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B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

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#10.零を背負う者【BR】



 阿散井が息を呑む。
 阿散井だけではない。他の副隊長や隊長らまで言葉を失っているようだった。

「お、おい、どういう事だよ? 護廷十三隊は一から十三だろ? 零って何だよ?」
「零番隊―――尸魂界とは違う、霊王の御座(おわ)せられる霊界を守護する、護廷十三隊よりも上の組織、またの名を王属特務」

 説明を求めて首を巡らせる一護に、ルキアが、零を背負う男から目を離すことなく応える。

「隊長格から零番隊へ昇進することもあると聞くが、つまりは隊長格以上でなければ所属出来ないということだ」
「実力は、確実に護廷十三隊隊長よりも上だぜ」

 ルキアに阿散井が続ける。

「隊長より上って……」

 そこで、一護は日番谷を見る。今は抑えられているが、彼が限定解除した際に室内を満たした霊圧。あれは、確実に、この中のどの隊長よりも上だった。そして、彼の身体に浮かび上がって散った限定霊印。あの紋様は、額に炎を灯す男の左肩にあるものと同じではなかっただろうか。

「冬獅郎は、あいつと知り合いなんだよな? っつーことは、まさか、冬獅郎って……」
「まぁ、そういう事だ」

 日番谷はひょい、と肩を竦めて見せた。

「王属特務は尸魂界よりも上位世界である霊界における戦闘部隊。尸魂界の最高司法機関よりも上位というわけだ」
「霊王の認状もある」
「ああ、もらえたんスね。じゃあ、要望通ったんスか?」
「ああ。禁踏区域への侵入許可に、中央四十六室の処刑の許可も下りた」
「中央四十六室の、処刑、だと?」

 日番谷たちの言葉を、砕蜂が信じられない思いで繰り返した。
 これまでに、中央四十六室の処刑など行われた事などない。そもそも、尸魂界の事に霊界が首を突っ込んできたのも、今回が初めてである。

「隊長、どういう事なんです?」

 松本が説明を求めた。それは、この場に居る全員を代表するものだっただろう。
 日番谷は、以前よりも近くなった松本の顔を見上げる。

「中央四十六室が、半年程前から様子がおかしいって事には、皆気付いてただろ?」

 それに、首肯する者が数人。

「尸魂界に居る者には、中央四十六室に手を出すことは出来ねぇ。探ろうにも探れなかった。だから、霊界の方で調査するように頼んだんだ。上層部のジジイどもはぶつくさ文句垂らしていたが、尸魂界の崩壊は霊界にも悪影響が及ぶっつってちょっと脅したら、我が身かわいさに許可が下りてな。こっそり、中央四十六室を調査させてもらった。まぁ、実際に調査したのは俺じゃないけどな」
「その結果が、これだ。―――日番谷」
「はい」

 零を背負う男から書類が日番谷に渡され、それを日番谷は元柳斎の元へと運ぶ。
 元柳斎はそれに目を通し、

「これは―――」

 短く唸った。

「先生、一体何が書かれているのですか?」

 言葉を失くす元柳斎に、浮竹が問う。
 ス、と藍染が進み出て手を伸ばせば、書類は元柳斎から藍染へと移った。それを、隊長や副隊長たちが囲み、目を通す。

「そんな……っ!!」
「こいつは、また……」

 まいったね、と京楽は重く息を吐く。

「あらま、こいつは大変」

 変わらず軽い調子で市丸が。

「僕ら、虚に懐に入り込まれた上に踊らされとったっちゅうことですか」

 書類を見て居ない者は、一斉に顔を青くした。
 足下から何かが崩れさるのを感じる。
 ガックリと膝をついたのは吉良だった。

「虚、だって……? そんな、まさか……」
「中央四十六室が、虚……」

 吉良の声も、雛森の声も、絶望に震えている。

「正確には、人型を取れる特殊虚と、大虚の中でも最上級に当たるヴァストローデだ。こいつらは、特殊虚の方みたいだがな」

 翡翠の瞳をすっと細め、日番谷は氷が捕える男たちを眇めた。

「―――中央四十六室として呼び出した死神を、どうした?」

 はっ、と誰かが息を呑んだのが聞こえた。
 三十人。ここ半年程の間に中央四十六室に呼び出されたまま帰って来ていない席官の人数だ。
 彼らはどこへ行ったのか。
 彼らを呼び出した中央四十六室が、その実、虚であったということは―――最悪の事態しか、考えられなかった。

「くっ……、くっくっくっ……はーっはっはっはっ!!」

 翡翠に捉えられた男が、声高に笑い出す。
 呼応するように次々と上がる狂気すら感じられる笑い声に、死神たちの眉が不快そうに顰められた。

「あれは楽しかったなぁ。死神共が泣き叫んで俺たちに命乞いするんだぜ? 指一本飛んだくらいで馬鹿みたいに叫びやがって。おかしいったらねぇ」
「最初は指を一本ずつ。次に足。次に腕」
「ああ、そう言えば。一人、自分の隊長の名前を呼びながら死んでいった奴が居たなぁ」
「居た居た。日番谷隊長って言ってたなぁ」
「そうだ、そうだ。隊長の名前なんか出て来たのは初めてだったからなぁ。求めて止まない隊長殿も同じ場所に送ってやろうと虚圏に突っ込んでやったんだ」
「くっくっくっ、日番谷冬獅郎。つまり、お前が瀞霊廷を追放されたのは部下のせいってわけだ」

 きゅっと口を引き結び、松本は俯いた。自分の左腕に添えた右手の指先に力が入る。
 十番隊から中央四十六室に呼び出されたのは二人。うち、日番谷が瀞霊廷を追放される前に呼び出された者と言えば、一人しか居ない。
 桐沼。
 あの日、「行って来ます」と言って出て行った背中。彼が「ただいま」と言う事は、終に無く。
 松本の身を、耐えきれない怒りが焼く。

「この―――っ!!」

 腰に帯びた斬魄刀、灰猫を素早く握り込み、踏み込もうと一歩足を踏み出した。
 しかし、抜刀されるよりも早く動いた者が居た。
 日番谷だ。
 彼は元柳斎の元から何時の間にか離れ、松本の横を通り、王属特務の男の横を抜け、桐沼に対してか日番谷に対してかわからない嘲笑を浮かべる男―――否、虚の前に立った。

「何なら、もっと詳しく教えてやろうか? お前の部下の、情けねぇ最―――」

 それは、何かが破裂したような音に似ていた。