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灯千鶴/加築せらの
灯千鶴/加築せらの
novelistID. 2063
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四日ぶり。

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四日ぶり。



月曜日。
その字面だけで憂鬱なものだとクラスメイト達は言う。
でも俺にとっては楽しみな日。

土日だと朝から夕方まで練習で、解散したら真っ直ぐ家に帰ってしまうから。
ほんの少し浜に寄れば駆に会えるのに、それだけのスタミナが無いのが恨めしい。
駆だって一日練習なのに、それでもまだ自主練出来るその差は、一体どこから来るんだろうか。
一選手として、少しだけ羨ましくもあるし、及ばない自分の姿を見せたくないから会いに行けないのもある。

とにかく、土日は駆に会えなくて。
だから、昼過ぎまでは授業で体力を温存できる平日は結構好きだ。
部活が終わって、大抵は鷹匠さんに自主練付き合わせてもらうけど、月曜日だけは別。
おまけに先週の木曜と金曜は駆の不都合で帰る時間がすれ違ってたから、凄く長い週末を過ごしてた。
今日はやっと、四日ぶりに駆に会える。その事実に気が逸る。


……そんな浮かれた気持ちで居ると、失敗の一つもするよね、って言う。
絵に描いたようなアホの子が今の俺です。


ミニゲーム形式の練習で、DFはかわしたのにシュート外してみたり。
判断が遅れて苦し紛れに鷹匠さんに出したパスはあっさり読まれてカットされ。
(ピッチを出てから「あの腑抜けたパスは何だコラ」って全力でシメられた)
メンバー入れ替えて世良と組んだけど連繋が取れず「今日の佐伯くんオカシイ」と言われたり。

なんだか全体的にグダグダで、見かねたんだろう鷹匠さんに「ケガしてもヤバいから一旦外れてろ」と声を掛けられた。
一旦外れてろ、というのは『練習時間外でシゴいてやるから覚悟しろ』という意味だ。
勿論『ケガしてもヤバいから』というのは、監督に角が立たないための方便だろう。

四日ぶりに会えると思っていた、月曜日。
珍しく自主練の予定が入ってしまって、約二十四時間後までお預けが決定した午後五時。

(明日会えるとして、五日ぶり、になるのか……耐えられるかな、俺)

会いたい。早く会いたい。駆が足りない。
そんな気持ちで空回りしてちゃ世話ないけど、でも駆が俺のモチベーションなのも本当だ。
駆が鎌学を出てから日常にぽっかり穴が開いたことに気付いて、そこで初めて自覚した想い。

好きだと気付くまでは一ヶ月会えなくても「物足りない」だけで済んでた。
気付いたけど認められなかった間は、会って気持ちが溢れるのが怖いから我慢できた。
認めてしまってからは、この気持ちは伝えられなくてもせめて会いたくて、一週間会えないと寂しかった。

気持ちを知られてからは、駆の気持ちを知ってからは。
たった二日でも待ち遠しいくらい、いつでも駆に会いたくて。
せめてと帰る時間を合わせて浜で会うようにした、月曜日。
いつもは楽しみだったはずの月曜が、今日だけは珍しく憂鬱だ。


***


「(うー……駆……――)」
「ぼーっとしてんじゃねぇぞオラ、さっさと片付け終わらせろ!」
「ど、わっ!? す、すみません!」

最終下校時刻の二つ前のチャイムが鳴って、全体の練習が終わり。
夜間照明なしではボールを追うのも難しくなって、自主練もお開きになった後。
先に部室に向かう鷹匠さんと五条さんを見送って、最後に使った道具もろもろの片付けをしていたら、目の前に帰ったはずの鷹匠さんが居た。
この距離で声掛けられるまで気付かなかった俺って一体。
喧しい心臓を抑えて謝りつつ片付けの手を速めると、背後に回った彼の人からククッと笑い声が聞こえてきた。

「祐介、そんなんじゃ駆に呆れられるぜ?」
「……え?」

何で、そこで、駆の名前が出るんですか?
喉まで出かかったその質問を、音に乗せる勇気が出ない。
だって俺、駆と俺が親友以上の……所謂そういう仲だって、誰にも言ってない、よな?
鷹匠さんが知ってるハズがないんだから、下手に自白するのも怖い、し――

「ハトが豆鉄砲食らったような顔してんな。なーに、ちっと駆から相談受けてただけだ。
 『ずっと好きだった相手から告白されたけど、自分よりサッカーを取ってほしい場合どうしたら良いですか』ってよ。
 当の相手がウチの期待のルーキーだってこともちゃーんと自白済みでな?」
「えぇぇ駆……!」

自分で言うのもなんだけど、『ウチの期待のルーキー』って、多分俺か世良だ。
あ、西島も一応夏の大会でゼッケン貰えるくらいだから期待株ではあるんだろうけど。
まぁなんだ、レギュラー取れた、って意味では。
でもって世良は駆と面識無かったんだから、消去法で俺になる。そりゃバレバレじゃん。
ていうかそもそも鷹匠さんに恋愛相談するほど仲良かったなんて初耳だ……!

妙な脱力感に襲われつつボールを入れたカートを押す。
……つもりだったが、鮮やかにひったくられた。

「え、」
「だから、さっさと会いに行ってやれよ?
 お前が待ち合わせ場所に来ないからって、浜からここまで歩いてきたみたいだぜ?」
「!? っ、あの、明日必ずお礼とお詫びしますから!」
「おー、明日は七時半まで付き合わせてやらぁ。今日のとこはしっかり駆に謝って来い」
「っス! 失礼します!」

言われたことを理解したら、身体が勝手に動きだした。
早鐘を打つ胸にゾクリと広がる高揚感。
ジャージを羽織ってエナメル引っ掴んで、さすがに部室の扉はちゃんと閉めたけど、駆けだす足は止まらない。
門柱に寄りかかる人影、俺より少し低い位置にあるだろう肩が見えて声が弾む。

「――駆っ!」

影が振り向いて、ゆっくりとはにかんだ。

「祐介、おつかれ」
「待たせてごめん! あと、会いたかった、すっげー会いたかった!」
「わっ。ちょ、祐介、落ち付いてっ」

人の気配がないのをいいことに思い切り抱きつく。
うん、鷹匠さんはまだ校内に居るって分かってるけど。

「ごめん、嬉しくて。……駆が足りないから、いつもの場所まで行ったら、充電させて?」
「う、うん。それなら良いよ」

俺も祐介足りなかったもん、なんて。
小さな声で付け足すもんだから、じわじわ込み上げた幸せがメーター振り切りそうだ。
駆に会いたくて、飢えてた、渇いてた心が、ひたひたになるほど潤っていくのが分かる。
口を開いたら「好きだ」とか「キスしていい?」とか言いだしそうで、必死に口元を抑える。

でも、黙ってると駆が不安がるのは知ってるから。
片手で自転車を押して、もう片方は駆の右手と繋ぐ。
ぎゅっと握り返された手が、声にならないほど嬉しかった。

駆が会いに来てくれたおかげで、五日ぶりにはならずに済んだけど。
それでも四日ぶりなワケで、こんな些細な動作でも効果覿面。
照れ屋の駆が応えてくれた、ってだけで嬉しすぎて、もう目眩がしそうだ。

……浜に着いたら、俺、自制できるかな。
『充電』なんて言い訳で足りる程度で済むのかどうか、ちょっと自信が無い。
抱きしめて、キスして、それから、えっと。
照れた駆に怒られない程度に、好きだよって言って。

今日遅くなった理由を話したらやっぱり呆れられるかな。それとも照れるだろうか。
どっちにしても明日は確実に遅くなるから、会えないって言わなきゃ。
でもって、その次はいつ会えるかな。約束しないと。
作品名:四日ぶり。 作家名:灯千鶴/加築せらの