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【ヘタリア】 【悪友トリオ】 「すずらんの花を君に」

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【ヘタリア】【悪友トリオ】 スズランの花を君へ





  『フランシスお兄様・・・・・・』



その声は生前のままに、優しく甘く響いて聞こえた。

彼女の両手には、持ち切れないほどの白いミュゲ(すずらん)の花。
煙るようなプラチナブロンド。
赤みがかった濃い紫の瞳。
たおやかな白い手。
微笑みかける少女の清楚な白いドレスが、風に揺れる。


「マリー・・・・・・・・・・・。」

ミュゲの香りが漂ってくる・・・・・・。

「・・マリー・・・・・・。」

風の中で、一面のすずらんの咲く丘の・・・・・。
むせかえるほどの香りの中、彼女が立っている・・。



その時、フランシスは、頬に痛烈な痛みを感じて飛び起きた。
目の前の女が、手を痛そうに振りながら怒鳴った。

「ったく・・・・!!もうこれで決定的ね!!貴方とは今日限りで終わりにするわ!」

夢見て朦朧としていた頭が、瞬時に冷えた。

  え?
  何でぶたれたの?俺。
  あれ?
  彼女、もう着替えも化粧も済んでるし・・・・。
  これから朝食を一緒にって・・・思ってたのに・・。

女はバッグを手にとって、ドアへと向かってる。

「ちょ、ちょっと待って!!どういうこと?!」
「夢の中で他の女の名前を呼ばれたのは初めてだわ!もーう限界!別れましょう、フランシス。さよなら!」

茫然とするフランシスをしり目に、女はさっさと部屋を出て行った。


え?!俺って・・・・ふられたの?!


フランシスはベッドの上に寝転がると、頬の痛みが治まるのと、目が完全に醒めるのを待った。

  ううん・・・目は覚めてたよね・・・・・動けるほどには・・・。
  それでも、追いかけるほどの情熱が俺になかったのも事実・・・・。
  あーあ・・・・・・・・・。

  痛いよねえ・・・・・・・・ふられるのは。
  どんなに慣れていたってさ。
   彼女は、もうとっくに俺を見限っていたんだろうな。
最近は会ってもそれほど楽しくなかったし・・・。
まあ、きっと二股かけてたうちの一人が、俺だったんだろうって、うすうすわかってたし・・・・・。

  それでも、こんな日に、別れる事になんて・・・!!
  ああ!!もうすぐ「ミュゲの日」なのに!!


むなしい思いを振り切って、ベッドから降りて着替える。
洗面所の前に来て、もそもそと顔を洗って歯を磨く。

  別れたばっかりだろうと、なんだろうと、今日は仕事があるんだな・・・・・・。

ふと、彼女が飾っていったままの、一輪ざしにささったすずらんの花に目がとまった。

    ふーん・・・・今思えば、ミュゲの日にじゃなくて、前もって持ってきてるってこと
は、俺、どっちにしろミュゲの日には振られるって事だったのかな?
 ミュゲの日は、彼女はもう一人の彼のほうと過ごすとか・・・・・。

ますますフランシスは落ち込んだ・・・・・・。

  今年のミュゲの日だけは、一人じゃないと思ったのに・・・・。

  どういうわけか、ミュゲの日の前あたりに、俺はふられるとか、ふるとか・・・・。
  なぜか5月1日は、寂しく一人でいることが多いんだよね。
  うーん・・・・・・。
        今年も、近所のおばちゃんと友人とか上司・・・あのむくつけき上司とかにさ・・。
すずらん          味気なく、すずらんを渡して終わりなのかな・・・・。
  それはむなしい!!
  なんとか彼女持ちでいられるように頑張ったのに・・・・!!


一輪ざしの中のすずらんは、小さな清楚な姿で、凛として香っていた・・・・・・。
フランシスの頭に、古い昔の思い出が、ふと浮かぶ・・・・・。




   ディジョンの町はずれの花畑・・・・・・・・。
   一面のスズランが咲き乱れる中・・・・・・・。

   笑う、君。
   風に揺れるドレス。


  ああ・・・・・そうか・・・・・・・この香り・・・・・。
たった一輪なのに、君の姿を夢に見たのは・・・・この香りのせいか・・・・。

  マリー・・・・・・・。
  消えてしまった、俺のマリー・・・・・・・。



  『フランシスお兄様・・・・・・・』


 夢の中で聞こえた優しいマリーの声がまだ耳に残っている。

 

 マリー・・・・。





  そう・・・・・君の名は【マリー・イザボー・モルヴァン】。
  またの名を【ブルゴーニュ公国】・・・・・・。

俺が滅ぼした君を、今も俺が思ってるなんて、君は笑うだろうか・・・・・・
それとも、その優しい手で、俺を抱きしめてくれるのだろうか?

君が消えた日に、俺は初めて・・・・・
自分のしたことを思い知ったんだ・・・・・・・。








「だから、この書類は今日までだと念をおしたはずだよ?君にしては珍しいミスだね?」

鬼の形相の上司は、容赦なく俺を責め立てる。

ああ、今日は厄日らしい・・・・。
彼女に振られただけでなく、一月かけて準備した仕事がぱあだ・・・・・。
それでも、どこかにあると信じて、作った資料を探しまわる俺に、痛恨の一撃。

あわてて駆け下りた階段を踏み外した・・・・・・・。
ドガンとすごい音がして、俺はあえなく病院送りとなった・・・・・・。
あうう・・・・・。
足の骨折・・・・全治2カ月・・・・・。
2か月?!
逃げられなくなった俺を前に、嬉々として上司が病室に積み上げた書類の山が崩れないように片手で押さえながら、必死で電話をかける。

かけるのは・・・・・もちろんあの二人!


「お願いだから、今すぐに来てってば!俺、このまま病院に監禁状態だとまずいのよ!
そう!脱走するから手伝って〜!!」

フランシスの絶叫が病室にこだました・・・・・。





ギ「んだよー!お前んとこにも連絡きたのか!ったく、いったいなんなんだよ!
フランシスの野郎、俺様がいっつもひまだと思ってんのか?!
ああ、確かにここんとこは、ひまだけどよ・・・・。
俺だって、仕事してる時はあるんだぜ。
え?まあ・・・・たいていはひまだけどよ・・・・・。
おお?あー・・・・。
いや、行くけどよ。
とにかくまあ、フランシスからの救援要請なんてめずらしいから行ってやるけどよ。
ああ?なんだって?携帯鳴ってる?お前の携帯?
おお!フランシスからかよ!
ちょっと待て。聞こえねえ・・・。
携帯もっと電話に近付けろよ・・・・いいぜ、はっきり聞こえる。
よお!ひげ!おとなしくしてやがるか・・・?
はあっ?ディジョンに行きたい?!今すぐ?!
しかも、病院から抜け出せないから、俺らが行き次第脱走するだと?
へっ!!
面白いじゃねえか!!
久しぶりに腕がなるぜ!
小鳥のように華麗に俺様が脱走させてやろうじゃねえか!!」

ア「えー?脱走なんておおげさやん。
そんなん、さらっとぬけだせばいいんよ!
見舞いに行って、そのまんま、俺とギルちゃんで、フランを車いすに乗せてさらっと病院出ていけばいいんよ。」

ギ「えっ?そんなん、なんの作戦もいらねーじゃねえか!
つまんねーよ!!」

ア「ギルちゃん、こういうんは自然体が一番なんよ。
まるで、ちょっと病室抜け出してカフェ行くみたいに、さらっとなあ?」