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【aria二次】その、希望への路は

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12.たどり着いた希望の丘



 晃たちのゴンドラは、最初の水上エレベータにたどり着いた。
「アリアカンパニーのゴンドラが通りませんでしたか?」
 アテナの問いかけに、水門守の老人が嬉しげな返事を返す。
「30分ほど前に通っていったぞ。この歳になってグランマの制服姿を拝めるたぁ、長生きはするモンだなぁ!」
「他に、誰か乗ってませんでしたか?」
 念のため藍華が尋ねる。
「おぅ、スノーホワイトからアクアマリンから。いったい何がおっぱじまるてぇんだい?」
 水門守の老人にはぼかした返事を返しておき、4人は顔をつき合わせるようにして、密談モードに入った。

「3人乗りだなんて! アイちゃん合わせたら4人分の重さよ!?」
「シングルの昇格試験なのに!」
 口々に憤慨してみせる藍華とアリスを、晃がなだめた。
「グランマとアリシアが、無理やりゴンドラに乗り込んだとは思えん。便乗することには、アイちゃんは一応同意したはずだ」
「でも …… 」
 納得しかねる様子のアリスに、アテナが言った。
「大丈夫。この間のゴンドラの沈み込み具合は、4人分だなんて生やさしいものじゃなかったから」
 でも、荷物運びと昇格試験は違う、と言おうとしたアリスに、アテナが再び言い添えた。
「大丈夫よ」

 アリスは思った。なんで、アテナさんはこんな時にも平気なんだろう、と。だが、物静かに微笑むアテナの様子を見て、アリスは悟った。
 アテナさんは、アイちゃんのことを信じてるんだ。だから、普通の試験ならありえないような、過酷な条件で漕いでいるアイちゃんが大丈夫だ、と安心できるんだ。
「わかりました」
 食い下がるのをやめたアリスが返事したのを見て、晃が言う。
「とりあえず、アリスちゃんと藍華が普通に漕いでれば、アイちゃんに追いつけるだろう」
 うなずく他の3人に、晃は付け加えた。
「前をよく見て、近づきすぎないように気をつけよう。頂上に着くまでは、私たちが付いてきてる事は、知られたくないからな」

 高架水路には、それなりに船やゴンドラの行き来があった。藍華とアリスは、なるべくロスタイムを出さないようにゴンドラを漕ぐ。晃とアテナは、追いついてしまわないように、前方を注視していた。だが、一向に追いつく気配がない。とうとう、次の水上エレベータにまで到達してしまった。
 もしかして、途中でリタイアしているのを、見過ごしてしまったのだろうか? 不安を胸に晃が尋ねる。
「アリアカンパニーの舟が通らなかったですか?」
 ここの水門守も、気さくに答えた。
「おぉ、見た見た。グランマやらスノーホワイトやらがウンディーネ姿で、一体全体、何の騒ぎだい?」
「どのくらい前に通ったんでしょうか?」
 気が気でない様子で、アリスが聞いた。
「そうさなぁ、30分ぐらい前かなぁ」
 4人は顔を見合わせた。

「つまり、アイちゃんは3人乗せのゴンドラを規定速度いっぱいで漕いでるわけ?」
「しかも、狭い水路でのすれちがいをかわしながら?」
 藍華とアリスが、信じられないという表情で語る。アテナは、うれしげに微笑みながら黙っている。晃は、考え込む表情だ。
 藍華は、そんな晃を見ると、はっ とした様子で手を打った。
「もしかしたら、逆なのかもしれない!」
 説明を求める表情の3人に、藍華は語った。
「私たちがアイちゃんに追いつけないのは、晃さんの体重が、アリシアさんとグランマと灯里とアリア社長を足した重さと等しいからなのかも!」
「人が気にしてる事言うなー!!」
 晃の鉄拳が藍華に飛ぶ。
「もしそうなら、アテナの体重も3人+1匹分になるだろうがー!!」
「あ、確かにそうなりますね。すみません、アテナさん」
 晃の指摘に、きゃいきゃいと笑って喜ぶアテナに、藍華が謝った。
「私にもあやまれー!!」

 アイのゴンドラは、とうとう最後の水上エレベータにまでやってきた。水上エレベータに入るときの注意、その仕組みやなりたち、ネオヴェネツィア市民の暮らしとの関わり、などなど、多くの話題をアイは語った。だが、もう話のタネは尽きたように思える。
 水路を航行している時には、変化する景色に話のきっかけを求める事もできるのだが、水上エレベータの中ではそれも無理だ。実際のクルーズなら、お客さま自身のことに話題を振って、間を持たせる。だけど、アイちゃんが、グランマやアリシアさん相手に、そんなことができる、とは思えない。
 灯里は心配で不安で、だけど、どことなく楽しみな気分を胸に、最後のエレベータを待ち受けた。
 水門が閉じ、水が注ぎ込まれ始めた水上エレベータの中で、アイは言う。
「これより、舟謳を歌わせていただきます」
 灯里は内心で快哉を叫んだ。ああ、その手があったか、と。アイの舟謳はまだまだ稚拙ではあった。だけど、乗客の3人をもてなそう、という心意気だけは、しっかりと伝わる。
 そして、グランマとアリシアの二人は、黙ってアイの舟謳を聞いていた。

 藍華とアリスのゴンドラは、とうとう、時間差を縮めることができないまま、最後の水上エレベータにまでやってきた。
「ふわぁ」
 ため息をついて座り込んだアリスに、アテナが声を掛けた。
「アリスちゃん、ここを抜けたら、私が漕ぐわ。アイちゃんを見つけたら、ゴンドラを置いてアイちゃんの所に走るのよ。先に行って事情を聞いてあげて。私よりアリスちゃんのが弁が立つし」
 ここまで来て、先輩にゴンドラを漕がせる事にためらいを見せるアリスに、晃も言葉を添える。
「アテナの判断は正しいと思うぞ。おい、藍華、お前も私と漕ぎを代われ。お前の方が事情に詳しいだろう。ゴンドラを舫ったら、私とアテナもお前たちの後を追うから」

 アイのゴンドラは、希望の丘の頂上に到達した。
 グランマの指示に従い、桟橋にゴンドラを舫い、陸上に上がる。海からの風に、ゆるやかに回る風車の下で、グランマはアイと向き合った。立ち会うように、アリシアと灯里が並ぶ。やがて、グランマが口を開いた。
「アイちゃん。あなた、一人で風車の丘まで来てたでしょう?」
「はい。申し訳ありませんでした」
 アイは素直に認めて、頭を下げる。
 あぁ。認めてしまった。グランマは、心の中で絶望の声を上げた。今、この時だけは、シラを切ってくれれば良かったのに!