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ソードマンの独白-7.5 神のみぞ知る

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ソードマンの独白-7.5 神のみぞ知る


 他人が自分の思い通りに動かなかったからって怒るのは、ものすごく理不尽で不毛なことだ。それくらい知ってる。でも、今回のおれは怒ってもいいんじゃないかと思う。……多分。
 路傍の石よりは、ちょっとだけいい場所にいるとは自負してた。多分、字は読めないとか、力加減が下手だとか、それくらいは他の人と見分けてくれてたはずだ。ただ、すごくあの人のことが好きで、もっとおれのこと見てほしくて、もっと一緒にいたくて、一人占めしたくてなんてのは、知らなかったんじゃないかと思う。……知らなかったって言うか、興味もなかったし、今もないんだろうな。
 鋼の棘魚亭で、斡旋屋の順番待ちをしながら、おれは目の前の光景にそう考えていた。目の前って言うか、ちょっと離れた位置の大テーブルの一角には昼間っから酒飲んでるだめにんげんが二人いる。ギルドほしのすなのアルケミストと、その旧友とかいう人だ。どんな秘密の話をしてるか知らないけど、おれにはわからない言葉で笑いあってる。なんか難しい話か、それとも人の悪口か猥談か。表情や言葉からじゃさっぱりわかんないけど、きっと酒場で話すような内容じゃないにちがいない。……ていうか、顔近い。なんなんだよその表情は。ねえ、この前オヤジに営業妨害とか言われたのおぼえてる? それもそうなるんじゃないの? ホント懲りないよね、アンタ。今度もやらかしたら、またその人と弁償すんのかな。まあ、おれには関係ないけど。
 前の人の用事が済み、待たせたなとオヤジさんに声をかけられ、おれははっと顔をあげた。そして、なんかひきつってる顔をほぐして、この前受けた仕事の結果を持ってきたことを告げる。早かったなぁという言葉に胸をはり、採取したものをいれた革袋をカウンターへとおいた。
 鋼の棘魚亭の出禁と、ギルドをクビにされかけてるっていう、どうしようもない状態で一月。いつもよりずっと近くにいて、たくさん話をした一月だったと思う。さすがっていうべき頭の回転や知識量を、今までになくたくさん目の当たりにした。彼が考えを整理してるとこにも立ち会った。普段なら、彼のそうしてるところは、間にギルドマスターのメディックが入っているから、直接目にすることは少ない。頼りなくて物足りない相手だったんだろうと思う。少しは自分で考えろって何回かいわれた。
 新たな領域へと探索を進めてるわけじゃないから、そこそこ時間はあった気がするんだけど、出禁解除の作業以外の時間を持つことはほとんどなかった。旧友に渡す触媒を調合する必要があるからって話だった。実のところは、旧友とか言う人と一緒にいる時間が増えたからじゃないかって、なんとなくそう思った。ついていけない二人の世界で(言葉が普通でも、調合のバランスだ篭手のつくりだなんてそんな話についていけるはずもない)軽口を交えて楽しそうにやりとりする彼らの姿を見る度に、そんな思いは強くなった。聞いててもわからないだろうから出てていいと彼に言われるのにも、どう答えるのが正しいんだろうって全然わからなかった。
 そんなこんなで出禁解除の条件を提出したその日。彼の行動で、彼にとって旧友とか言う人がどんなに大事なのか思い知らされることになる。朝方、狼と散歩に出る前に、玄関先を掃除するオバちゃんに聞いてみたら、彼はやっぱり帰ってこなかったらしい。イヤな思いばかりが募っていって、精彩のない表情で帰ってきた彼を見たときに溢れた。気が向いたときに気持ちいいことをするだけじゃ、足りない。もっと一緒にいたい。どんな表情も、ぜんぶおれのにしたい。彼の反応なんて考えきれなかったけど、ただ、ぶつけた。抱きしめた腕の中から聞こえた、どこか戸惑うみたいなわかったって言葉に、これで辛いのがなくなる、好きだっていくらでも言える、大丈夫って、本当に嬉しかった。
 後になってみれば、それは徹夜明けの彼を強引に閉じ込めて、望む答えを口にさせてしまったにすぎなかったってことがわかった。他人の気持ちなんて何一つ気にしない彼が、まさか流されるようなことなんてないと思ってたんだけど。
 オヤジさんと新しくなんかいい仕事はないかとか話しながら、ぼんやりと斜め向うを気にする。彼は旧友に撫でられ、どこか切ない表情で唇をかんでいる。かと思うと、不意に相手の頬をつまんだ。それって、その人にもするんだ。楽しそうに笑う相手を、頬を紅潮させて見下ろす様子は、いつもの彼よりもずっと子供っぽい。――おれと二人のときには、絶対に見せない表情だ。もちろん、他のギルドのメンバーといるときにも。多分、彼だけに見せる表情(かお)だ。
「おい。……聞いてんのか?」
「え?」
「ほら、これが今回の報酬だ。あー、なんだ? もうちょっと奥の階層にいくつか取ってきてほしい素材があるって依頼が出てる。今回のに比べると、ちいっとばかり骨がある代物なんで、オマエが一人で受けるっつーんならちょっと回せねぇなぁ」
「あ、うん。……ええと、じゃあさ、場所だけでも教えてくんない? 相談してみる」
 ほしのすなに戻ってから後、おれは普通の探索に戻っただけだけど、彼は公宮での調査中心の活動をすることになった。探索にもたまには参加していて、ギルドマスターのメディックとはるくらい忙しそうだった。けど。ああやって受け入れてくれたんだから、その、やらせてくれるとかそういうのは別にしても、ちょっとだけ特別に笑いかけてくれたりとかおやすみの挨拶とか、キスくらいはできるかなーとか、それくらいはって期待した。でも現実は、容赦なくカギのかかった返事のない扉と、完全におれの上を素通り
する視線だった。何一つ変わらなかった。むしろ、彼とする前に戻ったみたいだった。いやこれは単に忙しいからだ、でももしかしておれは彼に嫌われるようなことをしたんだろうか、それとも――。調査結果を報告する彼の姿に我慢できなくなり、ちょっと強引に夕飯に行くのを抜けておれは彼をおいかけた。結果。すべておれが勝手に期待して舞い上がっていただけだったってわかった。
「オヤジさーん、今日はコイツが払うんで!」
「ちょっと待て、誰がおごるといった! それに今日は一晩つきあうっつっただろオマエ!」
 じゃ! と。爽やかな笑みを浮かべて、アルケミストの旧友がすたすたと店を出ていく。おいおいと呟くと。オヤジさんはカウンターを回り、それを追いかけようとするアルケミストを捕まえた。
 ……一晩、つきあうはずだったんだ。今日。店の外と、またわかんない言葉でやりとりしてるアルケミストを見るともなしに見ながら、おれは立ちつくしていた。
 彼にしてみれば、おれが文句言うすじあいなんかどこにもないんだろう。他の人のにおいで帰ってくるのはイヤだって聞いたけど、それを了解したつもりはないとか。そもそも、何でそんなふうに言われるのかわからないとか。もうちょっと前だったら、一晩つきあうっていうのが即そういうのと結びつくとは思わない――ていうか信じたくなくて、もう少しあれこれ考えたんじゃないかと思う。でも今は違った。言葉はわからないけど気を許してる様子のやりとりや、彼の上気した顔なんかを見てると、どう見たって、それ以外の解答なんてないような気がした。