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チョコレイト・デイズ

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「俺はもう限界だ!!」

 ロンは月曜日にして、今週六度目の叫び声をあげた。
「今度こそっ、絶・対・にっ! やめてやる!!」
 鼻息も荒く、走るような速さで歩いて行くロンに追いつくのは、大量の教科書を抱えたハーマイオニーやハリーにとって並大抵のことではない。
 ロンが「やめてやるっ」と息巻いているのは魔法薬学だ。あのインチキ占い学より数倍・・・数十倍・・・・・・数千倍は性質が悪い。
 あんなもの、あんなもの・・・っ!! あ・ん・な・も・のっ。
 俺がダンブルドアだったら間違いなく、絶対、確実に、そっこーでアイツをクビにしてやる。
 ロンはホンットーに頭にきていた。神経の一本や二本、とうの昔にぶち切れている。燃えるような赤毛がロンの怒りをここぞとばかりに現しているかのようだった。
「ロン、待って。いつものことじゃないの、いちいち腹を立ててたらキリがないわ」
「そうだよ。スネイプがイジクソ悪いのは承知のことだろ」
 マントを翻して脇目もふらず歩いていたロンがピタリと止まって振り返ったので、二人は勢い余って次々にロンにぶつかった。
「アイタッ! あん、もう! ちょっと! ハリー、髪の毛がボタンにからまったわっ」
「えっ? あっ、ごめん。ロン、いきなり止まるなよ」
 慌ててハーマイオニーの髪のからまりを取ろうとしても、どうなっているのかなかなか取れない。次第にイライラしてきたハリーにハーマイオニーが次々と文句を言うものだから、ますますハリーの手は言うことをきかず、からまりはさらにこんがらがって解けそうになかった。
「ハーマイオニー、いっそのことショーットカットにしたら?」
「バカ言わないで! 今伸ばしてるんだから絶対イヤ!!」
「髪なんて、いつでも伸びるよ」
「そんなんだから、デリカシーがないって言われるのよ」
「そんな話、したことないじゃんか」
「もうっ、なんでもいいから早く取ってよ」
 ロンをほうって、廊下の真ん中で二人はギャーギャー言い合いを始めた。「ばかっ」やら、「ブスッ」やら、「役立たずっ」やら、「減らず口っ」やら、すでに最初の問題からかけ離れた低レベルな言い争いへと発展しつつある。
「何やってるわけ? バカじゃないの」
 見苦しい争いについにロンが口を挟み、さっさと髪のからまりをとってしまった。
「もとはと言えば、あなたがものすごく怒ってたからいけないんじゃないの」
 乱れた髪を直しながらのハーマイオニーの意見にハリーも大きく頷き、ロンに非難の視線を送る。この頃ロンをわずかでも見上げなければならないのはちょっと悔しい。
 次の授業は変身学だ。遅れるわけにはいかず、三人は並んで歩き出した。マクゴナガルはいつもうるさいけれど、遅刻には病的なほどにうるさい。
「ロン、スネイプのことで怒るのはエネルギーの無駄だと思うよ」
 実際ハリーはすっかり諦めていた。スネイプはグリフィンドール生が何をしても気にいらないのだ。それなら、イラだったところで良いことはない。癪なことだけれどスネイプはまがりなりにも「先生」だったから、せいぜい寮の減点をこれ以上自分で稼がないことを目標に付き合っていくしかない。はてしなく低い目標だ。
 ハリーこそ、やめられるものなら魔法薬学を辞めたかった。ロンもハーマイオニーも、さらにはグリフィンドール生全員がスネイプと相性が悪かったが、ハリーほど相性が悪いとは思っていなかったし、実はロンだってそう思っていた。
「誰もあなたがわざと鍋に二枚舌草を入れたと思ってないわ」
 慰めるようにハーマイオニーはロンの背中を優しく叩き、顔を覗き込んだ。
「そうだよ。スネイプは何かあると僕たちのせいにできるのが嬉しくて仕方ないんだ」
 まったく悪趣味だよ、小さな声でハリーはブツブツ言った。下手に大きな声で言って、「我輩のことで何か?」と、あのイジクソ悪い声が背後から聞こえるのはごめんだ。いつもいつも、いて欲しくないところで登場するのがスネイプなのだった。
「なーにが、『我輩』だっての」
 どんなときでも上から下まで黒い服のスネイプは肩まで届く髪の毛も真っ黒で、おまけに瞳の色まで真っ黒だ。ついでに腹黒で、性格もブラック、モノクロ世界の住人で、陰険で、根暗に決まっているし、およそいいところが見つからない。
「でも笑えたわね。スネイプにあの二枚舌草ったら」
 クククッと口に手を当てて笑った拍子に、ハーマイオニーの髪がさらさらと肩から胸元に揺れるように流れた。ハーマイオニーの波打つ栗毛は実はハリーやロンのお気に入りだ。ショーットカットにしたらなんて言ったハリーも、本当に切ろうとしたらロンと一緒にハーマイオニーを必死で止めただろう。こういうとき、二人はハーマイオニーが女の子だということをふっと意識するのだった。
「二枚舌草って、ちょっと頭が弱いのね。おかしいったら」
「スネイプにはちょうどいいよ。いつもいつも僕らだけがバカにされてるなんて割りにあわないし」
「ロン、こんなこと言ったら気を悪くするかもしれないけど、私はあんなスネイプの顔を見られて大満足よ」
「僕だってそうさ。怒られた君には悪いけどスネイプにはうんざりだもの」
 無言で怒っているロンに、二人は口々に慰めとも激励とも受け取れる言葉を投げかける。
 そんな二人に慰められて、ロンはため息をついた。スネイプに嫌われていることにかけては三人の右に出る者はいないというおかしな自負が、友情の一翼を担っていることは間違いない。
「二枚舌草って俺の心が読めるみたいにスネイプの悪口を言ってたんだぜ? ネビルなんかスネイプに聞こえるってほとんど半泣きだったんだ」
「しょうがないよ。ネビルも相当ひどい目にあってるもん。うわっ!! あと一分だ、急げ」
 何気なく時計を見て、ハリーは慌てて走り出した。ばたばたと走る三組の足音がいつの間にか静かになりつつある廊下に響く。
「勝手に二枚舌草が鍋にダイブしたんだ。スネイプだって知ってただろうにさぁっ」
「そんなこと関係ないのよ。私たちが何かやらかさないか見張ってるんだものっ」
「でも、でもさ、二枚舌草、いいこと言ったよ。そうっ、」
「オタンコナスッ」
 三人は走りながら声をそろえて言い、顔を見合わせて笑った。思い出すと笑いが止まらない。
「なんでオタンコナスなんて言ったのかしら」
「オタンコナスなんて、いつの言葉だよ」
「あの顔傑作だったよね」
 スネイプは見たこともないようなあっけに取られた顔を数秒間グリフィンドール生に見せたが、すぐに嫌味を散りばめた小言を次々とロンの頭の上から滝のように降らせたのだった。おまけに二十点も減点され、八つ当たりに違いなかったがキッと睨んでネビルを震え上がらせた。
「今年のグリフィンドール流行語大賞は‘オタンコナス’に決まりだ」
 ハリーが満面の笑顔で言い、ロンが大きく頷いて、ハーマイオニーが声を上げて笑ったとき、三人は目の前で腕を組んだスネイプが仁王立ちしているのに気づいたのだった。
「これは、これは」
 立ち止まった三人にスネイプは普段の無表情が嘘のように不気味なまでのにこやかさをまとい、今にももみ手をしそうな勢いで声をかけた。
「次の授業はなんだね?」
「・・・変身学です」
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける