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黒猫刑部(のお世話係)
黒猫刑部(のお世話係)
novelistID. 27943
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【01】 嗚呼、これは。 【三吉】

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 彼とこんな事をした覚えはない。

 そうしたいと思った事もない。

 だが触れてくる唇を、嫌だとは感じなかった。

 病に蝕まれて変色した肌。薄い唇。見慣れた彼の姿。

 そうだ、彼の包帯を巻き直すのは自分の役目だった。

 彼を忌避と好奇の目に晒す事が嫌だった。いや、多分違う。触れさせるのさえ、嫌だった。

 何故そう感じていたのかは分からない。そう感じていたことすら気付いていなかった。ただ、それが自分のする事だと思い込んでいた。

 唇が、舌が、角度を変える。

 一方的にされるがままで、三成は思う。

 嗚呼、これは夢だ。

 彼は逝ってしまった。彼は自分の大切なもの達と同じところに行ってしまった。

 だから、これは夢だ。

 それに気づいてしまうと、三成は触れ合った唇以外、僅かにでも他の場所には触れようとはしなかった。

 口づけに翻弄される度、すがるものを求めて指先が空をさ迷った。水の中でもがくように。

 思い知らされてしまった。

 あの頃、"全て"など失っていなかったのだ。

 それまでを"全て"と言ってはいけなかった。

 だから、本当の全部を失った。これは自分の驕りが招いた空洞。そして空虚。

 ―刑部……。

 溺れながら、三成は重なり合った唇だけで、音もなく彼を呼んだ。











 にゃあ。

 聞き慣れた声が近くでした。音色とさえ言っても構わないであろう、澄んだ声。

 三成は呼ばれるままに目を開けた。

 黒い猫が三成の胸に丸く座って、何らかの感情をたたえた金色の瞳で覗き込んでいた。

 その小さな口が触れ合うか触れ合わないかの距離で。