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兄と弟

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僕と兄は比較的仲の良い兄弟だと思う。無口で無愛想な兄とは殴り合いの喧嘩になったことも無ければ罵り合いの喧嘩も無かった。
年齢が離れていたから兄が我慢をしてくれていたのだと分かったのは大分後になってからだ。
長ずるに従って、僕の方も遠慮と言うものを覚えてからは意見が分かれることはあっても、喧嘩にまで発展することは無かった。
だが、たった一回だけ……大喧嘩をしそうになったことをふと思い出しては僕は上機嫌になり、顔が緩んでしまうのだ。
ある夏の日のこと僕は学校の友人と共に川に遊びに行く約束をしていた。
2〜3日前に雨が降って多少川が増水していたが、カンカン照りの暑さが続いていたので子供達はいつになったら川遊びが出来るのかとそわそわしていた。
大人達は増水した川が元に戻るまで川遊びは禁止と言っていたが、なかには言うことを聞かない子供も居るもので…。
僕自身は率先してそういった事を言い出したりはしないが、周りに言われれば乗るタイプだ。
まあ、悪い言い方すれば周りに流されるタイプと言えばいいのだろうか?
山間の麓に流れる川が僕らの夏の遊び場で、源泉に近いからか木が生い茂って陽の光を遮っているからか、流れる水は冷たく夏の陽射しに火照った身体を存分に癒してくれる。
そしてこの川は下流に行くと流れが緩やかになり、田んぼへ水を引くための用水路へと繋がっている。
数日ぶりにこの遊び場に来た僕らはまず水着になり、浅瀬でザブザブと足元に水を掛け合った。冷たい水にいきなり入るのは躊躇われるのでいつもこうやって足元から水に慣らすのが習慣だった。
水を掛け合いながら少しづつ川の深い所へ歩いていく。上流のこのあたりは一番深い所でも子供の胸辺りまでの深さしかない…はずだったのだが数日前の雨で増水していた為、普段より深くなっていた。
思わぬ深さに驚いた僕は、ドプンと川に沈んでしまい無我夢中でもがいたものの浮き上がることが出来ず、力尽きてしまったらしい。

作品名:兄と弟 作家名:tesla_quet