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「横島さんっ!!僕、あなたが好きなんですっ!!」
「…え゛?」
 タマモの友達という事でちょくちょく事務所に遊びに来るようになっていた少年、真友康則にそんな告白をされたのは、会ってから少し経った頃の事だった。
 どうやら除霊の時の仕事姿を見たらしく。元々子供に好かれる傾向の見られる横島の事、懐かれていた事もあり、家に遊びに来た時にこれである。
「…えっと、あー…サンキュな?」
 GSの仕事は、少年にとっては格好良く映るのだろうと。憧れの延長上のものかな?と判断し、困りながらも礼を言い、頭を撫でた。
 だが、真友は不満気に黙りこくっている。
「…真友?」
「…横島さん…!!」
「…ん?」
「僕、そーゆーんじゃなくて、本当に横島さんの事っ…!!」
 必死に言い募ってくる真友に、横島は困りながら、ほだされそうになってしまう己を自覚し、呆れていた。
(…そりゃーこーゆー風に真正面から告白されるのは嬉しいが、相手はガキだぞ!?しかも男だ!!!…ほだされてどーするっ!?…そんなんここで受けちまったらこいつの将来にも悪影響が…しかしこいつを傷つけんよーに断るにはどーすれば…)
 心の中でどう断ればいいものかと考え込み、悩んでいる横島を強く睨み。
「横島さんっ!!」
「うわっ!?」
 勢い良く押し倒して──

   がちゅっ!!

 …間。
「「………っつぅ~………」」
 二人して、口を押さえて呻いた。…歯が当たったらしい。
「ひてて…あにすんだよ…」
「ふ、ふいまひぇん…」
 口を抑えながら涙目で謝ってくる真友に、身体を起こしながら力無く苦笑して。
「…お前って、俺とこーゆー事したいの?」
「…え、と…多分…」
「んー…そっか」
 少し考えて、溜息を一つ。
「…んと、じゃあな?」
「…はい」
 ひょい、と真友の顔を覗き込んで、
「…ちょっと目ェ閉じてな」
「?…は、はい…」
 至近距離にある顔に、思わず顔を赤らめつつ。
 戸惑いながらも、横島の言った通りに目を閉じる。
(うーん…素直だなぁ)
 この隙に逃げたりしたら傷つくだろーなー、とか、苦笑と共に思いながら、頬を手で包み込む様にして固定し──
「んっ…!?」
 優しく、柔らかく、唇を合わせた。
「…あ、コラ、目ェ閉じてろって言ったろ?」
「…えっあっ…す、すいませんっ!!」
 驚きに目を見開いていた真友に咎める様に声を掛けると、わたわた慌てつつ謝ってくる。
 その様子に、少々微笑ましい笑みを零し。
「…とりあえず、今はこんだけだ!!…あとは、大きくなってからな。…そん時まだ俺の事好きだってんなら、考えてやるよ」
「…!!ほっ、本当ですか!?…いつになったら…ですか!?」
「えっ…?えーと…五年後…くらい、かな?」
「解りましたっ!!それまで、頑張って横島さんが僕の事好きになってくれるよーな男になりますからっ!!」
「えっ…。あ、えーと…が、頑張ってな?」
「はいっ!!」
 戸惑い気味、そして困惑気味な横島の言葉に、真友はこれ以上無いくらいの良い──迷いの全く無い笑顔で返事をした。
(…うあ。マジでほだされそうだ…)
 そして横島は、その笑顔を見てそんな呻きを心の中で漏らしてしまうのだった。



 ………………──────
『…横島さん、あれから…あの日から五年です。…僕の事…好きになってくれますか?』
 至近距離で迫る。
 その顔は真剣で、本気。
『…ま…真友…あ、あのな、でも…。俺なんかよりもっと他にいるんじゃないのか?お前、結構モテてるみたいだし…』
 たじたじになりつつ、困った様な笑みを浮かべながら逃げ道探し。
 だが逃げられる筈は無く。
『…僕が好きなのは…あの日からずっと…横島さんだけです…!!』
『…真友…』
『だから…ください、横島さん…貴方が欲しいです…!!』
『んんっ…!!』
 五年前より大きくなり、伸びた手に、腕に捕らわれ、口付けられる。
 あの時の様な勢いは無く、穏やかに。
 しかしあの日よりも情熱を増した、それ。
『まっ…真友っ…』
『…康則って…呼んで下さい…』
『…康則…』
『好きです…横島さん…!!』
『…ん…俺…も…』
『…良かった…』
 そうして、また唇が、深く、深く、重なった──────………………



 カーテンの隙間から漏れる朝日の光と。
 小鳥達のさえずりに目を覚ます。
 …随分とリアルな夢だった。
 本当に、まるで現実の様な。
「…まさか、予知夢じゃねぇよな…?」
 汗ジトでそう呟き、溜息をつきながら身を起こす。
 そして、隣で安らかな寝息を立てて眠る少年──真友に目を移し。
 …また、溜息を吐いた。
 あの告白の後、なんだかんだと泊まる事になり。
 一緒の布団で、今まで眠っていたのである。
 勿論、いかがわしい事はしていない。…キスはされたが。
「やれやれ…」
 確かにかわいい、いい子だとは思う。思うが──それ以上の感情になるかどうかは、まだ解らない。
 …というか、そうなってはマズイだろうと横島は考えている。考えてはいるが…。
「…そうなりそうで怖ェなぁ…」
 思わずそんな事を呟いてしまう横島である。

 …まぁ、とにもかくにも。
 その夢が正夢になるかどうかは、真友君の頑張り次第という事で。
 五年後をお楽しみに、という所だろう。



 ところで。
 美神除霊事務所の屋根裏部屋にて。
「や~ら~れ~た~!!」
 ごろごろと部屋中を転げ回る九尾の狐がいたりしたのだが…まぁ、余談である。



 そしてこちらも余談だが。
「…年下攻っ…!!!」
「いかんっ!!流石に現時点での小学生には手は出せんっ…!!」
「ヤバイですよぉっ!!横島さん、ただでさえ女性と子供には優しいのにー!!」
「…その前に横っちオトすしかあらへんなー」
「…いや、だからね…私の教会でそういう話は…ってゆーか、何で皆して予知夢(?)見てるんだい…GSでもない銀一君まで…」
「横っちの事ですからv」
 爽やかに銀一。
「あーそう…」
 力無く神父。
 深く考える事はやめた様である。
 そして。
「…誰が勝つんだろーねー…」
 横島の未来に幸あらん事を祈りつつ、遠い目をしながら呟く神父だった。



 更に。
「…ガキなんかに負けてたまるもんですかっ…!!」
「…せんせぇ…何処まで虜を増やすおつもりですか…」
「…タマモちゃん…真友君とくっついて…お願い…!!」
 闘志を燃やす某守銭奴やら、トホホな感じの某人狼の娘やら、諦め入りつつも祈る某元幽霊の娘やらがいたりするのだが──やっぱり余談である。



 ──で。
「僕、頑張りますからねっ!!」

   ちゅっ♪

「あ、あう~…」
 会った時と家に帰る際、必ず唇を奪う様になっていたりする真友。
 それに対して防御も拒絶も出来ず困りながら頬を染める横島。
 そんな光景が、腹立たしくも当たり前のものと周囲に認識されてしまう日は、多分そう遠くない。