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日常ひとつ

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 秋のある日。
 落ち葉の中。
 身を投げ出して。
 落ち葉に埋もれ。
 ──────思い出す。


 ある春の日。
 桜に埋もれてみた。
 積もる桜の花弁へ身体を投げ出して。
 空から零れ落ちてくる花びらを目に映す。
 雪を見上げている様に。
 静かに、静かに舞い落ちる、白の─────花びら。
 夜の闇の中。花びらの中に埋もれていく。
 覆い尽くされていく。
 夢の様に。
 己の存在さえも忘れ。
 ただ、散りゆく桜を見詰める。
 自分が吸い込まれてしまう様な感じを受けて、それもいいかな、なんて。
 馬鹿な事を思ってみた。
 ──────と。
「………何してるんだ?」
 呆れた様な口調で掛けられた声に、現実に引き戻される。 
「…桜に埋もれてみた」
「………見れば解る」
 そちらを見ずに答えた言葉に、やはり呆れた様に返され。溜め息を聞く。
「………うっるせぇなぁ………」
 人が風流を感じているというのに、などとブツブツ言いながら起き上がった。
「………何をやっているんだか。そんな事をして、何か面白い事でもあったかい?」
「るせーな。なんとなくだよ、なんとなく!!」
 いつものやり取り。
 些細な言い合い。
 桜の下、色気も何も無く。
「………花びらまみれだな」
 さらりと髪を撫でられると、ぱらぱらと花びらが落ちる。
「………うーん、やっぱり絵にならないねぇ、君じゃあ」
「あぁ?似合わねーってか?悪かったな!!」
 ったく、失礼な!!などと呟きながら、身体についた花びらを払って。
「………ああ、似合わないね」
 それから視線を外さないまま、男─────西条が、静かに呟く。
「桜に囚われている様で」
 真剣な瞳。強まる視線。………硬い、声。
「………え?」
「…消えるなよ」
「………何の話だ?」
 なんとなく、意味は理解しつつも─────訝しむ様に出た言葉に、西条は笑う。
「………別に。君は僕のだからね」
「………ってオイ」
「僕に囚われていれば良い」
「………うわ、何コイツ。すげー自己中」
「何とでも。…譲れないものは、僕にもあるらしくてね」
「………言ってろ」

 ──────桜が、静かに佇む。
 月が桜を照らし、散る花弁は淡く光り。
 その下には。
「………来るか?メシくらいオゴってやるぞ?」
「………ほぅ。自分に囚われてる奴を食い物で釣るか」
「…かわいくないねー」
「かわいいなんて言われてどーすんだよ、男が」
 色気の無い会話を交わし、それでも─────共に歩く、男が二人。
 ──────ある日の、ただの日常の話。


 ………期待は、していない。
 していない………筈だ。
 なのに、自分は同じ様な事をしていて。
 笑いが、込み上げる。
 ──────と。
「………何してるんだ?」
 ………あの日と同じ言葉が、降ってきた。


 手を、掴んで。
 引っ張り上げる。
 ………あの時は勝手に起き上がってきた。
 だけど、今は。
 この手を待っている様な気がしたから、それに従った。
 ………思い上がりかもしれない、それ。
「…相変わらず絵にならない事してるな、君は」
 言いながら、男─────横島の身体についた落ち葉を払う。
「………そっちも相変わらずうっるせぇなぁ………」
 ちっ、とか舌打ちしつつも、その手を拒否する事は無く。
「………消えたいか?」
「………何の話だよ」
 呟きには、呆れた様な声が返って。
 ──────あの日の危うさが消えている事を、知る。
「………それにしても、夜に落ち葉に埋もれてそのままになってるのはどうかと思うぞ。死体に見える」
「うあ。何だその言い草は。失礼な」
 その言葉に、渋面になって文句を垂れる。
「…そのままいれば、死体にもなるだろうが。夜は冷えるって事実を知った方がいいね」
「…俺がそんなんで死ぬか、アホ」
「………じゃあ落ち葉に埋もれるとか、呑み込まれるとか、土に沈むとかで窒息死」
「………どうやらてめーは、俺を殺したいらしいな?」
「馬鹿らしい事はやめておけと言ってるんだよ、僕は」
 溜め息と共に出た言葉に、子供の拗ねた顔を覗かせ。
「…悪かったな、馬鹿で」
「………馬鹿は僕の前でだけにしておけ」
「………どーゆー話の流れだよ」
「言ったろうが。………君は僕のだ」
「………抜かせ。てめーが俺のなんだよ」
「………お互い様だな」
「俺の方がつえーよ、ばーか」
「………なんだそりゃ」
 相変わらずのやり取り。
 些細な言い合い。
 色気があるのか無いのか─多分無いだろう、会話を交わす。
 ………お互い、微笑いながら。

 ──────落ち葉の降る中。
 月と星。街灯の僅かな明かりしか無いそこで。
 男が、二人。

 指先を掴んで、緩く引く。
 繋ぐまでいかないそれに、素直に引っ張られて。
「………男同士でコレは気持ち悪いだろ」
「人目につきゃしないだろ。夜だし」
「そーゆー問題かよ。エロオヤジ」
「………うっさいよ」
 日常の中に埋没したあの日と同じく。………いや、季節が移り変わった様に、どこか変化を匂わせながら。
 共に歩く、男が二人。
 ある日の、これもまた日常の中に埋没するだろう、それでも記憶には確かに残る、ただの──────
 二人の、話。



 ──────冬の日。
 積もる雪の上で。
 降る雪を、見上げていた。
 雪と同化するかの様に。
 冷たく、儚く。
 消えようとは─せずに。
 ただじっと、その場で。
 雪の上に居る、一つの存在として。
 ただ、待つ。

「………何してるんだ?」

 言葉が、降る。
 それに含まれるは、微苦笑。
 その声の主に向けられた顔には、穏やかな笑み。

「………遅刻だぞ、西条」
「…待ち合わせた記憶は無いんだけどね」
「俺が待ってたんだから、すぐ来なかったお前は遅刻」
「………うわぁ、凄いワガママだよこのヒト」
「うるへー」
 当たり前の様に手を出せば、当たり前の様に手を掴み、引く。
 雪の上には座っていただけ。
 さして重さも感じぬままに立ち上がらせて。
 ………その手は離れる事も無く。
「さ、帰るよ。雪の上に寝そべる馬鹿じゃなかったのは良かったけど、雪の日に外に意味も無く居るのはやっぱり馬鹿だからね」
「………喧嘩売る気か、コラ」
「馬鹿は馬鹿だ。変わらん」
「くっ…性格悪ィ………」
「君程じゃないね」
「てめーには言われたくねぇぞ………」
 相変わらず。
 そうとしか言えない様な言い合いが続く。
 それでも。
「………ったく、その馬鹿に惚れた大馬鹿はどこの誰だかなー」
「………だからそれはお互い様だろうが」
 やはり変化は、生じていた。


 雪に包まれ、二人が歩く。
 手は、離れないまま。
 温もりを感じられる程に。
 しっかりと、繋がれたまま。

 雪が、淡く光る。
 音は、他に聴こえない。
 ただ、感じるのは。

「………お前、手ェあっついな………」
「………君の手が冷たいんだよ」

 繋がれた手の、温度だけ。


 日常は。
 降り続き、降り積もる。
 ──────これからも。

作品名:日常ひとつ 作家名:柳野 雫