鹿にしたように首を振った。むっと唇を尖らせれば、引き寄せられたかのように長い節ばった指が、むに、と僅かに突き出た唇を押し返した。

(言葉通りの意味だよ。――忘れないでね、0時になったら迎えに行くから)

男はそう言って、楽しげに、笑った。


しかしどうしてあんな話になったのか帝人には検討もつかない。何時もの如く偶然出会った振りをした男に強引に連れてこられた喫茶店で、帝人はアイスティー、彼は珈琲を飲みながら、最近はどう?とか他愛のない世間話をしていての件だったはず。多分プレゼントとかそんな話は無かった、気がする。けど男はやっぱり何時もの如く勝手に話を進めて、勝手に話を終わらせて、これから仕事だからとか伝票を持って喫茶店を出て行った。本当に自分本意なひとだ、一度くらいは振り回されるこっちの身にもなってみろ。アイスティーは美味しかったけど。
もぞりと仰向けからうつ伏せに寝返りを打つ。その間も携帯からは目を離さない。
(あと1分)
重くなった瞼を擦る。自分勝手な男だから、来ないことも考えたけど、でも帝人は何となく男は来るんじゃないかと思った。ちゃんと指定した通り、数字がリセットした瞬間、僕の部屋を訪れるだろうと。だから帝人も律儀に男を待っているのだ。来なかったら来なかったでそのまま寝てしまえばいいし。
(あと10秒)
―――5、4、3、2、1、


コンコン、


けして頑丈とは言い難いドアが叩かれる。帝人は何となく笑いたくなって、でも我慢して布団から這い出た。かちり、と電気を点けて玄関に向かう。チェーンと鍵を開けて相手を確かめないままドアを開いた。


「こんばんは、帝人くん」


男は夜の匂いを纏ったまま、愛おしそうに目を細めて笑っていた。
「本当に来たんですね」
「約束は護る男だよ、俺は。帝人くんとのことは特にね」
「――調子の良いことばっかり」
上がりますか、と身体を横にずらせば、男は頷いて、するりと音も無く帝人の部屋へと入る。ドアを閉め、鍵だけを掛けて顔を上げれば、男は部屋の中央に佇んだまま帝人を見ていた。その視線の強さにくらりと眩暈を覚えながら、帝人はゆっくりと男の元へと歩み寄る。狭い部屋だから数歩もしない内に男との距離は縮まった。男が手を伸ばす。
「君は俺のことを待っていてくれたようだし、俺に君の時間をくれると解釈していいんだよね」
「…今更、言いますかそれ」
呆れたように零せば、男は「俺は慎重だからね」とやっぱり笑った。少しだけぎこちなく。帝人は伸ばされただけの腕にそっと触れた。ぴくりと、震えたそれに笑みが思わず零れる。緊張してるなんて、このひとも人間だったんだなと失礼なことを思いながら、帝人は伸ばされた腕の中に身体を預けた。少しだけ勢いが付きすぎたのは帝人もまた緊張していたからだ。
帝人の身体を確りと受け止めた男は一瞬の逡巡の後、腕を曲げ帝人の華奢な身体を抱きしめる。強く。まるで、欲しいものをやっと手に入れたとでもいうように。
男は息を吐いた。帝人は押し当てられた胸から響く心音の早さにやっぱり笑った。
「臨也さん」
「…なに?」
細身の癖にがっしりとした身体に同じように腕を回して、帝人は柔らかい音で囁いた。


「お誕生日おめでとうございます」


さて、自分本意で自分勝手で強引な癖して、誕生日を言い訳にしないと僕を独占できない臆病で面倒くさい男に、どのタイミングで実は1週間前から用意していたプレゼントをあげようかと、帝人はぎゅうぎゅうっと強くなる腕の中で些か幸せすぎるため息を吐いた。
作品名:はぴはぴばーすでー! 作家名:いの