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認識は周囲から

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 熱──頭はぼやけるわ、息は苦しいわ…ロクなモンじゃない。

(ここんとこ無理しとったからなぁ…)
 体調管理も出来ない教師など、手本にもならない。
 結局ただの人間なのだから、仕方無いと言ってしまえばそれまでなのだろうが。
 …まぁ、理事長から娘、冥子の事で色々愚痴られたり、その修行やら特訓やらに付き合わされたりと、仕事の忙しさだけではないストレスもあったりした訳で。
 ともあれ、今は休息を取るべきだろう。
 うだうだ考えているより早く治した方が良い。
 そんな訳で、布団に入って横になっている現在。
「………何で横島がおんねん………」
 その傍らにちょこん、と座っているのは横島忠夫。
 生徒の同僚。その前に一応昔からの知り合いの、霊能関係者。
 深い付き合いをする様になったのは大戦後で、彼の色々を知るにつれ、保護者役に落ち着いている訳だが。
「何でって…いつも世話になってんだし、こんくらいしねーと…」
 言いながら、額に乗せられていたタオルを取り、横に置いてある洗面器の水に浸して冷たさを戻してから絞り、また額の上に。
 やたらと甲斐甲斐しく見えるのは気の所為か。
 世話になっていると言ってはいるが、鬼道からしてみれば、大した事はしていない。
 せいぜい話し相手。愚痴を聞いてやったり、貧困に喘ぐ横島にたまに飯を奢ってやったりしているぐらいなもので。
 だから、此処に横島がいる事が、純粋に疑問だったりするのだが。
 熱に回らない頭のまま、ぼうっと横島を見ていると、目の先の顔が少し困った様に微笑む。
「………具合い、どーだ?」
「………さっきよりええよ。………けど、横島も色々忙しいやろ?」
「だからいーって!!ったく…いつも他の奴の事ばっか気にして、自分の事はけっこー雑だもんなー鬼道は………」
 溜息と共に横島。
 そう言われると、鬼道も苦笑しか出ないが。
「…で、何か食えるか?薬飲むにはどーしても何か食わねーとなぁ…。あ、リンゴすり下ろしてみっか?」
「ん…いや、ボクは…」
「駄目だぜー?何か食わないと…。腹、減ってねぇ?」
「………ん~…あんまり…」
「そっかぁ…。んじゃ、少し眠れんなら眠って…起きたら、そだなぁ…まぁ、何か用意しとくから。…眠れるか?」
「…ん…多分…」
 聞かれるまでもなく、先程から睡魔は襲ってきていたりする。
 声にも常時の力が無く、瞼も降りそうになっているし。
 そんな鬼道に苦笑を一つ零して、
「そっか。じゃ、おやすみ、な?」
「ん………すまんな………」
「いーってば」
 優しい微苦笑。
 細かく見てみれば、柔らかく細められた瞳と、緩やかに弧を描く口元。
 眠りに落ちる寸前に見たそれは、どうにもあたたかくて…心地好かった。





 ──起きて。確かに、ぼ~っとしてたけど、さぁ…。何で、こんな事になってんの?

 すうすうと、耳に届く安定した寝息は下から。
 と言うか、己の膝の上から。
(………膝枕って………)
 むくり、と起きて。
 こっち向いて。
 何も言わず、抱きついてきて。
 すりすり甘えるみたいにして…その内眠い、とか言い出して…こんな状態。
「………寝ぼけすぎ~………」
 苦笑が漏れる。
 しかし嫌悪も戸惑いも、悪感情の欠片も何も無く。
 絶対覚えてねーよなぁ、とか思いつつ、頭を撫でる。
 …いつもがいつも。
 子供扱いで、甘やかしてもらっているから。
 たまにはこんなのもいーかな、とか思って。
(………甘えられんの、ちょっとうれしーかも…。いつも世話掛けてるもんなぁ………)
 手つきは、できるだけ優しく。
 髪を梳いて、少しでも眠りが良いものになる様に。
 鬼道は大した事はしていないと言うが、こちらにしてみれば充分すぎる程に甘やかされていると思う。
 大戦の事を知り、同情もあったのかもしれないが、それでも本人の保護者気質の賜物というか。普通に、自然に、優しくて。
 子供扱いされるのは何となく悔しいし、気恥ずかしさだってあるけれど。
 だけどその優しさと温かさは、本当に得難いものだと解っているから。
 …知っているから。
 与えられるそれらに縋る己を自覚しながらも、止められない。
 だから、少しでも返せれば、と。
 そう思いつつ部屋まで上がり込んだ訳だが、結局自己満足だよなぁ、と自嘲しながらもそれを呑み込んで。
 鬼道の様子をそっ、と窺ってみる。
(………呼吸も落ち着いたし…もう大丈夫そうだなー………)
 不謹慎だとは思うが、それはそれで残念な気もしつつ。
 少しずり落ちている毛布を、鬼道に掛け直した。
 そんな横島の、鬼道を見詰める瞳が、随分と優しい事に。
 鬼道も、横島本人さえ。
 いつ気付くのかは解らない。





 因みに、起きて、自分のした事に気付いた鬼道がぐっはぁぁ!!!とか叫びつつ、頭を抱えて恥ずかしさやら情けなさに悶絶したり。
 その様子を困った様な苦笑と共に、何故か顔を赤くしながら見ている横島がいたりするのだが──まぁ、ともあれ。

「別にいーじゃん、いつも世話になってんだから。たまには甘やかされろって♪」
「………うぐぅぅ………」

 漂う空気は、優しかった。





 そんでもって。
「………身体は拭いてもろたけど…頭洗っとらんから、汚いで?」
「病人なんだから当たり前だろ?気にすんなって♪」

   なでなでなで♪

「………ううぅぅぅ………」
 いつものお返しのつもりなのか単に気に入ったのか、それともその両方なのか。
 熱のせいではなく、気恥ずかしさの為に顔を赤くして呻く鬼道と。
 それに構わず鬼道を膝枕して、頭撫でつつご機嫌な横島が。
 外でもヘロッとこんな雰囲気を撒き散らし。
 無自覚なバカップル…もしくは夫婦と周囲に認識されてしまうまで、もう暫く。




 …そして、その事で二人がお互いを意識し合い、なるよーになるまで、あとちょっと。



作品名:認識は周囲から 作家名:柳野 雫