【どうぶつの森】さくら珈琲
40.それでも(とまとside)
いきなりなんだけど、あたしの家族の話がしたいの。
あたしの家族は、変わってる。親でも兄弟でもない、あかの他人だ。だけど、気づけば家族になって、かけがえのない存在になった。
あたしは、さくらさんもヴィスくんも大好き。
あと、あのうるさいリクのことも、最近はちょこっとだけ見直してる。
ここ数日、さくらさんとみしらぬネコさんの関係がぎくしゃくしていたのには気づいていた。さくらさんったら、この間なんていきなり出かけて何日も帰ってこなかったんだよ。今まで、そんなことしたことなかったのに。
今日もみしらぬネコさんと不穏な空気……っていうのかな、そういう感じで連れてかれたのも見てた。だから、心配じゃん。
そう思って、様子を見に行こうと思って。
本当は、先に家を出たのはヴィスくんだった。
そんなことないって思いたいのに。さくらさんのこと信用してるのに、なんだか嫌な予感がしてしょうがなかった。
そして、騒ぐリクを置いて家を飛び出してきたわけ。
今思うと、そんなことしなければよかった。
「う、そ……」
口から出た声は、驚きのあまり掠れきっていて、ほとんど音にならなかった。
なんで、なんでなんでなんで!?
ヴィスくんと、毛布をかぶったさくらさんが、その、手、手を、手をつないでいた。
もっとよく見ればさくらさんが泣いてることにも、二人の空気が気まずそうなことにも気づけただろうけど、あたしはとりあえずその手から目が離せない。
「なんで?」
この言葉ばかりずっと頭の中を飛び回っていた。
二人がどんな話をしているか聞こえないから、状況もさっぱりわからない。
だからこそ余計、最悪な状況を想像してしまう。
ヴィスくんは一言二言話すと、何事もなかったかのように去っていった。
ううん、何事もなかったなんて演技だ。
ヴィスくんは無口で、いつもポーカーフェイスを保っているけど人一倍繊細だ。彼に恋をして、あたしはすぐに気づいていた。
今、彼の唇が震えていた。
気づいたらあたしはさくらさんを置いて、ヴィスくんの方に走っていた。
嘘だって言って欲しかった。誤解であってほしかった。
でもあんなところ見せられたら、どれが嘘で誤解だというのか、自分でもわからない。
前から、気づいてた。
ヴィスくんが、さくらさんのことを時々愛しいような、切ないような表情で見ていることに。
特に、さくらさんがみしらぬネコさんと一緒にいるときは。
でも、必死にあたしの思い違いだって考えるようにしてた。
だって、バカみたいじゃん。叶わないのに好きだなんて。
お互いに、バカみたいじゃん。ヴィスくんも、あたしもさ。
「ヴィスくん……っ」
歯がカチカチと鳴って、うまく発音できなかった。
これは、きっと寒さからじゃない。
ヴィスくんは振り返る。
覗き見してたこと、怒るかなと思っていたけれど、彼の表情はほとんど変わらなかった。
「……とまと、早く家に帰らないと風邪ひくよ」
こんなときだってあたしのことを思いやってくれる優しいヴィスくんが、とても愛しくなる。
けれどあたしも、知らないふりできない。
「ねぇ、さっきのって……」
ヴィスくんはすぐに返事をしない。
ただ、目をそらして遠いところを見つめる。
それ以上の言葉が続かない。
前から薄々気づいてたけれど。ねぇ、やっぱり、そうなの?
ヴィスくんは嘘をつかない。お世辞も言わない。いつだって本音しか話さないから、冷たい人って勘違いされる。だけれど、冷たいんじゃなくて誰よりも正直なだけ。本当は人一倍心優しいのだけれど、さくらさんと同じでそれをうまく表現できないだけ。
だから、ヴィスくんはストレートに、こう言ったんだ。
「僕、さくらのことが好きなんだ」
全部、バカなあたしの勘違いだったらいいのにって、思ってたのに。
「で、でもさくらさんにはみしらぬネコさんがいるじゃんっ……」
ひどいことを言っているのはわかっているけれど、少しでも自分に望みがほしかった。
「うん、そうだね。」
ヴィスくんはわかっていると言うようにうなずいた。
目を少し伏せて、悲しそうに言うんだ。
「それでも好きって、おかしいことかな……」
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗