二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

直截にして平易

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
直截にして平易


 これ、と。ぶすくれた表情でソードマンはアルケミストに向かって拳を差し出した。何のことだと首を傾げる彼に対し、手を出せと短く要求する。一つためいきをつくと、アルケミストはベッドでだらしなく開いていた本を閉じ、半身を起こした。そして、これでいいのかとてのひらをさしだしてみせる。
 うんと頷くと、ソードマンはさしだされたそれに握りこぶしを乗せた。そして、ゆっくりと開き、てのひらの中のものをおく。ほんの少しの逡巡を見せた後、彼は手を引いた。
「やる。だからくれ」
 そっぽを向いて主張してから、彼は横目でアルケミストを見た。てのひらの上を注視し首をかしげる表情からは、何を考えているのかひどく読み取りにくい。不機嫌な様子はないが、喜んでいる様子もなかった。やがて彼は、反対の手でてのひらの上に乗せられたシンプルな銀のリングをつまみあげた。
「おれがあげたら、アンタもくれるっつったじゃん」
 無言の時間にたえかねたかのように、ソードマンは不機嫌な口調を崩さずに言った。アルケミストは首をかしげたまま視線をリングからソードマンへと移動させる。眉根を寄せ、ぎりと歯を食いしばるソードマンの表情は、今すぐにでもこの場を逃げ出したいようにも見えた。これ以上はムリだとばかりに彼が大きく息を吸ったところで、アルケミストは口を開いた。
「なるほど」
 彼が感涙にむせぶと思っていたわけではないだろう。だがそれでも、あまりに感動のない様に、ソードマンの表情がひきつった。おぼえていないのかとか、どういう意味かわかっているよなとか、どこから問い詰めればいいのだろう、と。内容を選ぶための間が必要だった。それ以前に、いきなりの自分の所作を反省すべきではないかと思い至るほどの余裕はない。
「メッセージは?」
「……え?」
 リングの内側を眺めながら、アルケミストはそう言った。またもや彼の襟首を掴んで揺すぶるタイミングを外された形となったソードマンは、きょとんと目を見開いた。そして、こくりと喉をならすとゆるゆると人差し指で彼が持つリングをさす。
「なあ、アンタそれ、何かわかってんの?」
 アルケミストはほんの少し眉を寄せた。彼に対し、彼の理解を疑うような言葉は禁句に近い。そのことを思い出し、大慌てでソードマンは首を横にふった。そして、しどもどといいわけをひねりだそうとする。が、返ってきたのは、わざとらしいためいきだった。情けない声をもらし黙り込むソードマンをとっくりと眺めた後、アルケミストは再度口を開く。
「マリッジリングだと言いたいんだろう」
 はいそうです、と。蚊の鳴くような声で肯定し俯くソードマンの顔は見事なまでに赤く染まっている。が、対するアルケミストのほうは、あいもかわらずの仏頂面だった。
「だとしたら、一般的には内側にメッセージがあるものだが?」
「え? ……え!?」
 ただのリングでは別のものと入れかわってもわからないし、誰からということもわからないだろうが、と。面白くもなさそうな表情で口にするさまを見、ソードマンは慌てて彼に渡した指輪に手を伸ばした。だが、すばやい動作でアルケミストは指輪をてのひらの中に握りこむ。
「取り消しか?」
「違う!」
 今すぐ入れてくるといいながら、必死で指輪をとりかえそうとするさまに眉を寄せながら、再度アルケミストは大きなためいきをつく。そして、落ち着けと口にした。
「どこに頼む気だ。それと、どう書くものかわかっているのか」
「ええと探す! なんとかする! 聞く!」
 だからちょっと待ってくれと必死に頼み込むさまを眺め、アルケミストは指輪を握りこんだ方とは反対の人差し指でソードマンの額をはじいた。
「一般的には日付と名前だが、それでいいな?」
 すべて決定したかのような彼の口調に、ソードマンは動きを止めた。そして、理解できていないという表情のままに首をかしげる。
「おれを何だと思っているんだオマエは」
「……変、じゃなくて恋人」
 アルケミストは眉間にしわを刻み、なにやら言いかけたソードマンを睨んだ。だが、特にそちらには言及することなく、フンと面白くもなさそうに鼻をならす。
「仕事柄、金属に文字を入れられるくらいの道具は持っている。日付は今日、名前はオマエのもの。そんなところか?」
「……できんの?」
「お望みなら言葉まで指定させてやってもいい。さすがに飾り文字までは期待されても困るが」
 並べ立てられた言葉の候補に、ソードマンは酢でも飲まされたみたいな表情になり、どれでも同じと口にする。
「確かに読めなければ同じだな」
「ふ、普通の字なら自分の名前くらい読めるってば。……って、そういうのを入れるもの?」
 ソードマンの素朴な疑問といった問いに答えることに対し、ほんの少し逡巡する様子を見せた。
「相手の名前も入れることもあるようだな」
「それがいい」
 即答するさまに、アルケミストは眉を寄せた。だがすぐに、からかうような笑みを口元に浮かべると、いいのか? と、口にする。
「使いまわせなくなるぞ」
「何に使いまわすんだよ」
 先ほどまでの緊張から来る不機嫌そうな表情ではなく、心底嫌がっている声にアルケミストはわかったと肩をすくめる。
「入りきらないようならイニシャルにするか? それとも渡す相手を削るか?」
「イニシャル」
 了解したといって、アルケミストはてのひらを開くと再度指輪を見た。そして、作業机へと移動するために立ち上がる。
「もう一つの名前は、おれでいいのか?」
「他に誰がいるんだよ!」
 他人事みたいなセリフに、ソードマンは声を荒げ道具を確認する後姿を睨みつける。返事はない。確実な手つきで道具を確かめるさまを見守りながら、ソードマンの表情がひどく不安そうなものに変化した。
「ねえ」
「……」
「アンタもくれるんだよね?」
 手が止まった。揃えた道具を机に並べ、アルケミストがふりかえった。
「いちいち確認せずともわかっている。おれはオマエほど記憶力が悪くはない」
「……」
 どこか拗ねたような表情で見下ろしてくる相手に、優しさとは無縁の口調でそう告げると、アルケミストは部屋の扉を指差した。
「気が散る。出て行け、当分来るな」
 何だどうしたと首をかしげる相手に容赦ない言葉をあびせる。ソードマンは口をひらきかけた。そういう言い方はないんじゃないかと言おうとした。だが、目を細めひどく冷たい表情を向けてくる相手に、いくらかの文句を飲み込むと、ただはいと頷き指示に従う。彼が部屋を出て行くまで、アルケミストは自らの作業を行おうとはしなかった。



 数日後、メディカか何かと同じような調子で手渡された指輪に、ソードマンは表情を輝かせた。これ、と。わかりやすい喜色をはいた声で、これが自らの想像するものと同じかどうかと尋ねようとする。フンと面白くもなさそうなアルケミストに、おそらく思い通りのものであると理解し、彼はしっかりと、それでいてそっと指輪を握り締め嬉しそうに笑う。そのさまを眺め、アルケミストは口を開こうとした。だが、結局は何も言わずにただ肩をすくめる。
作品名:直截にして平易 作家名:東明