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【どうぶつの森】さくら珈琲

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42.やつあたり(とまとside)


 何も考えずにいっぱい寝たかったのに朝早々リクに起こされた。

「どうしたんだよちんちくりーん! お前まで元気ないのかよー!」

 ほんと、リクって365日、バカみたいに元気。落ち込むってことを知らないのかも。
 でも、昨日寝ずに待ってくれていたのに冷たい態度をとってしまったから、なんとなくそっけなくしづらい。

「もうちょっと寝かせてよぉ……」

 あたしの声はどうやら聞こえてなかったみたいで、平気で部屋に入ってきた。
 相変わらずのデリカシーゼロ! この前は着替え中にいきなりドア開けて「良いもの見たぜ〜」とか騒いでたし! それを思い出したら、優しくする気が一気になくなった。

「なんなのよぉ!」
「ちんちくりん! さくらが元気ないから朝飯つくっぞ!」

 そうだ、さくらさんは昨日「ハトの巣」で倒れかけたって聞いた。
 最近頑張りすぎだと思う。だから、あたしたちで支えてあげなくちゃ。
 ヴィスくんのことを思い出したら、また胸が痛んだけれど今はそんなこと言ってられない。
 リビングにいくとヴィスくんはもう起きていた。
 目の下には黒いクマが出来ていて、それを見て思わずどきっとした。

「ヴィスくん、お、おはよ」

 いつもみたいに元気におはようって言えない。
 ヴィスくんは「……おはよ」と小さく答えた。
 顔が見られないよう、あたしは急いで洗面所まで駆ける。
 さくらさんに元気出してもらわなきゃ。
 元気出たら、きっとヴィスくんも喜ぶよね。
……そう思うと、また胸が痛んだけど。

 まだまだへたっぴだけど、さくらさんのお手伝いをしているうちに一通りの料理は出来るようになってきたあたし。
 それに比べてリクの奴は中華料理でも作るみたいになんでも強火で炒めるからすぐ焦がす。

「ちょっとリクー! 油敷かないで焼いたら焦げるに決まってるでしょぉ!」
「うっせーなちんちくりん!だったらお前が作ってみろ! あちちち! わりぃ、ヴィス変わってくれ!!」
「……また?」

 せわしなく朝食の支度をしている間、あたしはいつものとまとでいれた。ちょっとだけリクのおかげもあるかもしれない。
 ヴィスくんは相変わらず、上の空だった。
 
 二人に焦げた鍋の始末を任せて、あたしはさくらさんの部屋に向かった。やっぱこういうことって女の子同士の方がいいよね。
 なーんて、あたしって気が利くなぁと思いながらドアを叩く。

「さくらさぁーん! 朝ごはん、つくりましたぁ」
  
 わざと元気な声を出した。いつものとまとでいれるように。
 さくらさんは入っていいと言ってくれたので、そっとドアを開ける。
 泣いてると思ったけど、さくらさんは微笑んでいた。やっぱりヴィスくんみたいにクマが出来てたし、かなり疲れた表情だったけれど。

「これ、とまとたちが作ったの?」
「そうですよぉ! 三人で愛情をたっぷり込めましたぁ。大変だったんですよぉ」

 すると驚いたことにさくらさんの瞳がどんどん潤み始めて、あたしは混乱してしまった。
 こんな反応されると思わなかった。全然、いつものオトナなさくらさんらしくない。
 ぐすぐすと鼻声で、さくらさんは言う。

「迷惑かけてばかりでごめんね。すぐ、元気出すから」

 あたしは、どうしていいかわからなくてその様子を見守るしかない。
 ほんとに、ここ数日で一体どうしてしまったんだろう。
 あんなにしっかりしてたさくらさんが、急にしおらしくなってしまった。
 あたしはつい、ヴィスくんとのもやもやも忘れちゃって、さくらさんの手を握っていた。

「元気出さないでいいです!」
「え?」
「聞かない方が良かったら、言わないでいいです! でも、さくらさん、最近どうしたんですかぁ?
 あ、あたしでよかったら教えて欲しいです……」

 なんだか自分の言ってることがめちゃくちゃだ。
 さくらさんが顔を上げた。目が真っ赤に泣き腫れていたけれど、それを細めてそっと笑う。

「なんだかとまと、変わったね」
「え!?」
「お姉さんになったみたい」
「そ、そうかなぁ」
「わたしね、……失恋しちゃったんだ」
「えっ」

 失恋って、みしらぬネコさんと……!?
 あんなにラブラブだったのに!? 

「ごめんね、それだけでこんな取り乱しちゃってさ。ほんと、もう大丈夫だから、ね?」

 大丈夫じゃないことくらいわかっていた。
 でも、さくらさんはすぐ周りを優先する。まるでワガママを言うことを悪いと思っているみたいだ。
 そんなの違うって思う。少なくとも、今まで頑張ってきたさくらさんは甘えていいんだと思う。
……なんて、こんなこと考えるようになるなんて、あたしも成長したなあ。

「さくらさん、無理しすぎです! もっとあたしたちに頼ってください!」

 さくらさんはまたよわよわしくだけど、笑ってくれた。よかった。
 だけれど次の発言で、あたしの調子に乗った心が一気に折れた。

「それ、ヴィスにも言われた」

 急にヴィスくんの名前が出てきて、あたしは思わず固まってしまった。
 昨日のことだ。
 あたしがショックを受けていることに気づいたみたいで、さくらさんはきまり悪そうに目をそらした。
 弱ってるさくらさんはいつもの余裕がどこかにいってしまってずいぶん口が軽いみたい。

「……ヴィスくんに、告白されたんですか」

 この部屋にいる間はヴィスくんとの問題を考えないようにしていたんだけれど、いきなり名前が出てきてあたしも抑えられなかった。
 ストレートに尋ねても、さくらさんは黙り込んだままだった。
 やっぱり、そうなんだ……。
 長い沈黙の後、やっとさくらさんは口を開く。

「……ヴィスとのこと、とまとが思っているような関係じゃないよ。
 ヴィスはただ、わたしを支えてくれようとしているだけ。それ以上でも以下でもないよ」

 そんなわけない。でも、さくらさんが嘘をついているとは思えない。めちゃくちゃ鈍いだけだ。
 さくらさんが大人らしく家族として見ようとしても、当のヴィスくんはそんな中途半端な感情を抱いてない。

「あたしがヴィスくんのこと好きって知ってますよねぇっ……」

 さくらさんは傷ついた顔になって、それで少し心が痛んだ。
 それでも、あたしの中の醜い部分は、すぐに暴走してしまう。

「なのに、どうして……?」

 こんなの八つ当たりだ。だからどう責めていいか分からなかった。
 ただ、幼いあたしはわがままなことしか言えなかった。

「……どうして、あたしじゃないの?」

 どうしてヴィスくんは、あたしのこと好きになってくれないの。さくらさんを、選んだの。
 これは昨晩からずっと考えて、泣き続けたことだった。
 あたしの中の汚いあたしは、理不尽だとわめき続けていた。
 さくらさんは人望も厚くて、村のみんなから好かれていて、なんでもできて、素敵な彼氏がいて。これ以上何もいらないじゃない。
 もちろん冷静なあたしはさくらさんが悪くないことを知っていた。
 そのまま、気まずくなって、さくらさんの部屋を出て行ってしまった。

 一人で怒って、泣いて、逃げてばかりだ。
 あたしって、本当に最低……。