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BSRで小倉百人一首歌物語

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第81首 ほととぎす(小政)



 「忍音」
 筆を進める手は止めず呟いた政宗の言葉に、ちょうど言伝があって部屋を訪れた小十郎が答える。
 「忍音ですか。そういえば、もうそろそろそんな時期になるのですね」
 戦乱の世の真っただ中に不如帰の音を聞きたいなど、呑気もいいところなのであるが、如何な状況にあっても風雅心を忘れない政宗が、小十郎は嫌いではなかった。
 「政務も溜まってはおりませんし、今宵は不如帰でも待ちませんか?」
 私と一緒に、と付け加えると、政宗は驚いたように目を見開く。まさか小十郎の方から、このようなことを言い出すとは思ってもみなかったのだろう。
 後ほど参ります、と言って下がる小十郎の耳に、何となく恥ずかしそうに「All right.」と呟く政宗の声が届いた。

 そして、夜。小十郎は盃を手に政宗の自室を訪れた。
 小十郎が酌をすると、政宗は僅かに口をつけ、唇を濡らす。そうしてから、品良く口角を上げる。その一連の所作が言いようもなく美しく感じられて、小十郎は嘆息する。
 それから二人は、特に言葉を交わすでもなく、不如帰の訪れを待った。

 「来なかったな、不如帰」
 そろそろ空も白んでこようかという刻になって、政宗がぽつりと呟いた、その時。明け方の静けさに響く、甲高い声が一つ、二人の耳に届いた。
 政宗は慌てて縁側まで出ていくが、声の主はもうどこにも見当たらなかった。小十郎も追って縁側に出てみると、有明の月が仄かな光を放っていた。
 「いなくなっちまった……」
 どことなく寂しそうに呟く政宗の肩を、小十郎はそっと抱き寄せる。
 「帰るに如かず、と言いますが、どうやらあの鳥は自らの帰する処を知っているようですね」
 「随分古い話を持ち出しやがる。」
 「帰る処があるというのは、実に幸せなことだと思います」
 微笑む小十郎に、政宗は不思議そうに首を傾げてみせる。小十郎の意図が掴めない。
 「小十郎は大層な幸せ者だ、ということですよ」
 小十郎の言わんとするところを解して照れたように俯く政宗に、小十郎は一層笑みを深くしたのだった。


 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば  ただ有明の 月ぞ残れる

作品名:BSRで小倉百人一首歌物語 作家名:柳田吟