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フォルカ詰め合わせ(スパロボ)

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072 殺したい

「つまらん男になったものだ」
 フェルナンドが憎々しくそう吐き捨ててもフォルカは表情を変えない。ただ一瞥をよこしたのみで、視線はすぐに乾いた青を広げる空へと戻される。修羅神ヤルダバオトの掌に寝転ぶ無防備なその姿を、同じく修羅神ビレフォールの掌に仁王立ちするフェルナンドは苦々しく見下ろした。頬をぶつ風はぬるいが埃っぽい。
「つまらなかろうがなんだろうが、興味はない」
「ああ、おまえはそれで構わんのだろうよ。だが俺はそうはいかん」
 かつてはフォルカを義兄と慕い、友として肩を抱き合ったこともある。今となっては苦いばかりのその過去に、フェルナンドは屈辱と名づけた。思い出すだけで臓腑が煮える。
「よくものうのうと俺の前に顔を出せる」
「鍛錬の相手になる者がおまえしかいない。おまえもそうだろう」
 それは確かにそのとおりで、フォルカのただ事実を告げるだけで感情のこもらない声に言い返せるだけのものをフェルナンドはもたなかった。きつく眉間に皺を寄せるもフォルカは構わず顔を背ける。
 もともと口数の多いほうではなく、何を考えているのかわからないことのある男だったが、今のフォルカはフェルナンドの理解の範疇を超えて気味悪く感じるほどだ。誉れ高い羅国将軍職への道を自ら閉ざし、修羅の者にとっては絶対である弱肉強食の掟をないがしろにする。フォルカを指さして腑抜けと呼ばわる者は多く、彼とフェルナンドの義兄であるアルティス将軍の立場もその一事で揺らいだ時期があったという。
 フォルカひとりの起こした事件のせいで羅国全体が騒然となったのだ。それだけのことを、のんきに空など眺めているこの男はしでかした。
「俺は認めんからな」
 短くそれだけを吐き捨てる。
 両肘で上体を起こしたフォルカは、表情険しくビレフォールの掌上に立つフェルナンドを見上げる暗いまなざしの奥に反論を押し殺しているようだった。
 言いたいことがあるのなら言えばいい。強者は、勝者は、フォルカなのだ。強者の言は絶対であり、修羅王が赤といえば白でも赤になる。そういう世界に共に生きてきたはずなのだ。その頃の強い意志に輝く翡色の双眸、それに惹かれてフェルナンドは彼と義兄弟の契りを交わした。
「……貴様を、俺は絶対に認めん」
 かつての義兄、かつての友を、フェルナンドは憎悪でもって拒絶する。

 
069 自分の意志

 義弟は自室の片隅で膝を抱えていた。まだ歳若いフォルカにはおかしくもない仕草なのだが、彼を知りぬくアルティスとしては苦笑をこぼすしかない。
 後ろ手に扉を閉め、家具の少ない部屋でいつものように寝台に腰かけた。赤髪の頭がのろのろと持ち上がるのを待って、更に苦笑を深くする。常には強い光を宿す眼が濁って暗かった。
「やってくれたな、フォルカ。議会はおまえの話で持ちきりだったぞ」
「……フェルナンドは」
「無論生きている。勝者はおまえだ、その決定はたとえ修羅王であっても覆すことはできぬ」
 アルティスの言葉でフォルカの体は僅かに弛緩する。
 己への罰よりも先に義弟であり親友でもある男の身を案じるのはいかにもフォルカらしかったが、今回はそれを微笑ましく思っている場合ではない。
 双子の修羅神ヤルダバオトとビレフォール、それぞれに選ばれたフォルカとフェルナンドはともにアルティスの義弟である。その力が修羅王に認められ、この度めでたく将軍職にて召し抱えられるための御前仕合を行ったのであるが、そこでフォルカが前代未聞の不承事をおこしてしまったのだった。
 アルティスは苦笑を収め、ゆったりと足を組み直す。
「なぜフェルナンドにとどめを刺さなかった」
「兄さんまで……それを言うのか」
「将軍職に就こうという者が犯していい罪ではない」
 敗者には死あるのみ、それが修羅界の掟だ。まさかそれをわからぬわけではあるまいに、あろうことか王の目の前で掟を破ったフォルカに周囲の者の目は冷たい。
 彼がそうして汚辱に甘んじてまで命を奪わなかったフェルナンドのほうが、よほど修羅の理をわきまえている。今フェルナンドは傷を癒しながら、生き恥を晒す恥辱ととどめを刺さずに仕合場から退がったフォルカに対する憎悪に震えている。
 もはやフェルナンドはフォルカを義兄とも友とも思わぬだろう。だがフォルカはそれでも構わないと安堵を込めた息を吐くのだ。
「俺にはフェルナンドを……友を殺すことなどできない」
「フォルカ。その甘さは修羅の男にふさわしくないな」
「修羅とはなんなんだ、兄さん。……わからなくなった、俺は」
 弱々しくかぶりを振る義弟のために腰を上げ、アルティスも床に直接あぐらをかいた。俯く頭を腕の中に引き寄せても抵抗はなく、簡単に懐に収まる。
 引き締まり、鍛えられてはいるが、いまだ細く成長過程にある体だ。心身ともに未成熟なことに改めて気づいたアルティスは小さく笑い、しかし甘言を囁くことはしない。
「悩むがいい、フォルカ。この兄の与える答えではおまえが真に満足することはあるまい」
 確かにフォルカの思考は修羅にはあるまじき異質であるが、アルティス個人としてはそれを厭うものではなかった。闘争の果てに荒廃しきった修羅界に、あるいはフォルカが一石を投じ波紋を広げ、何かを変化させるかもしれないと期待する。
 修羅界で生きるには甘すぎる義弟が、しかしアルティスの目には好ましく映った。
 できうるならばアルティスと同じ将軍席にフォルカも籍を置いてほしいのだが、今回の件がある程度沈静するまではそれも難しい。そもそもフォルカと同等の力を有する者がフェルナンドしかいない現状、同じことの繰り返しになることさえ考えられる。
 さて、どうしたものか。
 修羅界において王に次ぐ実力者である男、下々からは閃光のアルティスと呼ばれ畏敬の念を浴びる将は、萎れておとなしい義弟の頭を抱えながらひっそりと微苦笑を浮かべる。
「私は、いつかおまえが自身の答えを得るときを待つとしよう」
 うなだれていたフォルカはアルティスを見上げて一瞬もの言いたげに口をひらいたが、結局無言のまま再び床へと視線を落とした。
 
 
032 居場所

 繊細な味の、日本でいうお茶らしきものを啜りながら、ショウコは横目に茶器を片づける男の無骨な手を窺っていた。
 今はどうやら遠く離れてしまっているらしい懐かしい地元、浅草で騒ぎがあれば真っ先に名の挙げられるほど喧嘩の大安売りをしている兄、コウタよりもごつごつしていそうで、指も長くて、爪が深爪かと心配になるくらい短く切りそろえられている。たこができて皮膚の厚くなったてのひらの温度がとても高いのを、浅草からこの城に連れて来られたとき、彼のフォルカという名前よりも先に知った。
「……フォルカもケンカが好きなの?」
「ケンカ? なんだそれは」
 自分のぶんの湯呑みを片手に振り返り、フォルカは不思議そうに眉を寄せる。背の低いテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろす動きが猫のようだ。