二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ある夏の日の情景

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
夏真っ只中の、登校日のある日。
 相も変わらず賑やかなクラスが一つ。

「夏休みですよ横島さんっ!!何処か行きましょう!!」
「却下」
「どうしてですかぁっ!!」
「仕事と補習でそんな事してる暇ねーっつーの」
 テンション高いピートの訴えを、容赦無く切り捨てる横島。
 エアコンは稼働中だが、温度設定は常時28度。あまり効いているとも言い難い。
 じりじり照りつける日差し、室内に篭る熱気。
 ただでさえ暑い中で更に暑苦しいピートの様子に、横島は些かげんなりしながら、ぞんざいに相手をしていた。
「そ、そんな…。夏休みも既に半ばじゃないですかっ!!まだ補習あるんですかっ!?仕事は仕方無いにしてもっ!!」
「悪かったな!!出席日数が足りねーんだからしゃーねぇだろっ!?」
「だからって、だからって…!!あああっ学生としての甘酸っぱい青春の時間がっ!!」
「私のセリフ奪られたっ!?」
「おまいら………」
 そのまま何故かピートと愛子の言い合いに発展。
 学校妖怪というか青春妖怪というか、愛子も『青春』話では負けていられないらしい。
 段々と『青春』議論へと移行する。
「ピートさん、相変わらずテンション高いですノー」
「ま、夏休みだからなー。ヒートアップしすぎな感もあるが………色々はっちゃけたいんだろ」
 騒ぐピートと愛子を眺めながらタイガーとクラスメートのメガネ君。
 横島は溜息を吐きながら、ちょっと離れた所でそれを呆れた様に見ている。
 ピートと愛子の議論は、担任が来るまで止まらなかった。





 下校の時間。
「夏祭りデート!!浴衣を着て屋台を巡ってフィニッシュは草葉の陰でしっぽりと!!青春ですよねっ!!」
「またセリフ奪られたぁっ!?」
「てめーら何話し合って出したその結論っ!?」
 ピートのテンションは持続していた様だ。
 愛子はまたも己のアイデンティティーとも言える単語を奪われ、しくしく泣いているが。
「…色々と間違っとる所にも突っ込みを入れるべきじゃないですかノー」
「まぁ、フツー繁みの影でだよな」
 タイガーとメガネ君は当然の様にその様子を眺めつつ会話。
 その内容もどうなのか。
「てゆーか、定番ではあるけど、それってちょっと古くない?」
「何言うんですかっ!!古来からの伝統じゃないですかっ!!」
「そうよっ!!青春は歴史の積み重ねなのよっ!!」
「わきゃーっ!?」
 タイガーとメガネ君の隣でなんとはなしにそれらを見ていたポニーテールの女子が漏らした言葉に反応し、ぐおぉっと迫り反論するピートと愛子の二人。
 無駄に迫力を伴って、一気に差を詰められりゃ悲鳴も上がる。
「…つまりそれは古いと言う事では…」
「言うな、タイガー。良いからこそ、人の欲望と願望と憧れとロマンを刺激するからこそ、連綿と受け継がれてきた古さだ。お約束やベタとも言ったりするが、つまりそれは多くの人が一度は考える正に王道、夢という事なのさ!!」
「………語られても困りますジャー………」
 サムズアップにきらりん笑顔。ついでにメガネも光らせつつ綺麗な感じに締めたクラスメートに汗ジトになりながら一歩引く虎。
 しかし脳内で彼女の一文字魔理と自分でシュミレートしている辺りちょこざいな。
「………って、あっ!!横島君いないわよっ!?」
「「ええっ!?」」
 二人に詰め寄られて困っていたポニテ少女が声を上げる。
 振り返れば確かにそこに横島の姿は無く。
「あああっ!!横島さーーーん!!!」
 ピートは自分の鞄をひったくる様にして持ち、帰宅したであろう横島の後を追って行った。
 そして先程の騒がしさから一転、静寂を取り戻し、教室に響くのは蝉の声のみ。
「ま、いーか。とにかく賭けだっ!!さー、最後までイくか否かっ!?」
 しかし、あっさりとメガネ君の声がそれを打ち破った。
 横島とピートの仲がクラスメート達公認になってからこっち、娯楽対象なピートと横島である。
「…まずデートの申し込み受けるか否かの所じゃない?」
 困った様に笑いながら言うのはポニテ少女。
「受けても夏祭りの日に仕事休めるか解らんしノー」
 タイガーも口を出してきた。
「大体ピート君に横島クン押し倒すなんて無理でしょ。若い身体を持て余しながらも葛藤と躊躇いに悶々とする青少年…青春だわっ!!」
 どんな青春を夢見とる愛子。
 とにもかくにも、賭けは始まる。
 最終的な内容は、この夏休みの間に二回以上デートをするか、という、微妙に盛り上がりに欠けるものではあったが。



「ったく…どいつもこいつも…」
 ぶつぶつ言いつつ帰り道。
 アスファルトからの照り返しがキツく、汗も滴り、煩い蝉の鳴き声に苛々しながら不機嫌そうに。
「………ピートもピートだろうが…。教室で言う事かよ、アホが………」
 顔が赤いのは、夏の暑さの為だけではなさそうだが。
「…ま、仕事も休めねーだろーし。………無理だよな」
 ぽつりと呟くその声が、少々残念そうに聞こえた自分に苦笑した。





 ────そして、事務所に到着した横島に告げられたのは。
「………はい?休暇………ですか?」
「…そ。一応アンタ用の仕事を二件程出しとくから。丸々アンタの取り分よ。感謝しなさい」
「はぁぁっっ!!?」
 苦々しそーな、こめかみを押さえながらの美神の台詞に、声を上げて固まる横島。
 まず一体これは何の罠なのか、と思う辺り日常が知れる。
「な、何があったんです!?」
「………ママが………」
 胃の辺りを押さえて搾り出す様な声が口から漏れる。呻きに近い。
 何となく察した横島が、なんだかなー、と脱力しつつ。
「…隊長がまた何か仕事持ってきたんですか?」
「そーなのよっ!!脱税バラされたくなければ手伝えって!!タダよ!?タダでなのよっ!!?そりゃあ人手不足なのは解るけど、夏は掻き入れ時なのにぃ~~~!!!」
 うがーっ!!と雄叫び上げながら、母親の仕打ちに暴れる美神。
「お、落ち着いて下さいよっ!!…あー、だからおキヌちゃん達もいないのか………」
 おキヌは帰省、シロも人狼の里へと里帰り。タマモはシロについていった。
 それらが同時期に重なっているのは、やはり美智恵の仕業だろう。
 同時期に皆いっぺんに、という徹底ぶりは流石と言うか。
 別に美神も、帰省や里帰りもさせず、毎日仕事をさせる等という気は無かったのだが。
 実際、おキヌはもう既に一度、夏休み前半に帰省している。しかし期間は短く三日程だったので、今度はもーちょっとゆっくりしてきなさい♪等と問答無用で美智恵から切符を手渡され、断り切れず、今朝発ったらしい。
 シロは最高級のドッグフードをお土産に♪と渡され、上機嫌で里へ走って行った。タマモは興味はあまり無さそうだったのだが、美智恵に買収でもされたのか、稲荷寿司を頬張りながらシロを追って行ったと。
「………そこまでしますか………」
「………散々注意はされてたからね………。あーもー!!隠し場所変えなきゃー!!」
「そんでもまだやる気ですか………」
「当たり前でしょっ!?」
 らしいと言えばこの上無くらしいが、だからこそ苦笑は止められなかった。
作品名:ある夏の日の情景 作家名:柳野 雫