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赤いマントと青い鳥

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大切なものは気付かないうちに傍にあって


 誰だって初めから「完璧」なんて有り得ない。あの鬼道でさえ。
 長い、付き合いになる。小学生の頃から、ずっと一緒にサッカーをしてきたのだ。同じボールを蹴って、同じゴールを目指してきた。何年も、それこそ、血の滲むような努力を共にして。サッカーに関して鬼道有人は本物の天才だった。小さな頃から既に、完成された存在だった。それでも、完璧なんてものはない。あの鬼道有人でさえ。無敗の帝国を支え続けた最強最高のキャプテンは、実は案外脆いのだ。
 ああ、迷っているなと思った。
 久し振りに見る、帝国の鬼道有人。赤いマントも、馴染み深いユニフォームも、この場所にいるのが当然のように、帝国のグラウンドは鬼道有人を抱く。
 長い付き合いだ。背中を見ているだけでも、分かってしまう。本当は分かりたくも無いのに、分かってしまう。分かりたくもないのにだ。それは、名誉なのだろうきっと。
 俺は鬼道有人の、参謀なのだから。
 中々完成の見えないデスゾーンに瞳を僅かに曇らせて、ハーフタイムのホイッスルが鳴り響くなり、隣に座って、黙って同じ方向を見つめて、ああ、言いたいことがあるのなら、もっと素直に言えば良いのに。この人は、いつもそうして損ばかり。ああ、しかたがないなあと思う。しかたがないなあ。
「鬼道」
 しかたがない、しかたがない。だって、俺は鬼道有人がすきなのだ。その全てに魅せられて、俺は今まで、ずっと、ずっと傍で支えてきた。
 ずっと一緒にサッカーが出来るなら、そんな幸せなことは無い。俺にとって、それほどの望みは他に無い。ただ、それが鬼道の幸せなわけじゃないのだ。
 天秤にかけて、迷うようなことはしない。もう決めたのだ。
「久し振りに、帝国の鬼道が見れて嬉しかった」
 たった一言の本音だけで、十分だから。
「…でも、雷門にいるほうが、お前は自分を出せているのかもしれない」
 嘘じゃない。でも、全部が本音でもない。背中を、押してやりたかった。そのための虚勢なら、嘘とは、言わないだろう。帝国の中で、肩肘張って、まるで完璧を装って、無理をして、努力を重ねて、そうして立っている鬼道有人は誰にも負けないくらい、立派だった。でも、それが本当に鬼道有人という人間の、在りたい姿なのかなんて、俺には分からない。分かれない。俺はそんな鬼道有人を、強いていた人間の一人だからだ。
 気持ちに反比例するように、言葉はすらすらと口をついた。馬鹿みたいだ。自分で言って、自分で傷ついて、それでも後には引けなくて、これで良いんだと、自分に言い聞かせるように、話し続けた。何度も、何度も喉の奥から出かかって、それでも押し込んで、言うべきことを吐き出す。
「もう、お前に裏切られたとは思ってない」
 本当に伝えたかったこととは、少し違う。裏切られても良いんだ。それでも俺は、お前の背中を、押すと決めたんだ。でもそうは言わない。言ったら、また鬼道は気に病んで、迷って、俺たちを、置いていけなくなってしまうから。その優しさは、もう十分なんだ。貰ったものばかりで、両手は溢れて、明日を頑張ろうと思えるのも、サッカーがまだこんなに大好きなのも、全部、鬼道にもらったものなのだ。全部。そういいきれるのは、きっとどこかで嘘を孕んでいるからだけど、本音でもある。嘘と本音。そればかり、境界線を気にしてる。どっちだって良い。俺は、俺が決めたことを、正しいと信じてる。その正しいことを、今はする。
「…ありがとう佐久間」
 鬼道、それは、お互い様なんだ。

作品名:赤いマントと青い鳥 作家名:あつき