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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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soleil<ソレイユ>

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「……というわけで、これと同じ花が光の守護聖の庭にも咲いているはずだ」
 彼はそう言って、ジョウロをぶらぶらさせている孫の少年に言った。照りつける太陽と乾いた風の暑さから涼を求めるようにシャワー代わりに自分と彼の足元に水をかけながら、少年は頷いて祖父を見た。彼譲りの暗金色の瞳がきらきらと光っている。
 「光の守護聖様って、お花を育てるのは上手なの?」
 彼は目を細め、くすりと笑う。
 「さあて。でも律儀だから、とりあえず種は蒔いたと思うぞ。後はどうしたやら」
 「僕、光の守護聖様に会ってみたい」
 そう言う孫に、彼はしばらく考えた後、ふっと笑って言った。
 「おまえの母さんは無理かもしれんが、おまえならもしかしたら会えるかもしれんぞ」
 「え、ほんと?」パッと目を輝かせて少年が問う。
 「何の飾りもつけず、体に白い布を巻きつけただけの姿でな。でもすぐわかるさ。この花のように眩しく輝いているから」
 そう答えて彼はパラソルの下のテーブルにあったオレンジの輪切りを口に喰わえると、孫に向かって「がおーっ」と唸った。これがこの二人の追いかけっこの始まりの印だった。少年は「こっちだよ!」と嬉しそうに叫ぶと、ジョウロをその場に捨てて花の群生の中に入っていく。それほど広くないものの、幼い少年と年老いた男が戯れに走るには恰好の花畑。
 一面の黄金色。
 少年の姿はその黄金色と、その下にある深い緑色の葉の中に見え隠れして、彼のおぼつかない足よりはずっと速く駆けてゆく。もう追いつけそうにない……もう走れない。
 彼の視界から花はゆっくりと消えてゆく。太陽の化身のようなその姿が、ふと何かと重なる。
 「ひまわりは……咲いたか……? ジュリアス……」
 「咲いたとも」
 どこからか、照れ隠しに渋面を作ったままの懐かしい声が聞こえたような気がした。
 「相変わらずだな、おまえは……」
 くすくすと笑って、彼は静かに目を閉じた。